第24話 ゲーム内配信/ぶらり二人旅vs古代獣 Ⅰ

「ランダさん、少し出てくる」


「なんだい、手伝うと言ってきたり出かけると言い出したり忙しないね」


「やる事ができたんだ」


「そう、なら全力でぶつかっておいで」



 バシンと背中を叩かれる。

 気合の一発だ。

 いつもならおっかなびっくりしていたジキンさんだが、今日の彼は普段と違う。物おじせずにその一撃を受け止め切った。



「じゃあ、行ってくる」


「あいよ」



 ランダさんはようやく自慢の旦那が帰ってきたと言いたげにウキウキしている。

 私も妻に挨拶したほうがよかっただろうか?

 そう問いかけると今更でしょう? とバッサリ切られた。

 一皮剥けた男は強い。

 より油断のないカウンターを入れてきて苦笑する。



「で、どこいくんです?」


「やはり討伐戦に挑戦してみたいよね」


「仲間は?」


「私とジキンさんの二人だけです」



 しばしの沈黙。



「正気ですか? 助っ人くらいは呼びましょうよ。例えば秋風君とか……」



 呆れた。そうやって出番を奪われ続けた相手を引き合いに出すあたり、この人の保身主義は筋金入りだ。

 もう誰にも頼らないんじゃなかったんですかね?



「ダメです。あの人はゴーカートの案内係やらヒーローショーの脚本にクランの企画に必要な人材だ。こんな趣味の戦闘に駆り出しては失礼だよ。そう思わない?」


「じゃあスズキさんとか」


「産休中です。もう人に頼らずジキンさんが表に出るしかないんです。諦めて一緒についてきてください」


「はぁ、わかりましたよ。メカは使っても良いんですよね?」


「そりゃもちろん。メカニックにメカを使うなとは言いませんよ。私はテイマーとして挑戦するつもりですから。取り敢えずテーマは古代獣はテイミングできるか? その検証を配信を通してやります」


「また無茶苦茶言い出しましたよ、この人。でも不思議とワクワクしてる自分がいます」


「それは結構。その冒険心は大事ですよ?」



 ◇



「はい、と言うわけで皆さんこんにちわ。アキカゼ・ハヤテです」


「いつもハヤテさんが迷惑かけてます。フレンドのジキンです」


【おっ、きたきた】

【枠おつー】

【わこつー】

【それよりアキカゼさん、古代獣討伐戦参加するってマジっすか?】

【タイトルがそれだから見にきた】


「マジだよ。私は普段風景写真を撮りにきているがね、一プレイヤーとして参加資格がある。だったら挑戦してみようかと思ったんだ」


「僕はその付き添いです」


【被害者乙】

【この人誰?】

【問題児クランのサブマスター】

【問題児言うな!】

【じゃあ同類か】

【ここ掘れワンワンのサブマス様だぞ?】

【ここ掘れワンワンは草】


「事実だから良いですよ」


【お、以外に懐が広い?】

【広いか? めっちゃ顰めっ面だぞ?】

【ハーフビーストにあるまじき感情の豊かさ】

【このゲーム人間臭い二足歩行の獣が多すぎなんだよな】

【あっ思い出した!金狼の親父さんか】

【脳筋の血筋】


「脳筋はともかく普段うちの倅が世話になってます。特に三男」


【三男?】

【金狼の弟?】

【ギンかな?】


「森のくま君だね」


【げぇーー、その血筋か!】

【あ、父ちゃんくま】

【コメント欄にPKが居るぞ、早く追い払って!】


「残念、身内だ。くま、正義なき暴力はダメだぞ?」


【大丈夫くま。レッドネームにしか制裁は加えてないくま】


「ならヨシ!」


【良くないんだよなぁ】

【とばっちりでキルされる人の身にもなれ!】

【この人愉快犯か?】

【子が子なら親も親だな】

【急にこの企画が先行き不安になってきた】

【サブマスも安定の問題児じゃねーか!】

【むしろ問題児の親分では?】


「そんな訳で私達はファストリアにやって来ました」


【おっ、流れぶった切ったぞ?】

【脱線してたから妥当】

【ナイス進行】

【脱線したのは俺らだけど】


「あら父さん? 古代獣に挑戦するって本当だったのね」



 私の前に銀色のスーツを身に纏った一行がやってくる。

 頭部が平べったくなってしまったが、声は変わらないようで安心したよ。その銀色のスーツはオリジナルかな?

