第60話 ゲーム内配信/寄せ集め連合 Ⅳ
遺跡の中は、動力が死んでいるのか殆どの扉にロックが掛けられていた。パスカル君が来た道と通る道を丹念にメモを書き込んでいる。
陸ルート氏は目をビカッと光らせながら遠くまで覗き見ている。まるで懐中電灯のようになってるけど、それは本当に魔法スキルなのか? 妻やランダさんが扱うのとはあまりにも違いすぎた。魔法って便利なんだね。
「ほら、暴れるなって」
「むがーーー」
それを他所に腕の中で暴れる村正君を押さえつけるモーバ君。
彼はそんな役を引き受ける星の元にでも生まれたのだろうか?
「ボス、これでどうやら一周したようだ」
メモ取りをしていたパスカル君が印をつけた場所と、今出てきたこの場所が同じと判断してジャスミンさんに呼びかけていた。
「ぬ、そうか。しかし道中に何もなかったな」
「壁画の類もありませんでしたね」
「ナビゲートフェアリーは如何でしょうか?」
「今のところ反応はないな。パスカル、音は?」
「してない」
「床になく、壁にない。すると……」
私は天井を見上げた。
「探すとしたらそこでしょうね。上のスイッチを押してたどり着いたこの場所。探さないのは愚の骨頂か。オメガキャノン、支度はできたか?」
「隕鉄が足りないですねー」
「ったく、分かったよ。でも20は無いぞ。今はこれで我慢しろ」
それで一体何を作るつもりなのか、素材を受け取ったオメガキャノン氏はその場に座り込んで錬金を始めた。
そして出来上がった大砲の弾を懐にしまい、右ポケットからマジックスクロールを取り出して大砲にセットしている。
あれ、さっきの隕鉄の下りはどこいったの?
「なぁ、今渡した素材で何を作ったんだ?」
「俺の武器ですよ、ボス」
「別に渡さなくてもマジックスクロールは出せたよな!? 何で隕鉄を要求した! 言え!!」
「ハハハ、細かいこと気にしてると禿げますよ?」
「俺はまだ禿げてない!」
「はいはい、大きい音響くんで耳塞いでてくださいねー」
マジックスクロールを使うのに?
しかし私の疑問は大砲の内側から発射された破砕音によって掻き消されてしまう。
チュドドドドドド、ドドドドド!!
たったの一撃で天井に穴が空き、二階への片道切符が開かれた。
ねぇ、ジャスミンさんは天井に穴開けろって言ったっけ?
ジャスミンさんはニコニコしながらもどこか威圧的な気配を漂わせていた。
「……オメガキャノン」
「何ですボス?」
「誰が天井崩せって言った?」
「結果オーライというやつですよボス。お陰でルートが開かれました」
「はぁ〜〜」
ジャスミンさんは顔に手を当てて天を仰いだ。
きっとこのようなやり取りも一度や二度では無いのだろう。
ジャスミンさんの顔には諦めに似たような表情が浮かんでいた。
「問題はどうやって登るかだが」
「そんな時の為のロープがこちらに」
オメガキャノン氏はフック付きロープを取り出してジャスミンさんに渡していた。
「そういう用意はいいよな、お前」
「こんなこともあろうかと用意してたんですよ」
「そうかよ」
どんどんと言葉少なめになっていくやりとり。
相当に負担になっているのだろうな。
だんだん表情が死んでいくジャスミンさん。
ロープを振り回して二階に投擲し、軽い順番に上に上げて最後に登ってきた。
私? 私は空飛べるからね。
「アキカゼさんは今スッと上ってきたよな。空飛べるって便利だよなー、羨ましい」
「モーバ君だって頑張れば飛べますよ?」
「俺は別にどうだっていいんだけどさ、腕の中のこいつが」
「某か!!? 某がどうした!!!!」
自分に話を振られたのが嬉しいのか、村正君は元気一杯に返事をする。心なしか瞳もキラキラしている。
「だーーー!! うるっせぇ!! 抱えてる時に叫ぶんじゃねぇ!!! お前が飛べたら俺が楽になるなって思っただけだよ!!」
「そうか!!! だが拙者は今の状態でも全然平気だぞ!!?」
「俺が平気じゃねーんだよ!!!」
若い子達は元気だねぇ。緊張も何も無いんだろう。
遺跡の中だというのに平常心を保てている。
そんな二人をジャスミンさんが呆れたような目で見つめていた。
「ボス、戦闘準備だ」
そこへ陸ルート氏がボソボソと聞こえるか聞こえないかのような音量で語る。
モーバ君と村正君がスピーカーの壊れたような声ならば、彼の声は虫が鳴くようなものだった。
それでもハーフビーストの耳はその差を拾い取れるのだからすごい。
「何か居たか? 陸ルート」
「多分ゴーレム。さっきのやつとは違う」
「遺跡の守護者か。ほらお前ら、隊列整えろ。アキカゼさんは解析の方お願いします」
「了解。こんな凸凹なメンツでも一つのことに集中すると不思議とかち合うんだからバランスと言うのはわからないものだねぇ」
「本当にな。最初は絶対無理だろうと思ったが、なかなかバランスは良いよ」
ひとつため息をつき、見上げるほど巨大なゴーレムの振り下ろしを受け流すジャスミンさん。
「追撃御免! 斬岩剣!」
態勢を崩したゴーレムの顔面と思しき場所を一気に距離を詰めた村正君が袈裟斬りにして両断した。
物理が通用すれば大した威力だ。
しかしゴーレムにとって頭を失うことは大したダメージになってないようだ。もう片方の手を振り上げて村正君を掴もうと手を伸ばす。
「油断大敵だバカ!」
「モーバ殿!」
村正君とゴーレムの腕の間に割って入り、村正君をいつものように脇に抱えるとゴーレムの掌を蹴って後退した。
村正君はすっかりモーバ君に懐いているようだった。
モーバ君はそれに気づかないふりをしている?
