第40話 ドリームランド探訪 ⅩⅩⅨ

 では早速探索といきましょうか。

 ナビゲートフェアリーをオンにして、祠内の写真をパシャリ。

 くま君は特になにもすることはなく、端っこで体育座りをしていた。



【くま、なにもできないからって体育座りは草】

【体育座りってなんぞ?】

【ああ、VR世代は知らないか。リアル寄りの集団生活してりゃ学ぶ最低限のマナーだよ】

【めちゃくちゃ哀愁漂う背中やめろ】

【普通はこの局面で動ける人材の方が稀なんだよ。ハンバーグさんがおかしいんだって】


「くーまー」


「嘆かわしいぞ。あたしのマスターともあろう者がこの体たらくとは」


「|◉〻◉)まぁ、積み重ねてきた実績の違いと言いますか? www」


【リリーちゃん、煽るじゃん】

【この子ほんと体張った芸するよな、この子】

【マウントの取り合いで未だ負けなしだぞ?】

【いや、結構負けてるから】

【それリリーちゃんの中ではノーカンだから】

【自分ルール押し付けあってて草なんだよな】


「さて、いつまでも座ってないで検証会と行こうか」


「くまじゃお役に立てないくまー」


「私だって手探りだよ。結局はなにも知らないところから試行錯誤して答えを導くんだからね。だから自分は無理だなんて諦めてほしくないな」


「そうよ、マスター。その男の言う通りじゃ。気の弱いところを払拭せねばこの先の成長はないと思うが良いぞ」


「くまー、わかったくま。くまもお手伝いさせて貰うくま!」


「その意気だ。さて状況証拠を並べよう。スズキさん、テーブルを」


「|◉〻◉)はーい」


【ここまでネクロノミコン出番なし】

【さっき励ましてただろ】

【応援だけなら俺らもできる】


「なにが言いたいんじゃ、此奴ら?」


「一緒に悩むだけ悩んでほしいと言うことじゃないかな? 強制はしないよ。ただ自分の思ったことを述べるだけでそこにヒントが隠されているかも知れない。誰しも初めからプロじゃない。私だって勝手に尊敬されてるけど、今でも気持ちは挑戦者のつもりだよ? 君がどれほどすごい魔導書でも関係ないさ。たまには不得意分野にも挑んでみないかい?」


「仕方ないわね。あんたの誘いに乗ってやるわ」



 不本意甚だしいとばかりにアール君はツンと鼻を上に向けた。



【お、丸め込まれたぞ】

【お得意のトーク術やな】

【この人ほんとどんな相手でも屈せず立ち向かうよな】

【そりゃアザトース様を前にしても同じこと言う人やぞ】

【それは強い】

【強者だからこんなに危険な地雷の埋まった場所で雑談トークできるんだぞ?】

【そうだった】



 なんだかまた不本意なコメントが並んでいるよね。

 私たちは削り取った鉱石をあれこれ調べて、結局グラーキの祠と一緒の夢魔の鉱石である事を決定した。

 だいたい判明した事を再度調べるのは、初心者のくま君やアール君にもその過程を踏ませたかったからだ。



「ちょっと、判明してるんだったらそれに付き合わせられた私達の労力は無駄だったじゃない!?」


「くまー、アキカゼさんはそんな意地悪しないくま。これを体験させることに意味があったと考える方がいいくまよ」


「体験? まぁ確かに初めての体験ね。普通に遭遇したら投げ出していたわ」


「きっと今からやることもくまたちのことを思ってやってくれてることくま。あまり穿ったものの考え方しない方が良いくまよ?」


「そうね、今は流されてあげる」


「|◉〻◉)とか言ってますよ、ハヤテさん?」


「茶化さないの。私達だって彼らの専門分野には手が届かないんだからこういうのは」


「|ー〻ー)はーい」



 スズキさんを嗜めて、私達のやり方をくま君にも示していく。

 アール君はやはり水神クタァトの石像をツルハシでカンカンし始めたあたりで気でも触れたんじゃないかという態度を取る。

 もりもりハンバーグ君だったらノリノリで付き合ってくれるのに、常人から見ればやはり移譲なことだったのだろう。



「なに、これなによ?」


「なにって? 水神クタアトを呼び寄せる儀式だよ?」


「そんなの石像を壊せば怒って出てくるわよ! 舐めてるの?」


「至極真面目さ。けれどね、本当は違う手順を踏む必要があるんだ」


「ならそっちの手順使いなさいよね!」


「生憎とそれはできない。と言うより手段を実行するには向こうのフィールドで地下に行き、水の契りを高めなければならない。その上で適任者は聖典側に属している。こちらの言いたいことがわかるかな?」


「敵の手を借りるわけにはいかないと言う意味かしら?」



 どこまでも強気な発言だね、この子は。



「陣営の違いにそこまでの差はないよ。私が言うと皮肉に聞こえてしまうかも知れないが」


「そんなことないくまー」


「そうね」


【俺もネクロノミコンちゃんに同意】

【アキカゼさんが言うと皮肉が過ぎるわ】

【くまの同意はどっちにも取れるから諦めの方だぞ】

【コンブ生えるわ】



 さて、うるさい外野は放って置いて。

 私のツルハシは最後のカケラに手をかけた。


 私の手の中にあるかけらが光り、グラーキと同じような演出。

 砕け散る祠と共に、水神クタアトが現れる。



<水神クタアトが現れた>


 制限時間:48:00



 なんの表記だ?

