異世界に転生できるわけでもない普通の男子高校生の俺は、このままではモテないのでとりあえず新興宗教でも作って女の子を信者にしてハーレム作ろうと思うんだが
第28話 陰キャの返信が遅いのはキモくない文章を熟考するため
第28話 陰キャの返信が遅いのはキモくない文章を熟考するため
風呂上がりで上気している身体を、スプリングがゴリゴリの安ベッドに投げ出す。俺はこの瞬間がとても好きだ。無事に一日が終わったという安堵感がある。
ベッド脇に置かれたスマートフォンを充電器から取り外す。いつものゲームを起動してイベント周回でもしてやろう。就寝前の電子機器は身体に悪いとか言うけど、俺からしたらそんなご高説糞くらえだ。このリラックスタイムは精神衛生上必要不可欠なんだよ。聞いてるか、眼科医共。
そんな屁理屈も披露する相手はおらず。俺は自室で一人、深夜の静けさを味わっていた。
スマホを起動し、いつものアプリにタップ……の前にこのグリーンバルーンに付いている通知を処理してしまおう。
えーっと……一つ目の赤は……虹か。
虹≫今日は楽しかったよ! ありがとう!
それここで言う必要あるか?
これあれだろ。恋愛ハウツーサイトとか鵜呑みにしたパターンだろ。「デート後は彼に感謝のメッセージを忘れずに☆」みたいな。返事はとりあえず適当にスタンプ押しておきゃいいか。……てかトーク履歴すっかすかだな。スクロールできないってどういう事だよ。
虹のメッセージに既読を付けても、まだ通知は残っていた。俺にこんなにメッセージが来ているなんて珍しいな。どっかの企業が新商品でも出したのか? 毎回毎回律儀に広告送って来やがって。
そんな予想とは裏腹に、メッセージを送ってきていたのは意外な相手だった。
「櫻井……?」
赤丸が付いているのは、生真面目にも本名フルネームバリバリで登録されている櫻井天音のアカウントだ。
軽くタップし、メッセージを開く。
櫻井天音≫雨宮君、こんな夜分遅くに失礼します。
見れば、メッセージが送られたのはほんの数分前だ。そこまで夜遅くというわけでもないのだが、こんな挨拶をつけるあたりSNSでも礼儀正しいところは相変わらずらしい。
櫻井天音≫突然のことで申し訳ないのですが、少しお話したいことがありまして。今度二人で会うことはできますか?
最後に可愛らしいウサギが首を傾げているスタンプが付けられてメッセージは終わっていた。
……やばいやばい、何て返事しようこれ。でも男女で二人きりで話がしたいってそういう事だよな? あらーついに来ちゃったかー、モテ期。私、あれ(モテ期)が来ないの……のネタはもう使えんなー。どうしよう持ちネタ減っちゃったなー。というかこれもう受動的ハーレムでよくね? ラノベ主人公みたいになるのもまあ悪くないじゃん。え? 何? 能動的ハーレムじゃなきゃ本当の愛情は芽生えないとか言ってるやついるの? 知らん知らん! そんなのただの嫉妬だから! 何はともあれモテることが正義なんだよなー。
などと浮かれてる場合ではない。常識的に考えれば、文字通りただ話がしたいってだけだろ。世の中はそんなにお前の都合の良いように出来てないぞ、雨宮龍羽。甘ったれんな。
とにかく当たり障りのない感じで返事をしよう。
二人で会うとなると虹にどう思われるかが心配だけど、まあ相手はあの櫻井だから大丈夫だろ。櫻井が二人で会いたいなんて言ってきたのは初めてだし、もしかしたら本当に大事な話なのかもしれないしな。
それに既読付けちゃったからスルーするのも不可能だし……断らなきゃいけない理由もないから、ここはとりあえず応じておいた方が良さそうだ。
龍羽≫了解。都合の良い日時があったら教えてください。
……素っ気ねぇ。我ながら返事に味気が無さすぎる。病院食か。
まあしょうがないしょうがない。このアプリで誰かと会話するのなんて久しぶりだし。勘が戻ってないだけだな。
さあ、気を取り直してゲームでもしよう。今回のイベントは俺のパーティーでも高順位が狙えるはずだ。
そう思っていつものアイコンに手を伸ばした時、早くも櫻井から返信が来た。通知音が静かな室内に反響する。
櫻井天音≫ごめんなさい! やっぱり大丈夫です! おやすみなさい!
今度は謝るウサギちゃん。
……え、何これ? 何で何もしてないのにフラれたみたいになってんの? 土俵に立たずに黒星ついたんですけど。
いやまあ、本人がやっぱり要らないって言ってるんだからしかたないんだけどさ……。受動的ハーレムはクソだな、やっぱ。
気持ちを切り替えよう。そもそも俺の目的はイベント周回だったはずだ。明日からのハーレム計画の進行でも考えながら、ランカーに向けて単純作業の沼にでも浸かることにするか。
スマホを手に、冷たいシーツの上にうつ伏せに寝転がった。寝落ちと湯冷め対策に毛布を一枚身体にかける。
その時に見えた「You can do it」の文字とハシビンの冷めた視線が、俺の心になぜか引っ掛かった気がしたのは、まあ気のせいだろう。フラれてナーバスになっているのだ。放っておいてくれ。
タップ音だけを響かせながら、初夏の夜は静かに更けていった。
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