第11話 中間管理職 ミスラ

 炎の中からゆっくりと小柄な女が近付いてくる。

 その姿は恐ろしいくらい端正で、体毛が白いのか銀雪のような長い髪と大きな羽。

 天使か !? 嫌な予感が……ケルビムの時のトラウマがある。

 美人と言うより大人しめで可愛らしいタイプだと思う。大きな書物が背に張り付くように浮いていて、服は薄布一枚の露出魔なのに何故か中性的でエロく見えない。


「……えと、蛾がなんです ? 」


『えっ !? 蛾っ !? わたし、蛾って言いました ? 』


「モスラですよね ? 」


『モスラ…… ??? では無いですね ???

 え ? わたし、モスラですかね ? はぁ、そうですね…… ??? 』


 よく分かってないのに肯定すんな。お前はモスラじゃない。


「多分、天使ですかね ? 」


『あ、そうですそうです ! 天使なのですよ ! 』


 そうでしょうね。


『わたし、善神 ウルスラグナ様の元に仕えております、ミスラと申します〜。よろしくなのですよ ! 』


 ゾロアスター教関連か !

 とはいえやっぱりテンションが高めなのは、最早天使のデフォだな。

 アフラ・マズダーも、あれはあれで常時ミュージカルだったぜ ?


「はぁ……どうも。

 いや、今それどころじゃないんだ……」


 悠長に喋ってられないんだけど……。


『御安心下さい。御守りをお持ちですね ? 』


 御守り ? ……この鳥の彫り物か。


『こちらは持ち主が命の危機を感じた時、一度だけ発動する契約なのです !

 それで、わたしが派遣されたのですよ〜』


「契約 ? 母さんがそう契約したのか !?」


『お母様 ? お待ちください』


 ミスラは背にあった分厚い書物を、目の前にスライドさせると、パラパラ開いて指でなぞる。俺には読めない文字だ。ミスラは分かるようで、数ページ捲ったあと首を縦に振る。


『……えぇと。はい、確認取れました。間違いございません、お母様のされた御契約なのですね』


「母さんはやっぱりゾロアスター教徒だったのか ? 何か特殊な力とかあったのか !? 」


『あわわ、信者様であったことは間違いないですが……お力については分かりかねます』


「そ、そうか……」


 あぁ、でも。間違いなく信者だったんだ……。

 特定の宗教の信者でも、霊能者なんかに入れこんだりするものなのか ? それとも、だからこそ騙しやすいのか… ?

 いや。ナイーブになるのはやめよう。少しずつだけど、進んではいるんだ。


『それでですね。わたしの上の者が、いくさの善神なのですよ。なのでこの度は霧崎様に勝利をもたらして来いと言わているのです、お任せ下さい ! 』


 胸を張るミスラだが、つまりパシりってこと ?


「あんた天使だよな ? ……ゾロアスター教の神の中でも上下関係があるのか ? 」


『ありますよ ! アフラ・マズダー様を筆頭に強力な神々と、中間管理職である『ヤザタ』という部署がありまして、わたしはヤザタの最高神でもあるのです』


 アフラ・マズダーが会長で、他の社長クラスの連中が数人がいて、ミスラが部長みたいなものか……。


「あれ ? でもゾロアスター教って、アンラマンユって言う悪神の会長もいるよな ? 」


『そうですね。その場合は、同じメーカー会社でも工場が違うみたいな物です』


「急な会社の例えに付いてこれるってことは、現代の人間にも結構詳しいのか ? 」


 他の天使は、何となーく原始的なイメージあるけど。


『まぁ〜わたしの場合は、キリスト教からの実習生でもあるのですよ〜。なので、ある程度の人間の研修は受けています』


「キリスト教から実習生 !? そんなの有り得んのっ !?

 宗教同士ってそんな仲良いの !? 人間は宗教で戦争してるのに !? 」


『モノにはよりますけど。人間に混同されているような神は、紛らわしいので統一され気味なのですねぇ、最近は。

 ほら、ダキニ様と宇迦之御魂神うかの様も、揃ってお稲荷様でしょう ? 』


 あれは、別じゃね ? みんな多分、分かってる気がするけど。


『それに今は天使は職業ですからねぇ。

 わたしミスラは、メタトロンも兼任なのですよ。以後お見知り置きをお願いするのです』


 メタトロン自体はゲームとかで聞いたことある。結構偉い天使だった気がする。けど、具体的になんの守護天使なのかも、神なのか天使なのかも知らない。


「で ? ……大怪獣バトル・モスラ ? 」


『中間管理職 ミスラです……』


「助けてくれるの ? 」


『あぁ !! そうなのですよ。一気に敵を殲滅しましょう !!

