第107話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 ⅡⅩⅠ

 破裂して弾けた水の塊は、雨の様に周囲一帯に散らばった。

 そして七尾形態の肉体に吸い込まれる様に一体化し、その肉体を感知させた。

 八尾の無限再生を肉体の回復に使ったのだろう。


 新たな耐久ゲージが現れる。

 まっさらな100%のゲージが現れた時、本来の九尾がそこに現れた。


 大きさはさほどでも無い。

 一尾形態のまま、しかし尻尾が九本にまで分裂してこちらを見定めている。



「( ^ω^ )来るぞ、こっからはお祈りゲーだ!」



 ( ^ω^ )氏の言葉と同時、大気が震えた様な気がした。



「( ´Д`)y━・~~初っ端から大技連打だ気をつけろ。分身、重力、陰陽攻撃。退避ーー!!」



 体が浮き上がる感覚と同時、照りつける太陽が私たちのヘイトを完全に遮断する。

 が、同時に的確に狙ってくるレーザー攻撃。

 みやれば台風の周囲を覆う目の役割を任せられてる分身の数が尋常じゃない。



「こちらも打って出ますよ」



 召喚、ボール強化型を風操作で操り、周囲の目を魔法で撃ち落としていく。

 ただし手痛いしっぺ返し付きだ。

 広範囲で撃退すれば、それこそ回避不能なレーザー攻撃が飛んできた。

 明らかに本来の攻撃より強いのは、ただ分身してるからだとは思えない。



「( ^ω^ )言うの忘れてたが、九尾状態は各形態より火力が1.5倍割増になってる。全く同じだと思わない方がいいぞ」


「ちょ、言うの遅いです」


「( ゚д゚)考えるな、感じろ。直感で動け」



 全く、無茶苦茶を言うんだから。

 でも、堅苦しくなくて居心地がいいと思ってしまうのは不本意ながらも私の認識も同じだからだろうか?



「|◉〻◉)別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」



 またそう言うフラグを立てる。

 どこで覚えてくるんです、そう言うの?

 氷作製で作ったサーフボードで華麗に空を舞うスズキさん。



「|◉〻◉)レーザーは氷の応用で曲がる! 空で学びました」



 そのサーフボードは囮だった様だ。

 華麗にジャンプして水操作、空の氷作成でレンズを作り上げる。五の試練で培った技術が今ここで火を吹いた。

 スズキさんに直撃するはずのレーザーは少しそれて外周を回っていた目を貫いていた。

 そこに反撃は来ない。

 オウンゴールの如く、自滅に近い攻撃では反撃しようがない様だ。少しの間が空き、再び攻撃を再開する。



「そういえば、すぐに雷雨を呼び込まないのはどうしてでしょう?」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)相性の問題だな」


「相性?」


「( ´Д`)y━・~~重力操作は過程で台風を産む。そこに雷雨を呼び込んでも風に雲が散らされて狙った様な効果にならないのさ。今回のは日向の効果で油断した俺たちを誘い出すためのものだな」


「間抜けですね」


「( ^ω^ )その言葉、聞かれてるぞ?」


「えっ」


「( ゚д゚)九尾は自尊心が高いからな。多分このあとめちゃくちゃ狙われる。がんばれ」



 ポンと肩を叩かれた。

 まるで死地に飛び込む戦友を見送る様な別れである。

 そそくさと逃げ出す様は、私を囮にするつもり満々で……

 ビーム耐性のある山田家を盾にしながら急場しのぎ。

 


「本当に、困った敵だ」



 地獄耳もいいところ。どれだけ戻るに忠実なのやら。

 距離を取ったら理不尽が襲う。

 ならば!



「ゼロ距離でどうだ」



 ショートワープからのレムリアの器(ビームソードver)で斬りつける。

 しかし毛皮を撫でた程度の効果しか見込めなかった。

 九尾の顔がニタリと笑った。

 まさかここまで読み込んで攻撃の誘導をしていた?



 だからと言ってここで無様を見せる私ではない。

 カメラマン出来ていることなどすっかり忘れ、九尾と一進一退の攻防を繰り返す。

 ただでさえ攻撃手段が限られている私と、モード形態によって八つを自由自在に操る九尾。

 間違いなく強敵。

 好き好んで戦いたく無い相手だ。


 しかし( ^ω^ )氏達が率先してデバフを蓄積してくれていたのもあり、向こうの攻撃が全て私に向くことはなく、何発かが怯みによって無効化された。


 クロスカウンター様に打ち込んだパンチ。

 ピンボールの様に跳ね回るピョン吉にライドして同時に放ったライダーキックで九尾に決して安くはないダメージを与える。


 まるで一対一。

 それ以外の全てがどこかに置き去りにされた様な気分で、九尾が私を睨め付けた。

 そして互いに歪んだ笑みを浮かべる。


 向こうも瀕死。

 いつのまにか分身の数も減って、一対一で打ち合った。

 見上げるほどの巨体でありながら、しかしヘビーほど巨大かと問われればそうでもない。

 大きさでいえばシャドー型/ジャイアントクラス。

 そんな相手が私しか見ていないのだ。


 原因は何か?