どちらにせよ見ていて微笑ましいことは確かだ。
「射線ヨシ! ファイア!」
そこにオメガキャノン氏の先程天井を粉砕したと思われる弾が発射し、ゴーレムを蜂の巣にした。
如何にゴーレムといえど操る手足が粉砕されれば成す術もなかった。
「なんか落としましたね。何でしょう、これ」
赤く光る石。それがゴーレムを倒した後に残っていた。
「フレーバーでしょうか? 一応預かっておきましょう」
「陸ルートさん、素材なら俺によこしてくれよ。鑑定するぜ?」
「オメガキャノン君に渡すと兵器に変わるにでダメです」
「ちぇー」
過去に同じことが何度もあった?
オメガキャノン氏は相当な危険人物なようだ。
同じくらい奇怪な存在の陸ルート氏の方がまだマシのような気がしてくる。
そしてその石の使い方もすぐに判明した。
「ボス、ここの扉に意味あるげな窪みがあります。陸ルートさん、先程の石を」
流石の考古学者さんだ。パスカル君が扉にある不自然な窪みの用途を思いついていた。
「やはりピタリと合う。これ自体がエネルギーを持ってるようだ」
石を嵌めるとプシューと音を立てて扉がオープンする。
そして部屋の奥にあったのは……リンドブルムに立ち向かう人の形をした何か……レムリア人の姿があった。
「アキカゼさん」
「ええ、これの解読は私の専門分野です」
レムリアの器を取り出し、レムリアにチャンネルを合わせて古代語を読み取った。
[ここに封印するのは我らが秘宝]
[エネルギーを光に変換し打ち出す道具]
[レーザーガンの設計図を隠した]
[この文章を読み解くものよ]
[もしあの怪物が封印から目覚めし時]
[これを使って撃退してくれ]
<真・シークレットクエスト:滅亡を呼び起こす災獣Ⅳが進行しました>
<error:古代獣リンドブルムは既に討伐されています>
<続・新シークレットクエストの条件を達成しました>
<レムリアの遺産が開始されます>
怒涛のアナウンス。
そしてジャスミンさんに聞いた限りでは、YES/NO の選択肢すら無かったという。
「ジャスミンさん」
「ええ」
「やっぱり眠ってましたね、ビーム兵器」
「でもレムリアの器とはまた違う感じで、バリバリの兵器って感じですね」
「きっとレムリア人が現地人にも扱えるように改良したんだと思います」
「なるほど。でも現地人と言うと?」
「ノッカーでしょうね。彼らが文明を築いてた形跡はフレーバーで発掘済みでしょう?」
「ええ。しかしここでレムリアに繋がるとは思いもしませんでした」
「私もですよ。取り敢えずオメガキャノン氏はお手柄ですね。あまり責めないであげないで下さいね? 彼なりに考えての行動でしょう」
「そう言うセリフは実際にあいつと付き合ってから吐いてください。私はこれでも我慢強い方だと思ってました。でもね、あいつは悪意を持って接してくる。役には立っていますがね、私の心臓の負担がとても大きいです」
「それは悪かった。以後素材系は私が渡すよ」
「それはそれでなんか怖いですね」
「じゃあ君が付き合ってあげなさい。私は自分で扱えない素材は全部職人に丸投げしてしまうけどね。君は価値のわかる人間だ。だから何に使われるのか分からず無駄に消費したと思ってしまうんだろうね」
「そうです。売れば一財産築けたと言う気持ちが強い」
「でも探索系の報酬はそれを失っても余りあるゲーム内マネーだ。いずれ気にならなくなるよ」
「そんなもんですかね?」
「そんなものだよ。それに職人の好きにやらせてた方が上手く転ぶものさ。私はそうやって飛空艇を建造したよ? 失ったお金は大きかったが、職人も私も大満足さ」
「それを聞くと如何に自分がちっぽけかがわかりますね」
「人によって素材の価値はそれぞれだ。私の真似なんてしなくていいよ。君のプレイスタイルは君が決めなさい」
「はい、勉強させてもらいます」
ジャスミンさんは少し晴れやかな顔つきでついてきてくれたメンバー達を見据える。
今すぐに関係を改善しろとは言わないけど、彼らが付き合っていく上でどのような化学反応を起こすか今から楽しみだった。
それからゴーレムの赤い石は、着脱可能で扉を三回開けると黒く変色することがわかった。
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