第3話 ドライブ

 必要な荷物を入れたキャリーケースをひいて愛車の前に行く。既にジョルは待機していた。黒のスーツを着たジョルの姿は、より一層ヒョロ長く見えた。脚は長いけど、なんの筋力も無さそうに見える。まさに鶏ガラ。

 んで、コートは一緒に貸して貰えなかったんだな……笑える。セルってケチン坊だよな !


「寒ィ〜っ!! なぁ〜早くエンジンつけろよぉ ! 」


「んな、急かすな。安全運転だ」


 俺は後部座席にキャリーケースを突っ込むと、御要望通りエンジンをかけて運転席で飴を口に放り込む。確かに冷える。昼間とは言え、もう十二月だからな。


「っんだよ ! すぐ行かねーのかよっ」


 ジョルはガタガタしながら肩を強ばらせて、不満気に俺の行動を伺う。雪の量は分かんねぇけど、気温は関東とそう変わらない気がするな。


「暖気してから走んだよ。この年代の車は傷むんだ」


「なんだその不便さ。うぅ……寒……」


 母さんが元気だった頃乗っていた車だ。お古って言うか、中古って言えば聞こえはいいけど。俺の僅かなバイト代で、車なんか買えるはずもなく。車検切れで放置されていたのを譲り受けた物だ。ちなみに親父は人の気も知れず、女の金で新型の車を取っかえ引っ変え乗ってる。


「MAZDAR ? まー…ずー……… ? マズダー ? 」


 ジョルが車のハンドルにあるエンブレムのロゴを口に出して首を傾げる。


「マズダーじゃなくて、マツダーだよ。車のメーカーだ」


「マツダー ? んん ? スペルおかしくねぇ ? 」


「え ? 」


 いやいや。マツダーって昔からこうだから。そんなの一般常識なんだけど。ってか、ジョルにはデフォルトで中途半端な知識が入ってた。一体、人間の事を何をどれだけ理解してるのか……把握出来ない。服の着方も分からないと思えばナイフとフォークは使えるし、だからといって食事のマナーが良いでもなく。だが、これで日本語、外国語も読めるのは把握出来た。俺がアカツキやクロツキで外国人の霊と話が出来る原理と似てるんだろうか ? ルシファーが与えた力が影響してるのだとしたら、トーカが描いてるルーン文字も読めるのかも。


「スペルなんて……なんでそんな事気にするんだよ」


「だってだってあんた、アフラ・マズダーの加護があるだろ ?

 アフラ・マズダーだったら確かに、スペルはMazdarになるからさぁ」


「マジで ? 」


 そんな事考えもしなかった。

 つぐみんからゾロアスター教信者は意外と多いとは聞いてたけど。


「ん〜。あれもそうだったのかなぁ〜。ほら、店のキッチンにもある瓶で……。え〜と。毒物みてぇな匂いがするやつ。酸っぱい……ウッてなる臭いの。ミズ…… ? ミツカ…… ? 」


 ああ、お酢メーカーか。確かにあれも表記はtuじゃなくてzだったな。

 どーだろ…… ?


「流石に関係ないと思うぜ」


「いやいや。ゾロアスター教だろ ? 信者って多いらしいぜ〜。それに、そういう大成者のオカルト人に、俺みたいなのがドナドナされてんだよ」


「畜産動物の契約か。

 クズ崎先輩に連れられて行ったあの空間……不思議だったなぁ。アカツキなのに……人間の世界とも地獄とも違うし……」


「アレレ。そりゃそうだろ。あそこ霊界だし 」


「霊界っ !? えっ、何 !? 俺、一瞬死んだの ! ?」


「いや、ほんと一瞬だろ ? 今、生き返ったし」


「嘘っ ! 死んだの ? あの世に行っちゃったのっ !? 」


「んわぁ〜うるせ〜 ! なぁなぁ、早く行こうぜ〜」


 怖えよっ !! でも、確かにあの空気は今までと違った。天国って感じでも無かったしな。あそこの女性達は、まだ生きてる鶏だから半分幽体離脱で営業してんのか ? 逞しいものだな。ムッチさんも取引が手馴れてたもんなぁ。


