第102話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 ⅩⅥ

 私達は絶賛空に舞いあげられている。

 見えてる景色だけで確認しても、巻き上げられてるのはプレイヤーだけに限らず、なぜか地盤と木々までもが根っこごと持ち上げられてミックスされては一斉にシャッフルされていた。


 その隙間を縫うように九尾(五尾)からの横凪のレーザー攻撃。レーザーそのものは地盤を盾にすれば防げるけど、そのタイミングで真上から地盤が落ちてくると多分キルされる。

 

 そもそもこの暴風の中ではまともな視界確保もできず、歩くこともままならない。


 コメント欄ではすでにシェリル達がクリアできた情報が載っていたけど、彼女達はレムリア陣営だからクリアできた可能性が高い。

 それはつまりテレポートで、足を使わない移動手段だ。

 もちろん私も似たようなことはできる。

 出来るけど、ワープした先が安全地帯とは限らないこの状況。

 回避するにしてもチームワークが必要だ。


 ただのカメラマン役としてきているのに、さっきから逸れっぱなしのゲスト達。彼らは無事だろうか?

 パーティすら組んでないから確認できやしない。

 それよりも、と身内のNPCの安否確認を済ませておく。



『スズキさん、生きてる?』


『はーいー。生きてますけどちょっと念話が遠いですね』



 念話の概念はリアルのコールのように頭に直接ひびいて来るものだ。しかしながら何と何で繋がってるのか分からない。

 リアルなら脳内チップの特定波長で世帯主と親族へリンクできる。それ以外では外部リンクを整える必要があった。


 それはともかくとして話を戻す。

 いきなり念話が途絶えた理屈を探ろう。

 影を入り口として出入り出来る彼女との接点は……もしかして影だろうか?


 暴風の中。

 太陽を遮るような雨雲と、勢いよくかき混ぜられる私達。

 真上から降り注ぐ太陽光も弱ければ、岩盤の上にできる私の影もだいぶ薄い。

 その影響もあるのならば、私自らが光源になれば?


 いやいや、そんな目立ったことしたらそれこそ狙い撃ちだ。

 じゃあどうしようと頭を悩ませていると、視界の端、台風の外でこちらを覗き込む何かが写った。


 あれは一体なんだろうか?

 とても気になるんだけど……この領域内で全く関係ないとは言い切れないよね?

 ちょっと攻撃してみるか。

 懐からレムリアの器を取り出して数発打ち込む。


 すると、数秒もせず私の場所を狙ったように高出力のレーザービームが放射された。

 まるで己の体の一部が攻撃されたのを脊髄反射で迎撃する様に。

 私はすぐさまそこにフェイクをその場に置き去りにして風の外へと回避する。

 さっきまで居た岩盤が砕け散るほどのレーザー照射。

 あんな大質量の直撃、掠っただけでもLPを全部持ってかれそうだ。ヒヤヒヤしながらも自分の直感を信じてホッと胸を撫で下ろす。



【うわ、アキカゼさん集中攻撃じゃん】

【それより今外に向けて攻撃してなかった?】

【何か見つけたのか?】

【そんな事より狐のエイムやばくね?】

【こんな暴風の中、遮蔽物ありでよく位置の特定できたよな】

【それ】



 やっぱりどうにかして私の位置を完璧に捉えているのかもしれない。やはりアレが九尾の一部だったか。

 みやれば立て続けに似たようなレーザー照射がそこかしこで起きている。もしかしなくても逸れた( ^ω^ )氏達の解答もそれなのだろうか?