 では早速 ! 簡単な聴取の後に ! えっと……では、初体験はいつでしたか ? 』


「……え ? 何 ? 急にどうしたっ !? 」


 いつもお使いの技は ? とか、そういうんじゃねぇのかよ。


『あれ ? 以前お会いした人間が、これを言えば場が和むと言っていたのですよ ! 』


 ほらぁ〜。天使って禄なの居ないんだよ〜。どこのどいつだよ、そんな事教えるやつ〜。


「ってか、その教えたやつにイタズラ吹き込まれたんだよ ! ってか、度胸あるなソイツもっ !! 」


『ガーン !! じゃあ。もしかして鞭とかロープも要らないんですか ? 』


「……突然そんな物使う奴、悪魔っすよ……」


 うん。これはダメ子ちゃんだ。

 な〜んでそんな薄着の露出魔なのにエロく見えないかって……身体中に付いた武装だよ。露出に武装って……ランボーじゃん !


 こりゃキリスト教から他の宗教に勉強に出されたダメ子ちゃんだ !!

 こっちが誘導しないと進まねぇぞ…。


「じゃあ……俺の武器の召喚について教えてくれねぇ ? 」


炎銃えんじゅう ほむら !

 そうそう、いつもは火からTheENDをお使いですね ? 』


「ああ」


『それは我らが最高神アフラ・マズダー様が炎と光の神だからなのですよ。

 そして、悪魔を消せるのは聖なる力があるからなのです、ムフフ』


 TheENDが聖なる力って事か ?

 でも、トーカのは悪魔が教えこんだんだよな ?

 だが、どうだ ?

 女スルガトをミアが召喚した時、あの女はミア自身に悪魔を殺らせた。決して手取り足取り教えた訳では無い。更にトーカは魔女でありながら信仰心は捨てていない。


「宗教や信仰心と、TheENDと言う能力は全くの別物…… ? 」


『はい。TheENDとは聖なる力を使い攻撃する技ですので、どんな宗教を信仰していても関係ありません』


「俺みたいな、信仰心が薄い場合は ? 」


『今までの前例からしますと、多少召喚しにくくなったり、弓なんかですと飛距離が縮んだりというのはありましたね。

 極端ですが、TheENDを使う、と言う事だけが目的でしたら、聖なる力さえあれば可能なのです』


 信仰によって性能差が出るって訳か。

 じゃあ、今までアカツキで何度か召喚しようとしてみても焔以外出せなかったのは……信仰心のせい ?


『急に信仰心を持てと言われて信仰するのは無理でしょう ? なので、わたしのようなものが実際にお会いすることで、まずは存在を認識して欲しいのです』


 確かに。不可視な者を信じろと言われるより、性に合ってるけど。

 この子に対しては不安しかない。


『わたしも一応、善神の一人なのですよ。ただ、上の者がおりまして、それで天からの使いなのか申しますと、天使なんでしょうかね ? 』


 俺に聞くんか ?


「いや、神……で、いいんじゃないっすか ?

 そのウルフ何とかって、上の神上の者に聞いたら ? 」


『ウルスラグナ様です、霧崎様。

 何せとても男性神でありながら美麗で崇高で聡明な方なので、気軽には……。もう、推し過ぎて神ですよ ! 神なのですが、神なのですよ !!

 あ、アフラ・マズダー様には内緒ですよ !? 』


 やめろ。その言い方は不味い。最高神のアフラ・マズダーが好みじゃないですって言ってんぞ、この子 !! 俺を巻き込むな !!


「で ? 俺、今追われてんの !! 戦い方教えて ! 負けるぞマジで !! 」


『はわわ、そうでした !!

 コホン。見てください。あの地獄の炎は神の怒りなのです。ゲヘナの様に、神の御力で悪魔や罪人を焼き捌いているのです』


 あれって、悪魔が焚き火してるんじゃないのか。神様がそういう土地を創ったってことか。

 だよな悪魔が自分から燃やしてたら水源まで絶やさないよなぁ。


『となると、あれは聖なる火ですので、原理的にはTheENDを使えます。けれど、あの火に手を入れて召喚となると、熱いですよね、火傷ですよね ?

