第22話 正しいエクトプラズムの使い方
「一旦出ましょう!」
トーカは俺を玄関の外に出るようにグイグイ押す。
「待った! 玄関には中沢さんがいるんだよ!」
「ちっクソが! じゃあ裏口よ!!」
おい、なんだ今の口の悪さ! こいつ絶対キャラ作ってるだろ!
ふわりとスカートを翻し、裏口に向かう。
ズル…ズルズル!
なんの音だ!? 物置小屋からかっ?
「頭!」
分かってますよ! でも最後まで「頭下げて」って言ってくれなきゃ!
ドガッ!!!
俺の後ろでトーカは思いっきり棘のついたでかい鉄球を横に凪ぐ。
ああああああ危ねぇ〜〜っ!!
〈効かん!〉
蛇かっ!?
物置小屋から出てきたのは、上半身は男の姿、下半身は蛇の姿をしていた。
……大蛇ってもんじゃない! 龍のようにデカいが間違いなくこいつの鱗は蛇のソレだ。本体は長いが、胴体の周りにも触手の様に蛇の尾が巻き付いている。
〈俺の鱗は鉄より硬い!〉
「それは。セクシーですわねっ!」
トーカが再びモーニングスターを振りかざし、今度は柄ごと投げ込むが、片手で振り落とされる。
〈魔女か……俺に逆らうこともあるまい!
逃げるなぁ! わははははっ〉
半ば蛇男に押し出されるようにして、リビングルームの大きな窓から庭へ雪崩込んだ。
「なんだありゃ? 悪魔かっ?」
「いいえ、もっと格上よ! 早く出て!!」
蛇男の尾が俺たちの足元を凪ぎ、トーカが俺を突き飛ばす。
「ぐえっ! トーカ!?」
わずか八、九歳の身体をトーカは俺の身長以上の高さまでジャンプしてかわした。
「まじかよ……」
着地したトーカの厚底靴が芝生を削る。
ちっくしょー。悔しいけど、多分トーカは俺より百戦錬磨ってわけだ。身のこなしが只者じゃねぇ。
この世界は、出来ると思えば出来る。多少は現実の世界より融通が効く。
頭では分かってるが、実際やるのは至難の業だ。
ビルから落ちたら怪我する、死ぬ。
当たり前の事だが、もしスーパーヒーローのようにビルの間を飛び回りたいとしたら、そういう概念レベルでの意識を変える必要がある。
「倒していいんだな?!」
焔を構えて奴が出てくるのを待つが、トーカが制止する。
「あれを倒すのは無理だわ! 悪魔じゃないの!
目を狙って動きを妨害して!」
「お前は!?」
トーカはネイルリングの付いた綺麗な指先で器用に髪の毛を一本引き抜く。
その一本が、青い光を放ち鉄の物体に変わる。
それ、手榴弾だよなっ!?
「………楽しむわ」
今なんて言ったっ!!?
楽しむ、だって!!?
〈逃げるなぁ? 化けた美人さんよぉ~!〉
蛇男は硝子を破り、外れたサッシを長い爪で掻き切りながら鎌首をもたげる。
そこへトーカは躊躇いなく手榴弾を投げ込んだ。
〈くそ。魔女め〉
瓦礫から渋い面持ちで蛇男が出てくる。
トーカは再びネイルリングで呪文を描き、手をかざす。
今度は何っ!? 召喚のバリエーションあり過ぎだろ! 魔術なのか!?
「熱烈ですわね。
歓迎致しますわっ!」
ガシャリ!!
トーカの両腕にはベルトで固定された二台の大筒。一瞬、俺の顔から血の気が引くのが自分でも分かった。
まさかの大砲っ!!!
「ふぅっ!! ふっっ!!」
ゴッ!! ドゴッ!!
反動を抑える度に、トーカから図太い声が漏れる。
音だけで周囲の空気が振動する!
蛇男は一撃にして両腕の篭手を破壊された。いや、弾を振り払ったんだ!
庭の片隅に焦げた篭手が煙を上げて飛び散る。
〈はっはぁ! エクトプラズムか!?
随分、子慣れているじゃないか!〉
焔で視界を塞ぐ!!
ドゥッ! ドッドッ!
だが俺の撃った弾丸は、男の眼球寸前でピタリと止まる。
〈そっちの男は火か! 馬鹿め効くものか!
………ん?〉
蛇男は俺を見ると、物珍しそうにする。
〈お前は……敵か?まぁ、いいだろう!
魔女にしてもそうだが……人間の味方なわけだな?
良い。かかってこい!〉
敵なのかってどういうことだ?
(顔見知りなの?)
(え〜? まったく知らねぇんだけど)
(焔は効かないみたいですわね。私の銃もよ。
車はどこに停めたの?)
(東に500メートルってとこだな。公園にある)
(そこに誘導するわ。二人で逃げるふりをするのよ!)
大丈夫なのか?
(分かった。車まで行きゃいいんだな!)
(ユーマ)
トーカが俺の前に出る。
(エクトプラズムの使い方をよく見ておきなさい)
エクトプラズムってサイコプラズマと一緒なあんだっけか………? じゃあ、トーカの召喚してる武器は、俺の焔と同じ原理?
どうやってあんなに、何種類も出せてるんだっ!?