「ならば、召喚、ボール強化型!+風操作+ライダー」



 今までなら風操作で空中にバラけさせていたが、今度は少し変えて自分の周りに纏わせた。

 巨大なボール強化型の盾を作り、更に陽光操作で影を作る。



【ちょ、アキカゼさん何してるの!?】

【目立つ目立つ!】

【レーザー来てるよ、回避ーー!!】



 無論、回避はする。けれど誰もがショートワープを使うと思っていたのだろう、私が影を踏みながら距離を取っているのを見てコメント欄が一層騒がしくなった。



【あれ? 今どうやって避けた?】

【多分影ふみしてる】

【影ふみって何?】

【アキカゼさん曰くスカイウォークの派生で影を踏み固めて足場にできるそうだ】

【普通に空を歩けるのかよ!】

【歩けるぞ、知らなかったのか?】

【ショートワープばかりが目立ってるけど、この人そういえばパッシヴ極なのよなー】



 コメント欄ではすっかり忘れ去られてた私のビルドが思い出されていた。

 なまじバトルに参加しきりなのもあり、すっかり戦える人扱いされてるけど、本来は移動特化なのを思い出してくれたようだ。


 今でこそショートワープの利便性の良さでそれしか使ってないけど、私の本来のスキル群は攻撃どころか防御もサポートもできないものだった。うん、今更だね。


 スズキさんに呼びかけ、今後の方針を詰めていく。

 一応はカメラマンとして着ているけど、舞い散る火の粉は振り払わなければならないからね。そう、被写体をバッチリ写すためにも!



『さて、スズキさん』


『はいはい』


『準備はいいかな?』


『その前に何をするかだけでも教えてください』


『まずはそうだね、あのレーザーが厄介だから、真上から蓋をする』


『風を止めちゃわないんですか?』


『原理がわからないからね。妖術的なやつだったら発生源がわからないから物理的に防ぎようがない』


『なるほど。それで蓋をすると言っても何を被せるんですか?』


『なーに、ちょっとしたテイマーの応用だよ』



 いくら重力を支配したと言っても、重力操作ならこちらもお手の物だ。

 レーザーの狙い撃ちをボール強化型を具製にしながらボールに出来た影を蹴り上げ上空へ。


 案の定台風よろしく真ん中は凪いでいた。

 しかしそこはレーザーの集中攻撃を一番浴びやすい場所である。だからこそ、それを利用する。



「出番だぞ、山田家。デバフのブレスを浴びせてやれ」



 真上から、超巨大な古代獣を召喚する。

 後ろの方に白い首を生やした山田家は、レーザーで首を打ち取られても瞬時に再生しながら九尾に向けて弱体化のブレスを吐き続けた。

 そこへ重力増加。

 ただでさえ真上に浮かしきれない超重量のヤマタノオロチが風に逆らうようにちょっとずつ降りていく。

 九尾にとってはそれだけでもプレッシャーだろう。

 何せ自分が押しつぶされるかもしれないのだから。

 それに加えて攻撃を遮断される状態異常のミックス攻撃だ。

 自分が受けて面倒だったからこそ、古代獣には効果的面。


 物理と魔法、そしてレーザーに耐性こそあれ一部の状態異常は個体によって耐性がなかったりするものだ。

 けど一部デバフのブレスが風の中に入っていったが、ゲストの6ch連合は大丈夫だろうか?

 そんな思惑を、心でも読んだのかスズキさんが捕捉してくれる。



『ツァトゥグァ様の権能は仲間への状態異常耐性と倍加反射です。むしろ超強化して九尾に跳ね返してますよ』


『わぉ、それはおっかないね』



 スズキさんは魔術ではなく権能といった。

 つまりそれはこちらの殴ると領域に引き込むのと同じでパッシヴ……常時発動しているタイプということだ。

 それならばもっとやれと言われている気がしてさらに召喚を重ねた。



「召喚、シャドウ強化型、タワー! 九尾のスタミナを根こそぎ奪い尽くしてやれ! 山田家はビーム耐性モードに移行だ」



 出現場所は山田家の背中。12本目の首として生やした。

 残り80秒。

 どれだけスタミナを減らせるか見ものだ。

 


 そして80秒も経たずに九尾(五尾)は風を起こすスタミナをなくし、チャンスと見て群がる( ^ω^ )氏達にボコボコにされていた。

 特にサイクラノーシュの一撃一撃が致命傷クラスのダメージを与えてる気がするのは気のせいだろうか?