 よくわからない。

 ただしたまに呼吸困難に陥る様を見るに、私を真っ先に狙った理由はクトゥルフのパッシヴによるものだと見て間違いない。

 変身状態での戦闘。

 もしかして九尾は私を見ている様で、その奥にいるクトゥルフに牙を剥いているのかもしれないと察した。


 同じフィールドにいるもう一つの神格ではなく、私の方の神格に注目されたのだ。

 それは崇め奉る神格を誉められた様な高揚感と共に、私の右手に新たな熱が生まれ出す。



『ハヤテさん、権能の一つが解放されました』


『どうして? こういうのは断片を得ることで獲得するものじゃ無いの?』


『断片はあくまでも理解力を得るためのフレーバーに過ぎません。ハヤテさんの信仰力に応じて夫が力を貸してくださったんです』


『そう、どう受け止めていいのかわからないけど。このチャンスを活かせて貰うよ。ところでそれはどんな権能?』


『ルルイエの眷属としてデータを書き換える掌握術式です』


『要はペット化みたいなやつかな?』


『成功率は20%ですけど』


『十分高いよ。テイマーなんて残り耐久が5%切ってからが本番だ。それに比べればお釣りが来る』


『失敗したら20%の確率で相手に精神支配されます』


『…………成功することを祈ろうか』


『ご武運を』



 念話を切り、無事を祈ってくれるスズキさんに全てを賭けた戦いを挑む。

 きっと私はこの時コミックの主人公の様に気分が高揚していたのだ。

 周りにいてくれたゲストを頼らず、単身で九尾と決着をつけようと乗り込み、その権能を解き放つ。

 勢いをつけたほうがいいだろう、なぜか途中でそう思い、ピョン吉を再度召喚してジャンピングしてからの張り手で九尾の頭目掛けて打ち込んだ。


 額を割り、抉り込まれた拳から何か……例えようの無い触手が九尾に向かって私の体から流れていく。



 ーー眷属化に成功しました。



 風は消え、抉られて浮き上がった地盤が次々と落下する中、傷だらけの九尾が私に首を垂れた。

 ギラギラに見開いていた目は閉じられ、今は私に危害を加える殺意など霧散している様だ。



「( ^ω^ )終わったのか?」


「( ´Д`)y━・~~いや、戦闘終了コールが鳴ってない」




 ーー情報の書き換えを行なっています。



 ーーエンシェントビースト九尾の狐はクトゥルフの支配下に置かれた事により、ナンバーをロスト。

 


 ーー新たにクトゥルフがその席に置かれました。

 以降、ナインテイルズのレイドモンスターは旧支配者クトゥルフ&眷属九尾の狐に変更されます。



「なんで!?」


「( ^ω^ )テイムしないで終わらせたからだろうな」


「( ´Д`)y━・~~まさかボスの座を乗っ取るとか流石に斜め上の結末だった」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)逆にいえば俺たちもボスの座を乗っ取り可能ということか。いやー、勉強になった」


「( ゚д゚)難攻不落ってレベルじゃねーな。誰も挑戦しなくなるだろう、これ」


「あ、クトゥルフ側で参加するかどうかが選べるみたいです」


「|◉〻◉)参加しない場合はどうなるんです?」


「普通の九尾の狐が出てくるらしいよ」


「( ^ω^ )参加したら?」


「クトゥルフの権能を一部受け継いだ九尾の狐と私がゲストで呼ばれる様です」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)誰もやらないだろ、そんなコンテンツ」


「|◉〻◉)ふふふ、ウチのハヤテさんがどうもすいません」


「なんで他人事なの!?」


「( ´Д`)y━・~~まさか助っ人で呼んだカメラマンがボスに君臨するとはな。これだからゲームは面白いんだ」


「自由度が高いって問題じゃ無いでしょうが!」



 結局再試合とはならず、私の方から降参をすることによってその試合は決着した。

 普通にテイムすればよかったのにな、と思わないでも無い。


 しかしアーカイブ化されたその情報を見たベルト所持者が驚くべき行動に出るとは、この時の私は思っても見なかった。

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