「ま。俺ァ……鶏に産まれてたとしても数年の命だかんなァ。アンタを観察してるだけで人間として生活出来んだ。この契約はマシだ。自分の意思でどうにかなる命。

 最も、あんたの命令は俺ァ絶対なんだけどよ」


「俺は奴隷を買ったわけじゃない。心配すんな。

 ……それよりさっき気になったんだけど、お前にとってお酢は毒物とカテゴライズされてんだな。プププ」


「笑ってんじゃねぇよ本能だよ。人型でいる以上、人間の食べ物食うけど……刺激があるものは食い慣れねぇんだよ」


「我慢だめしみてぇな食い方しなくてもいいだろ。気に入ったもん好きなだけ食えば ? 」


「アンタが酢の話振ったんだろ ! 」


「そでしたね」


 俺が気軽に返すと、ジョルも安心しきった様子だった。そして徐ろにポケットからピアッサーを取り出した。それ、今やんの ?


「確かに ! デb……大福の飯は美味いし、つぐみんも優しいし ! 」


 トリめ……。どーにもこいつの好みはつぐみんらしい。懐いてんなぁ。別に。別にいいんだけどさ。他意を感じるよなぁ。


「なぁなぁ、ミラーこっちに向けてくれ〜」


「自分でやれよ」


 それにしても、車かぁ。ジョルが言うような事が通用したら、MAZDAR車を持つ人間は全て御加護がついてくるって ?

 んな事あるわけねぇよなぁ ?

 ま、確かにあの時。あの神殿に導かれた時は……俺はアフラ・マズダーに「いつもゾロアスター教を信仰してる」と本人に言われた。でも、それが車とは思えねぇ。車持ってるやつ皆、信者になっちまう。


「車は関係ないと思うけどなぁ……」


「そうか ? 俺ァピンと来たけど ? アンタなんでこのメーカー選んだんだ ? 偶然じゃなくて、必然だったのかも〜」


 選んだのは母さんだし。

 思わず、内ポケットに手を入れてライターを握る。

 母さんの遺品はほとんどない。親父が整理したってのもあるけど、あの霊能者が断捨離だとか、悪い気が溜まるとかで、身辺整理をするように常々言い聞かせてたんだ。母さんとの繋がりって、ライターしか道標が無いと思い込んでた。

 けれど……ジョルの勘が当たっていれば、車体のどこか……整備士でも見ないような、どこかに何か……。


 ジョルは『目』だ。こいつのいねぇところでやろう。

 ジョルと過ごして、俺には全く害は無かった。一応、契約書通り、ルシファーへの報告義務はあるらしく、記憶を知識玉固形にしてみかん経由でルシファーの手に渡っている。今のところルシファーも観るだけで、俺に直接何かを仕掛けてきたりはしないようだ。


「って言うか、お前アクセサリーつけ過ぎ。家にあるモン全部着けて来ましたって感じに見えるぜ ? 」


 ジョルは服を着るという概念を理解すると、最終的にハマったのが装飾品……貴金属の類に執着した。その中でもピアスは躊躇いもなくパチパチと増やして両耳とも刺々しくしている。


「キラキラしてていいじゃん。オレ ! 大好き ! 」


 針金ハンガーキックや、閉まってる硝子ドアに突っ込んだりはしなくなったけど……なんかビミョーに鳥の習性が残ってんだよなぁ……。


「じゃあ〜、じゃあさ〜。アフラ・マズダーとコンタクトをとる方法は無いのか ? 直接聞きゃいーのさ」


 簡単に言うなよ。


「呼ばれたのは二回だけ。だいたい神様ってそんなホイホイ会えるもんじゃねぇだろ ?