 カウントは時間と共に削られていく。



「ちょっと、なにも居ないじゃない!」


「くまー、戦う相手がいないとどうすればいいか困ってしまうくまー」


「そういえば銅像は竜の形をしていましたよね。でも本体は別にその形ではないと?」


「|◉〻◉)ですねー」



 もしかしてここで時間をつぶしているのはまずいのではないか? そんな予感がそこかしこでする。



「少し場所を移そう。このフィールドは色々とまずい気がする」



<水神クタアトの侵食攻撃!>



 !?

 何か行動をしようとするたびにこの判定か。

 ステータス上での変化はない。

 違和感は募るばかりだ。



「スズキさん、氷作成だ。このフィールド一帯を凍らせて!」


「|◉〻◉)やってみます」



 スズキさんに促しつつ掌握領域を握り込むも……



<水神クタアトに抵抗されました>



 いつの間に?

 領域展開を外されている。

 いや、抵抗と言うことは侵食されているのだ。

 もしかしてこのフィールドそのものがクタアトか!?



「|>〻<)ハヤテさん、だめです! 凍ってくれません!」


「これは決まりだな。相手は海そのものだ。そして私たちを乗っ取るつもりで侵食攻撃を仕掛けてくるぞ!」


「タイムリミットはそれだったくま!?」


「やはり碌なものではないな、邪神というのは」


「君だってその片割れでしょうに。くま君、会場に出るよ。私はスズキさんを抱えて、君は自力で行けるかい?」


「得意分野くま!」



 私は上空に向けてヘビーを召喚し、その口の中でショートワープを試みる。

 案の定と言うか、ABPがみるみる減少していく。

 これはLPの方が消失しているか?


 やがてヘビーの肉体を食い破るようにクタアトが体内に侵入し、私目掛けて突っ込んでくる。



「|◉〻◉)させませぇん!」



 スズキさんが体を張って前に出て止めるも、水神クタアトの勢いは止まらず、完全に無駄死にの形。

 まぁ本体は私の中にいるそうなのでおかわりのごとく見せ場を作って行ってくれたけど。



【リリーちゃんwww体張りすぎwww】

【ほんとこの主従は見てて飽きないな】

【くまのところはまだギクシャクしてるもんな】


「抜けた! スズキさん、ありがとう!」


「|◉〻◉)どういたしましてぇええええ!」



 50匹目のスズキさんを見送り、ヘビーが丁度LP切れで消失する。水の中から追走してくる触手の鞭を空中で交わし、無駄だとわかりつつも領域展開。



「通った! ならば!」



 水中内での領域展開は無理矢理剥がされてしまったが、空中ならばこちらに理がある。



「クトゥルフの鷲掴み!」



[GYORUPIEEEEE!!!?]



 知性も何もない咆哮が触手の群れの中枢から溢れ出す。



「くーまー!」



 そこへ事前に離脱ならぬ巨大化してことなきを得たくま君の固めた拳が貫いた!



【腑抜けた声から繰り出される殺人パンチ!】

【あー、だめだ! 攻撃通じてない】

【そりゃ相手は水だぞ? 物理が効くわけない】


「だめだくま君! 神格を相手にするときはステータスを乗せなきゃ通らない」


「先に言って欲しかったくまー!!」



 足場を取られたくま君が盛大にずっこけた。



【今のはアキカゼさんが悪い】

【よくこいつクリアできたよな】

【それはほんと不思議に思う】


「ええい、情けない奴め。しっかりせんかマスター」


「ちょっと転んだだけくま。もう大丈夫くま」


【起き上がれない奴が何か言ってますよ?】

【まんまガリバーで草】

【巨人気分を味わえてるやん】

【縛り付けるならもっと美少女をさぁ】

【男女差別やめろ】

【くまが縛られても誰も嬉しくない件】



 触手の鞭を侵食を込めたビームソードで切り払っていく。



「助かったくま!」


「こういうのは助け合いだよ。それと教えずに悪かったね」


「予習を怠ったくまも悪かったくま。もう油断しないくまよ。アール、フォームチェンジくま!」


「その言葉を待っておった。行くぞマスター!」


「くまー!!」



 宙に浮くくま君。

 そして空中で稲光を発しながら、その巨体が獣人から逸脱した触腕に食い破られた。内に神格を宿したか。

 しかしコントロールできずに暴走状態?


 手助けをしようかと逡巡してるところで、うねる触手を無理やりねじ伏せるようにさらに内側から生えた手で掌握した。


 まるでマトリョーシカのように内側から互いにコントロール制御権を奪い合う応酬。

 そしてようやくくまくんが勝ったのだけど、その姿はありていに言って疲労困憊。

 ここからまともに戦えるのか少し疑問だ。


 だが、そういう熱さは私は嫌いじゃないよ。

 彼なりに導き出した答えだ。

 別のやり方があると教えてあげるのは彼を否定することになる。私ならば、その背をよくやったと叩いてやりたいね。



「準備OKくま!」


【キエアアアアシャベッタァアアアア!!】

【別物になりすぎですって】

【ホラーかな?】

【変身のベクトルが一人だけ違う件】

【アキカゼさんが人間フォーム崩してないだけで他はみんなこんなものだよ】

【ハンバーグさんだってホラーだぞ?】

【見慣れ過ぎるのもあれだよな】

【が、制限時間付きでLPゲージが見えない相手に勝てるか?】

【どう考えても制限時間逃げ切り制だろコレ】

【気軽に挑んでいい相手じゃなかった!】

【グラーキみたいに妖精誘引持ち待つのが得策じゃないかコレ】

【どう考えてもそうでしょ】



 見えない答えのないまま、海のフィールド全てが水神クタアトに掌握された。

 物理攻撃は通らず、侵食を込めてのクトゥルフの鷲掴みは動きこそ止まるものの、ダメージが通ったようには思えない。


 どうやれば倒せるのか?

 そもそも私たちはまだその位置に辿り着けてないのかもしれない。

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