 ではあの火の光はどうですか ? 』


「光 ? 」


『聖なる火から出る光源は、聖なる光です』


「机上の空論はそうかもしれないけどさ……エクトプラズムは関係ないの ? 」


『エクトプラズムは武器の大きさに比例します。信仰心が強く、エクトプラズムを多く出せれば、より大きな精度のいい武器が召喚できると考えてください』


「まじか !! 」


 ずっとTheENDはエクトプラズムだけに依存した異能力だと思ってたけど、違うんだ。

 でも、信仰心信仰心かぁ〜。

 よりによって霊能者だのなんだので、一家離散した俺が、今やオカルトな職で更に信仰心がねぇと技が上達しないなんて……。


『霧崎様、あの光はここまで届いているのです、ここ、明るいのです ! 』


「そ、そうだね」


『でしたら、出来るはずです !

 周囲の光から、武器を召喚できませんか ? 銃が無理なら、棒からでもいいですよ ! 』


「ちょ、ちょっと待って、やってみるから。ダメかもしんないから、まだ居てくれ」


 自信ねぇ !


『はい〜』


 集中。集中。


 ど、どこに集中すればいいんだ ?

 銃 ! とりあえず焔を出してみる ?


 手のひらに、光……周囲の分散してる光を集めるイメージ…… ???

 こう、周りの光が…… !

 うーん。光って言われても電球とかじゃなくて、周囲全体が明るいから集めるってイメージが湧かない……。


 その時、足元の砂がモコっと動く。


 ガバサァーッ !!


「見ぃつけたぜっ !! 」


「うわぁぁぁっ 黒瀬っ !! 」


 やばやばやばっ ! !


 早よ !! 早よ召喚しなきゃ ! 攻撃 !! 攻撃 !!

 銃なんて無理だろ !! 棒切れでいい !! 棒でいいから !! なんか、道具 !!


 ドクンッ…… !!!!


「……っ ! ?」


 キィィィ……ン……


 なんだこれ、頭が急に……。

 雲が晴れるようにスッキリして……。


 俺はボンヤリと無防備に立ったまま、光満ちる上空を見上げる。なんか、気持ちいい。



 いや、ちがう !

 意識が持っていかれてるんだ !

 当然だ。今までライターの小さな火で召喚していたのに、突然こんな大きな火種で力を使ったら…… !

 凄まじいエネルギーの蠢きを感じる。

 すげぇハイな気分だ。

 自分でもう、何やってるか分かんねぇ……。制御が出来てねぇ気がする。


 召喚……手を高く挙げる。

 頭の上に浮いてるの……なんだアレ ?

 剣が……火で燃え盛った剣が……。


 何本も……。


 何十、何百も……。


『射て !! 』


聖炎剣ホーリーフレイム 千紫万紅せんしばんこう


 空高くから猛烈な勢いで突き落とされる、無数の刃。

 何百とある剣がスピードを上げ、空を切り裂くとんでもない爆音。

 まるで空襲のように、不気味な風切り音を上げて地面に降り注ぐ。


「あわわわ」


 ふと我に返る。

 黒瀬って、もし倒しちゃったら、俺やばいんじゃないの ? 一国の王だろ ?

 でも、殺らないと俺が殺されてた。


「黒瀬っ !? うっ、ゴホゴホ ! 」


 轟々と燃え上がる炎の剣が、歩く場所もないほど地面いっぱいに突き刺さっている。ヤバい。本当に使いこなさないと、味方まで殺っちまうぞ、これ。


 燃え盛る地面を歩き、黒瀬の姿を探す。


「……うっ……」


 黒瀬は全身に炎剣を串刺しに刺されたまま、その場に倒れも出来ずに丸焦げになって絶命していた。


『うーん。随分大味な技ですね。もう少し練習すると、違うのですよ ? 』


「……やべぇよミスラ。ヴァンパイアの王族……殺っちまった」


 顔面蒼白。

 自分で体内の血液がギューンと下がるのが分かる。


『あぁ、この方は闇の一族の ?

 でしたら、大丈夫なはずですよ』


 大丈夫って……完全にもう身体崩れ始めてるけど……。


「てぇめぇ〜っ !! 」


 ガシッ!!!!!


「ぎゃーっ !! 浮かばれない黒瀬ぇぇぇっ !! 」


 地面から手が出てきた !!

 と言うか、地面に写った身体の影からだ。


「死んでねぇよっ」


 ズブズブと水底から這い上がるように地面へ姿を現す。


「えっ !? えぇっ !? 」


 じゃあ、この身体はっ !?


「あっ !! 人形 !!? 」


 身代わり人形か !!

 よく見ると、カカシだ。黒瀬が着てそうなカジュアルなシャツを着ている。


『ヴァンパイアの黒薔薇さんですねぇ ? なかなかやりますねぇ !