 あと……あの神様なぁ……。なんかテンションが違うっつーか。

 俺と話した時は会話も一方的で……」


「分かる。神とか天使ってそうだぜ。雲雀さんが言うには、俺たちとは感覚が違うからって」


 なんでクズ崎先輩は雲雀さんって呼ぶのに、大福にデブとか言うんだコイツ。それに産まれてからちょくちょくムッチさんに会いに里帰りすんの辞めて……俺の罪悪感パネェから。


「神はさぁ ? 人間に祝福があれば皆、世の中はに廻ると思ってらぁ。苦痛は越えてなんぼみたいなさぁ。納得いかねぇよなぁ。

 で、お祝いにチキン食べんだろ ? 」


 幸せシヤワセねぇ。


「安心しろ。世界中の人々全員がなクリスマスじゃないぜ。

 少なくとも、今から行く家庭は……不幸まみれの気の毒さんだし」


「oh………確かに〜」


 信仰だけで人はシヤワセにはならない。それは自分の考えなのか、ルシファーの入れ知恵なのか…… ? 俺も同意だけどね。


「よし、行くぜ。シートベルト」


「うぃ」


 話も程々に、俺達は移動を開始した。


 *********


「ひゃははははっ !! 早ぇぇぇっ !! 」


 キュキャキャキャッ !!

 ンヴォーグルルルルルッ !!


「あんまり乗り出すなよ ! 頭吹っ飛ばすぜ ! だはははっ !!」


「俺の鶏冠はヤワじゃねーぜぇぇぇっ ! ! 」


 久々に野郎とドライブ。容赦無くエンジンをぶん回す。


「クソっ ! シートベルトさえなかったらな ! もっと空気が食えるのに !

 このスピード ! サイコーだなっ ! !」


「だろーーーっ ! いっぱい食っとけ空気 ! なははははっ !!」


 ************


「はいお兄さん。免許証ね。出してね」


「ハイ……」


 二分後、俺は二人のおっさんに車から引き摺り降ろされ、路上で取り囲まれた。


「今は仕事中かい ? 」


 俺とジョルはスーツを着込み、鶏冠をかしたジョルの真っ赤な地毛は、黒縁の眼鏡の雰囲気でカバーしてみた。ちょっとでも真面目に見えるといいなって着けて来たんだけど。

 まさか辿り着く前に、こんなことになるとは……。


「あ、いや……まぁ。今は休憩中で……テンション上がって……」


「あのね。自分だって怪我をするし、彼も怪我をしたら、ごめんなさいじゃ済まないんだよ ?

 もしもの事があって、責任なんて、簡単にとれないんだよ」


「ハイ……」


「分かったかい ? 」


「ハイ……」


「じゃあ、これでお終いです。安全運転で ! 」


「ハイ……」


 調子こいた。罰金高ぇ……。あ〜あ。


「今の奴なんだ ? 」


 ジョルが立て膝で助手席からリアガラスの先のおっさんらを見つめる。


「何って……警察だよ。警察。人の社会で……ルールを守らせてる職業の奴」


「神や僧でもないのに、説教するのか ? 偉いのか ? 」


「偉いとか、じゃないな。そういう役割なんだよ。

 悪人はあいつらに捕まる。悪魔は俺に捕まる。そーゆーこと」


「へ〜。車でスピード出したら悪人なのか」


「おい、あんまりジロジロ見るなよ」


「だって、同業者じゃないんだろ ?

 あの色付き眼鏡の男……まずまず霊力強ぇんだよ」


「ありゃサングラスって言うんだよ。……それにどうでもいい……俺にはなんも視えん。俺、アカツキにいかねぇと、そんなに霊能力は強くないんだよ」


「エクソシストなのにか ? 」


「セルの話じゃ、色々タイプがあるんだってよ。でも、俺は一応珍しい能力者なんだぜ ? 」


「うわぁ〜うわぁ〜、自画自賛 ? キメェ」


 キメェってなんだよ ! くそ〜。

 はぁああああ…………スピード違反か……。こいつがおだてるから !って……いや、やっぱ自己責任だな。うぅぅ……やっちまった。


「よりによって依頼人の家に行く途中で……。お前、セルに言うなよ」


「お、おう。

 依頼人の家はまだなのか ? 」


「もう少し先だけど」


 海辺からそう遠くない場所に、俺たちは停められていた。


「じゃあじゃあさ〜。なぁなぁ。あんた、アレ視える ? 」


 ジョルは漠然とした海の方を指差しながら尋ねてきた。

 天気は快晴。雲ひとつ無い青空にポツリポツリ存在する船。波は静かだ。何も変わったところは無い。


「アレって ? 」


「あの膜だよ。結界だろ、アレ。うちの店の入口に板があるだろ。あそこの結界の色と似てるし」


 俺には店のコンパネは視えるけど、それに色なんか視えない。今ジョルが言う海の方にも、何も視えないけど……。でも、あるとしたらなんであんな方向に結界なんて…… ?