「手加減は致しませんわよ!」
トーカが指を滑らせると、またも武器を召喚する。
右手にマシンガン、腕には大砲。左腕にガトリングガン。そしてオーバーニーソックスを履いた足には何か分からない電子的な美しい金属のブーツ。青色の電飾がギラりと光った。
その瞬間!
ドゥッ!!
飛んだ!!
ジェット噴射!? 違う!
あれは本来存在しない道具のはずだ!
「まさか………!」
俺の焔も…………エクトプラズムなんだよな?
俺も自在に出せるのか? 好きな武器を!
想像した武器を!!
そうか、焔に弾もマガジンも必要無いのは、焔が俺の都合のいい想像の産物だからだ!!
トーカは平井家から離れるようにして屋根伝いに距離を置くように飛んで行った。
〈ユーマ君!! ど、どうしたんだい!?〉
玄関から庭を覗くようにして、中沢さんが声をかけてきた。
どうした、と聞かれても! なんでトーカが物置小屋から出てきたんだよ!
「中沢さん、動かないでください! ドアや扉を不用意に開けないでじっとしててください!」
〈わ、分かったよ〉
トーカは公園の方へ飛んでいった。
俺、アレも習得してやる!
〈お前から倒してやる!〉
無理無理無理。
俺は飛べませんよ。
「か、勘弁してくれ〜!! かなうわけねぇだろ〜っ!!」
俺は全力ダッシュで庭先から塀を伝って東へ向かう。
〈なんと情けない! 逃げろ逃げろ!
ははははははははっ!!〉
流石は蛇だ。塀も草むらもなんのその。デカい身体をクネらせ這いずって来る。
「う、うわぁ! 置いて行かれた! 最悪だぁ〜」
蛇男は俺をいたぶる様に減速して追いかけて来る。
あと一軒。
ここを越えたら公園だ!
壁にしがみつき、思い切りジャンプして薔薇の植え込みを飛び越える。
見えた!
セルの車!
中にトーカが乗っている。まさか運転する気か!?
「早く乗って!」
無理だ! 追いつかれる!!
だが蛇男は俺を脅威として判定していない。
運転席にいたトーカを見つけると、素早く車道に巨体を滑らせる。
〈逃がしはせん!
車など破壊してやる!〉
蛇男は道路標識を素手で引き抜くと、猛スピードで車の横腹に突っ込む。
そこに、あるひとつの異質が現れる。
俺をクロツキに堕とした、クソジジイだ。
黒いスーツ、長身で細身の老人の姿。
〈なんだお前は!! 一纏めに潰してやる!〉
蛇男が標識を振り上げた瞬間……!
〈失礼致します〉
ジジイは白い手袋をした手で、恭しく後部座席のドアを開ける。
ゴゥ……!!!
〈うっ………!〉
ズズズ……ズズ……!
蛇男が車の後部座席に吸い込まれるように、巨体が引きずり込まれる。
〈くそ、なんだ!? 空間がおかしい! どこに繋がってやがる!?〉
ギィン!!
蛇男が標識を地面のコンクリに打ち付け両手で掴む。既に尾の先はドアの中だ。
〈ゲート召喚の能力……魔女と悪魔……〉
蛇男は恨めしそうにジジイを睨みつける。
〈お前は……! 悪魔 スルガトかっ!!?〉
ジジイは何も言わない。
トーカは運転席から出ると、俺のそばまで歩いてくる。
「あのジジイって、契約者だろ? 悪魔なんだよな?」
「ええ。地獄の門番。あらゆる異界へのゲートを開くキーマン。
悪魔 スルガト」
とんでもねぇ大悪魔じゃねぇか。使わせてもらってるのはゲートの能力だけか? だってこいつは、記述通りなら軍隊持ちで凶悪な奴だ。
「トドメよ」
ドゥっ!!
トーカがブーツを赤く光らせ、音よりも早いスピードで車道へ吹っ飛んで行く。身体を捻り、回転した遠心力を込めて、刺さっている道路標識を思い切り蹴り飛ばす。
〈やめろぉぉぉっ!!〉
標識を抜かれた蛇男はドアへの重力にたえられず、そのまま吸い込まれていった。
ジジイが満足そうに、後部座席のドアを閉めて姿を消した。
「ゲートはどこにでも作れるけれど、開くという概念の場所が必要なのですわ。
部屋だったり箪笥だったり」
「クロツキでは何もないところにドアが出てきたぜ?」
「出口からはそう見えるわ。
女子トイレのドアをゲートにしてクロツキに繋いだから、出口側にはそう見えただけよ」
「今の蛇男はなんだったんだ?」
「あれは異教の悪神よ。悪魔より強くて、タチが悪い。
適当な空間を作って、そこへ放り込んだのよ。
倒せないわ。人間には、たとえTheENDが使えても……」
TheENDって、割と使い道少ねぇな。
神の類いと霊には効かない。
でも、焔の使い方がなんかわかった気がする。俺次第でもっと強い銃にしてやれる!
「一度、セルと合流しましょう。
ゲートでこっちに来ちゃったから、つぐみんが待機状態なのよ。
早く戻らないと」
「猫屋敷には行ったのか?」
「ええ。とんでもない事になっていたわ」
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