 まぁ〜降ってくるまでのラグがありましたもんねぇ』


「あぁ ? ケッ 偉そうに口だけ達者な奴だな 誰だよコイツ」


「中間天使職 ミルムさん……だっけ ? 」


『中間管理職 ミスラです ! メタトロンと兼任で、ゾロアスター教の善神でもあるのです ! 』


「つまり、営業できた部長さんみたいな」


『あぁ !! 部長を馬鹿にしましたね !? 安全で健全だから任せられる重役なのですよ !? 』


「メタトロンとミスラ〜 ? あぁん ってこたぁ おめ〜ウルスラグナの配下か ? 」


『そうです ! 』


「ケッ 別にいいけど 何 なんでここにいるんだ 今こいつの根性ボコボコにしてる最中だったんだけど」


「嘘嘘嘘嘘〜っ !! 絶対殺す気だっただろ !? 」


「そんときゃ事故だけど なんか切羽詰まったら 召喚すんじゃねって思ったし 出来たんじゃん」


「これはたまたまミスラの支援があったから !!

 おかしい ! やり方が !! 殺されかけてどうにかなるのは、せいぜい火事場の馬鹿力くらいだよ !!

 技術が突然上がるわけねぇじゃん !! 」


『まぁ実際上がりましたね。確かにこれでは30点と言う所でしょうが。

 はっ !! こ、これは不味いのです !! 敵は戦闘不能になっていないし、状況が変わりました !

 大勝でなければウルスラグナ様にドヤされるのですよ……うぅ』


「俺のせいかよ……。

 だって、どうすんのか分かんねぇんだもん ! 銃以外召喚した事ないし、火種からしか出来ねぇし、ライターはスラれるしよ」


 黒瀬を睨む 。


「今はどうなんだ ? もう一度出来んのか ? 」


 今…… ?


 ジャキン !!


「あ、出た。剣。なんかコツが分かったら普通に出るわコレ」


「おう 良かった良かった じゃライター返すわ」


「あ、はい。

 あ〜びっくりしたぁ〜。やめて下さいよ。マジで殺しに来たのかと思いましたもん……」


「ばーか 殺す気ならもう殺ってるだろうが 」


 それもそうか……。


「じゃ 訓練代 夏に桃一箱な」


「え〜、急に桃っすか ? キュウリでいいじゃないですか」


「桃とかブドウは 客用だな あれはあれで水々しいが 食べにくい 考えろよキュウリのフォルム もうイッちゃって下さい我々を〜って言ってるよな ? 」


「スティック状ですもんね。あ〜そっか。トマトとかだと手がベタベタになるか……。キュウリなら折れても食えるし 外で食うにも最適なんすね」


「んだんだ じゃ 戻ろうぜ」


「そっすね」


『にゃにゃにゃにゃっ !! 』


 立ち去ろうとする俺たちをミスラは半泣きで引き摺り止める。


『ちょっとちょっと !! 二人は戦ってたんじゃないのですか !? 』


「戦ってた……けど。もう終わったし」


「言ったろ 模擬戦だよ こいつ実際弱かったし アンタも見てたんだろ」


「いやぁ……それにしても黒瀬さん、予想以上に強かったっすわ」


「だろー ? 」


『模擬戦っ !? それじゃ契約と違うのですよ。

 命の危機の時、ってわたしが、こう美しく舞い降りる契約だったのですよ。

 なのに……まさか戦じゃなかっただなんて !! 』


 そう言われても……。


「あ〜。いや、俺は割と本気で殺されると思ってたんだけど……。黒瀬はそうでもなかったみたいっていうか、あわよくば殺されてはいたとは思うし……どっちだろうな ?

 でも、美しかったよ、うん。ミスラ、美しいは合ってるからいいじゃん」


『良くないですよぉ。模擬戦なら契約と違いますもん』


 俺が黒瀬に目配せすると、黒瀬は黒瀬で「うーん」と考え込む。


「殺意があったかって聞かれると 半々だな 俺はコイツがどこまで出来るのか腕試ししただけ 俺が負けることは無いし。

 でも 正直TheEND持ってるなんて奴は人間の世界に要らねぇとは思う 殺せなくて残念ではある」


 俺のアイデンティティが不要とは……。


『どうしよう……。一度出たら、私がまた出る訳には行かないのですよ……。でもそれだと契約内容と食い違いが……あがががが……ウルスラグナ様に怒られる。これでは契約者のお母様にも申し訳ないですし……』