「結構大きいのか ? 」


「おう。すげぇぜ。海と陸の境目に……ずっと北の方まで続いてる」


 店の結界は『悪意ある存在を遮断する』のが特徴だ。悪意さえ無ければどんな悪魔や霊体も通ってこれる。


「ああ……あれかもな。昔、災害があったんだよ。かなりデカい災害でさ。心霊話も当時は凄く多かったらしいけど。

 でも実際宮城に来てみたら、別に悪霊とか視えないけどな」


「災害……な〜るほど。南無〜」


 ジョルには俺が視えない物が視えてるんだな。動物って視えない世界に関しては柔軟で、人より敏感なのかもな。

 霊力には得意分野が存在する。ジョルがどんなタイプなのか、気になるところだ。

 走り出してからも、ジョルはずっと海の方向を視ていた。

 しばらくして、入り組んだ住宅地へと入る。スマホのナビで確認しながら、依頼人から指定された月極駐車場に車を停めた。


「あそこの家だ」


 エンジンを切って、もう一度依頼人の便箋を広げる。フロントガラスの先に、依頼人の家の外観がここから見えた。


「遠目で異常は確認できないな」


 特に何も感じない。憑き物のいる家は視れば大抵、こっちに干渉してくるもんだけど。今のところ霊や悪魔の姿はない。聴覚も嗅覚も異常無し。


「挨拶済ませたら、お前はここの世界で家を視てくれ。俺はアカツキに行く。腕の時計でアラームをかけるから、揺すったり声掛けたりしないでくれ」


「りょーかーい」


「あと、注意事項な。店の決まり。忘れちゃなんねぇからまた言うぞ ?

 依頼人の前でキョドらない事」


「依頼人にを与えないコト。その場にいる霊体や悪魔に悟られないため」


「OK。合ってる。

 物や、金銭、プレゼントや御礼は受け取らない。報酬は成功後、振り込み」


「呪物の可能性があるから貰わない。怖ァ〜。俺、なんも要らね。要らね〜」


「出された茶とかは飲んでもいいけど……そーゆー線引きは分かるよな ? 」


「ああ。人間の作法系のヤツだろ ? OK」


「最後だ。

 どんな美女でも手を出すな。最もこれは、あるあるだからな。分かると思うけど」


「俺のお眼鏡にかなうレディがその家に居ると思うか ? 」


 何言ってんだコイツ。


「……まぁまぁ。全然いると思うぜ。だってお前、女の子見るとすぐに…… ! 」


「ハァー ???? 何もしてませんけど〜 ? たまたま偶然、女の子の前だとニワトリに戻るんです〜」


 まだ何も言ってねぇよっ !


「お前今後、絶世のブタが出て来ても同じ事しろよな ? 」


「ちっ。ヤダよ !

 ……はぁ〜女の子触りた〜い ! 」


 分かってんだよ ! お前の対象、人間こっち側な事。動物に絡んでる所を見ると動物言語も話せるんだろうが、コイツは人間の女が許容範囲だ。そら俺だって抱っこされてぇよ ! !


