第12話 不信感

「これからか ? 順調か ? 」


 日曜日。これから華菜さんの自宅に伺うって時にセルが声をかけてきた。

 ジョルにはとにかく何も悟られるなと、俺の方が言われる始末。


「ぅ、おぉ。今日はワゴン借りるぜ」


「ああ。

 トーかも行くのか ? 」


 今回は結局なんだかんだで同行者が増えてしまった。


「どうも依頼人の自宅に不審点があるのですわよ。あるじの管理外のゲートが存在してるらしいのですわ」


「そうか……。どうしても管理はしきれないものだからな。分かった。

 お前は ? 」


 セルが向ける視線の先には、少し年齢層が上の女性の流行服を着たみかんが。


「なんかリーダーに呼ばれたから来た ! 」


 何故にみかんなのか……。トーカに「役にたつから」と押し切られてしまった。

 確かに『RESET』ならあの子供は助かる。

 ならば問題は母親の方かと。母親の生霊をRESETしたらどうなるか……聞いて驚いたね。

 現実の母親が死んでしまう。生霊はそれほど本来とも根深いのだそうだ。

『RESET』。無条件でどんなものも浄化し、悪鬼悪霊、悪魔ですらその魂を天へ導く能力。一見、凄い回復魔法のように聴こえるが、生霊に使うとなると……。それは出来ない。


 ハルピュイアとの交渉の時に、あれだけの怪鳥がみかんを禍々しそうに見たのは今ならわかるる。

「RESET」は凄く単純な仕組みで、術者の意思ひとつで手加減を出来ない。故にセルもだ。

 多分だけど、「RESET」と「TheEND」。「RESET」の方が格上の異能力なんだろうな。


 ……となると、今日のみかんの仕事は…… ?


 ジョルはぼんやりと電線にいる雀の集団を見上げている。あいつも落ち着かねぇんだろうな。


 トーカから離れ、セルがジョルに顔を向けた。


「へぇ。いいじゃん。やっぱりスーツは自分に合ったの選ばないとな。

 凄いらしく見えるぜ」


「コケコっ ! あ、そ……そです。買って貰いましたス」


 すげぇ動揺してんじゃねぇか。


「今回の仕事終わったら、給料も工面できるからな。頑張って来いよ」


「お給料 !! 」


「ああ。ユーマの監視でルシファーにお使いされてるんだから、お前に給料が出ればいいのにな。契約書にも書いておくんだったよ」


 冗談交じりにヘラヘラと笑うセルの会話を遮断するように、トーカがワゴンのドアを閉める。


「準備OK。行きましょう。みんな乗って」


「はーい。行ってきまーす」


「行って来マスです」


「……」


 セルは一度も俺に接触して来なかった。いや、俺が避けてたんだな。

 ホッと胸を撫で下ろす気持ちだよ。


「じゃな」


 とりあえず一言だけ声をかける。セルもまた小さく頷き、「ああ。頼んだ」と答えるだけだった。

 セル……お前、何か隠してるのか ?


 ダメだ。とにかく今は集中。

 依頼人の事だけを考えろ !!

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