 


『サイちゃんの攻撃は確定出血効果があります。なので血はいっぱい出るけど見た目ほどダメージは与えてないんですよ』


『へぇ』


『あ、僕も向こうに混ざってきていいですかね?』


『良いんじゃない? 私はカメラマンとして彼らの勇姿を写す作業があるから君は遊んでおいで』


『わーい』



 台風さえ無ければもう何も怖くないと言いたげにどう見ても一方的にやりたい放題な世紀末ヒャッハーの仲間に加わるスズキさん。

 サハギン姿なのに火炎放射器を持って炙っていたのには驚いた。熱くないのかな、というより自分も炙られてるのに気がついてないのかな?


 いつもより強めに背鰭を立て、どこからか取り出したサングラスをかけてノリノリだ。今や立派に彼らの仲間だ。



「|◉〻◉)ヒャッハーーッ」


「ヒャッハーッ」



 幻影同士で世紀末ごっこを楽しんでるようだ。

 しかし途中で飽きたのかこちらへとてとてと歩いてきた。



『ただいまです』


『もう良いの?』


『はい。向こうにリリーである事をそれとなく匂わせてきただけですから』


『ああ、その姿だとやっぱりわからないんだ?』


『相変わらずだと言われましたけど?』


『そう言えば君、昔からそうだったんだっけ?』


『ふひひ』



 意味深に笑われた。

 まぁ良いけど。



「( ^ω^ )予想以上の効率で五尾の討伐が完了した。さすがアキカゼさんだぜ。あ、それと次のモードは分身だ。ちなみにこの分身、一匹づつに耐久がつく。単体そのものは弱いが、九尾モードの時に残しておくと分身した数で一~八の攻撃をするから注意な」


【草】

【おい!】

【重要情報サラッと流すな】

【最悪竜巻が連続で6個来るのか】


「( ^ω^ )? ……何言ってるんだ? 九尾になれば分身は九匹だぞ? だからここで六匹潰しておく必要があるんだ」


【やべぇ】

【俺この古代獣舐めてたわ】

【初見殺しのオンパレードやんけ】

【正攻法がデバフの継続なあたりでお察しだろ】

【そりゃ九尾モードで対戦すれば秒殺される訳だわ】

【全てのモードに耐久つくとかクソすぎるんですけど!】

【ヤマタノオロチ以降、こんな奴らばっかだぞ?】

【テンスリバーのスキュラとか精巧超人ですら手こずってるからな】

【ほぼエンドコンテンツじみてるんだよなぁ……】

【運営からしてみれば前哨戦らしいぞ?】

【次のイベントはまず椅子取りゲームでトップ取るところから始まるからな。全員参加できるのは今んところこれだけ】

【聖魔大戦だっけ? 配信してくれるんだろうか?】

【むしろアキカゼさんほど手の内晒してるプレイヤーも居ないだろ】

【絶対対策されてるよなぁ】

【権能の使い所で勝敗分かれそう】


「( ´Д`)y━・~~よーし、ここからはただの作業だ。各自一匹づつデバフをかけておしまいだ」


「「「「「ヒャッハーーッ」」」」」


【魚の人もノリノリなんだよなぁ】

【一人だけ浮いてるカメラマンが居ますよ】


「え、私はただの雇われだよ? 彼らの中に入る気はないよ。そんなことより自分の仕事を完遂しなければいけないからね」


【草】

【ブレないなぁ】

【思いっきりバトルに巻き込まれてるのにまだカメラマンで行く気か】



 何言ってるんだろうね、当たり前じゃない。

 それに私はロールプレイは初心者もいいところだ。

 彼らのように心から楽しむのは少しだけ勇気がいるよ。

 あと身内から何言われるかわからないからね。

 

 そこ、今更とか言わないの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る