「さてと……。手紙に書いてあるのは……。

『元から不可解な現象に悩まされていましたが、今年やっと家を買いました』っと」


「新築かな ? 」


「いや、俺には違うように視える」


 この家はリフォームされてる。


「『引っ越したのにおかしな現象は続き、どうしていいか分かりません……』か。土地に憑いてるんじゃないんだろうな。

 うーん。やっぱ内見してみねぇと分かんねぇな。守護霊なんかの霊障なら、この地点でそれらが事情を話に来るもんだ。チョイ霊感の俺でもな。けど誰も視えねぇし、姿もねぇ」


「ラクショーラクショー。行きゃ分かんだろ」


「ああ。だが、妙だな……」


 なんだろ。この手紙からはの臭いを感じない。なんて言うか、伝わって来るのは恐ろしい程のだ。怪奇住宅が怖いって臭いがしねぇ。

 差出人は女性。


「依頼人の名前は泉 華菜さん」


「女ぁ ! 」


「人妻だぜ。家族いるって書いてある。子供もいるらしい」


「ググッ……人間の子供は苦手だ。八割の確率で触って来るらしい ! 駅前の鳩から聞いた ! 俺、鶏冠だけは勘弁だ ! 」


 今は人型なんだから関係ねぇだろ……。


「ほら、行くぜ」


 車から出て歩道を歩く。依頼人の家の周囲は賑やかな雰囲気だ。ブランコのある家は子供が三人、庭先では楽しそうに走り回っている。その隣の家は、老年の男性が垣根の手入れをしていた。

 依頼人……泉さんの家の前まで来ると、急激に静かになった。空き家なのかって感じだ。隣の家がデカいせいか、陽当たりも悪そう。

 俺たちはインターホンの前に立つと、改めてネクタイを締め直し襟を正した。


 ピンポーーーン♪


『はーい』


「ごめんください。

 BLACK MOONから派遣されて来ました、ユーマと相棒のジョルジュと申します」


『あ……。お、お待ちください ! 』


 すぐ家の中からパタパタと足音がする。

 スリッパの軽い底面が床に打ち付けられる音。

 すぐに玄関のドアは開けてくれた。


「はじめまして、泉です。本日はどうぞよろしくお願いします」


 細身で背の高い、綺麗な女性だ。子供をそばに連れて俺たちを中に入れた。


「お兄ちゃん、誰 ? 」


 子供の前で……いいのか……? いや、配慮は必要かな ?


「お家の点検に来たんだ。よろしくな」


「ふーん ! 」


 お化けが出るんだぞ ? なんて言ったら、母親にはっ倒されるかもしれないし。

 あ、なんか……俺プロっぽくね ? プロだけど ! アカツキに居ない一般のお客さんって初めてだな。


「……で、どこにますか ? 」


 ジョルにも言って置くんだったぁぁっ !!


「あ…はい。あの……」


(おい、とか言うなよ ! )


(はぁっ !? なんで ?)


(お前、もう喋んじゃねぇ ! )


(あ"ぁ ?)


「すみません……。なんだか」


「いえいえ、こちらこそ……今日は義母さんの都合も合わなくてどうしても子供は……すぐ主人も帰りますので」


「大丈夫ですよ。手紙と電話で事情は引き継いで来ましたので、安心してください」


「おう。俺たちがいれば、ソッコーでゴーストをバスターするぜ ! 」


 やめろぉぉぉぉっ ! ゴーストとか言うんじゃねぇ !


「はい。よろしくお願いいたします。

 こちらへどうぞ。」


 美人妻が奥に行ったところで、ジョルの手の甲を三回捻り上げた。


「あだだっ」


 分かってる。数ヶ月で人間の社会に溶け込めってのが可笑しい話だからな。でも、依頼人の前だ。それも大福から譲り受けた仕事でミスは出来ねぇ。

 なんだか霊よりこいつの粗相が怖いんだけど。……もしもの失礼があったら鳥に戻って見せよう……。鳥なんですって言おう。

 そういえば……どうして大福は俺たちに、なかなか譲りたがらなかったんだろう。これだけ何も感じ無いなんて……敵は上手なのか…… ?

 どついてる場合じゃねぇな。

 今こうしてる間にも、アカツキで待ち構えてる可能性だってあるんだ。


 俺とジョルは炬燵のついている八畳間へと通された。


(なんだこれ ! 養鶏所にもあるぜ ! こーゆーの ! )


 こいつ一人残して、俺はアカツキに行っても大丈夫だろうか ? 内見中、トラブル起こさねぇだろうな……。胃が……痛い……!!

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