「……大変だな。中間管理職」


『はぁ……帰ったらロープで縛られて、鞭で打たれながら蝋を垂らされるかも知れません〜。わたしはどうずればぁぁぁ〜』


 それが本当ならドン引きだよ、戦の神。楽しんでんじゃねぇか。


「ケッ」


「じゃあ、もう命の危機の契約はいいからさ。

 情報と交換しねぇか ? 俺の母親のこと、なんでもいいから教えてくれ。

 ゾロアスター教徒関連のことなんて、全然教えられてなかったんだ。俺だって知る必要があるだろ ? 」


『……え、ええ。まぁ、知ることで信仰心に繋がるなら……。

 あ、でも ! い、一度、上の者に確認を取って参りますので……』


「ああ。なんか……ごめんな。

 俺的には命の危機感じてたんだけど……違ったみたいで」


『………スン…スン……いえ、召喚が上手くいってよかったのです……。

 では、今日はこれでおいとまします……』


 ミスラはショボショボとしながら、炎の中へとぼとぼ消えていった。

 なんか悪い事したかなぁ〜 ?


「ケッ あれが天使とか世も末だ」


「……ですね……」


 いやいや、そもそも模擬戦と言いながら完全に俺をヤリに来てたからな黒瀬。ミスラに罪はねぇよ。

 それに、TheENDの召喚もコツが分かったし。


「つぐみちゃん待ってんだろな」


 黒瀬が薔薇を取り出し、空中にサッと円を書く。


 空間が歪み、ガバッと開く。隙間から見えてるのはつぐみんがいる、城の城壁だ。

 黒薔薇特有の移動魔法だ。俺と黒瀬はその裂け目から、城へ戻った。


 つぐみんがキュウリの入ったツールポシェットを黒瀬に渡す。


「お疲れ様。途中から一人増えたけど、誰だったの ? 」


 俺が答えるまもなく、黒瀬がつぐみんの前へ出る。


「キュウリ キュウリ〜。

 地獄の管理人が来た こいつが面倒なことに 第一層に近い場所まで行ったから 出てきたんだ 話たら分かってくれたよ」


 これは……ミスラの事をつぐみんに言うなってことか…… ?


「お、おう。それにやっぱ黒瀬さん強かったのなんの」


「早すぎて見えないくらいだったわ。完全に先を読まれてたわね」


「あ、ああ。手も足も出なかったぜ」


 黒瀬がそっと耳元で呟く。


(今まで通り 銃だけって事にしておけ 必ず役に立つ 誰にも言うな)


(はい……)


「さぁ帰った帰った 俺も人間界に戻らねぇと 仕事押し付けられちまうしな」


 聖なる力から使えるってことは……。聖水や十字架でもエネルギーを抽出出来るんだよな。今は何となく分かる。

 ポケットの中で握ったライター。

 いつかこのライターのガスが無くなったら……それが不安だったけど、多分ライターがアイテムなんじゃない。このライターのカバーだ。アフラ・マズダーが刺繍してある、エスニックなライターカバー。

 これが聖なる力の元だったんだ。


「考え事 ? 」


 姿見の前に立ったつぐみんが心配するように、覗き込んでくる。


「ん。大丈夫。そんな深刻なことじゃねぇから」


「そう ? じゃあ帰りましょうか」


「ああ」


 俺たち二人は、それぞれ鏡を抜け、自室へ戻った。


 ズブズブ……


「たぁらぁいまぁぁぁ〜」


「コケーーーーっ !!!!! 」


 エレベーター横に姿見として置いた、大きな鏡から這い出してくる俺を見て、ジョルが気を失った。


 ガターーーーーン !!


「やべ、おい !! ジョル !! 俺だっつの !! 」


「オキュ……怨霊……鏡……オキュ……ラス……うぅぅっ 」


「悪霊じゃねぇよ ! 俺だっつの !! おーい ! 」


 ダメだ。全然起きねぇ !


「はぁ……。疲れた。俺も昼寝するか……」


 時間が一時間くらいしか経ってない。体の感覚は一日中ヴァンパイア領土にいた疲労はある。

 ジョルは運べないから、毛布を掛けてやろうとベッドの上から持ち上げる。


 カランカラン !! コンッ !


「なんだっ !? 」


 ジョルの寝床には、どこから集めたのかパワーストーンや針金ハンガー、ビー玉、ビールのプルタブがゴチャゴチャ乗っていた。

 こいつ、まだこの癖抜けて無かったのか……。

 ……どいつもこいつも……めんどくせぇ…………。


 ジョルに毛布を叩き付けると、俺は自分のベッドへと向かった。

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