 レムリアの軍用スーツにしては色々装飾にこだわりが見えた。



「その声はシェリル? 動画見たよ。大活躍じゃないか」


【声だけで認識できるのはすごい】

【レムリアいくと面影0になるもんな】

【全員同じ格好に見える】

【そうか? ソードマスター、ガンスリンガー、テレポーターで細かく違うぞ?】

【良く見えるな、光学迷彩か知らんがぼやけて見にくい】

【目を鍛えろ、目を。厳密には地下ルートで地の精霊と契約しろ】

【それは草】

【精霊と契約するとステルス看破できるってマジ?】

【マジ。ただ精霊の出どころは割れておらず、シェリルも同じくらい鍛えてるから敵対はしないほうがいい】

【無駄な情報じゃねーか!】



 コメント欄は相変わらず脱線気味だ。

 でもそれで良い。

 彼らは状況を楽しんでいるのだから。

 私の配信でそれが引き出せたのなら願ってもない事だ。



「タイムは縮まったかい?」


「そうね、少し詰めてるところよ。父さんは何をしに?」


「私はちょっとテイミングできないか検証をしに」


「そう、できると良いわね」


「おや、無理だとは言わないんだね?」


「父さんは私がやるだけ無駄だと捨ててきたものを拾い上げて全て覆してきた人よ? だからその言葉は言うだけ無駄なの」


「つれないね」


【サブマスの家族は仲良しなのに、マスターの家族はギスギス?】

【ちゃうで。シェリルはこれでも丸くなった】

【そうそう、前までのシェリルはもっと冷徹だった。今は会話が成立してる。成長したんやなって】

【不器用すぐる】

【可愛げがあるじゃないか】

【不器用な子って可愛くない?】

【お義父さん、娘さんを僕にください!】


「残念ながら既婚者だよ。子供も二人いるし彼女は仕事中心の生活だ。娘が欲しいなら彼女に認められてから勝ち取りなさい」


【はい無理ゲー】

【知ってた】

【シェリルが既婚者なのは有名だろ】

【子供と一緒に遊ぼうとして、その完璧さが仇になって子供が違うゲームに逃げたって噂は本当だったのか!】


「くっ!」



 あ、流れ弾。

 思いっきり過去の自分の行動でダメージを負っている。



「父さん、余計なことを言わないで」


「私は何も言ってないじゃない。君はもう自分のやりたいようにやるって決めたんでしょ? なら向かってくるものはどうする?」


「斬って捨てるわ」



 覚悟を決めた声で、腰のビームソードを引き抜いた。

 セーフエリアだからダメージ判定はないが、今の動作は見えなかった。彼女も本気ということだろう。



「結構、それで良い」


【あーあ、告白ニキに死亡フラグが立った】

【アキカゼさんも煽んないで!】

【ぎゃーー死んだンゴーー(´;ω;`)】

【南無(人-ω-)】

【告白ニキ、無事死亡】

【シェリルに斬られる前に旦那さんがブチ切れるんだよなぁ】

【そりゃそうよ愛妻家だぞ?】

【別に怒ってないよ^ ^メ】

【血管浮いてて草】

【ガチギレじゃん】

【その後、告白ニキの姿を見たものはいなかった】

【やめろ!】


「と、言うことで勝負と行こうか」


【勝算は?】


「それはこれから考える」


【あ、これダメなやつだ】

【けどこの人ショートワープの使い手だぞ?】

【アキカゼさんはな、でもサブマスは?】

【あっ】

【あっ】

【あっ】

【南無(人-ω-)】


「勝手に殺さないでください。一応策はありますよ。ただ無謀極まりないだけです」


【草】

【ちょっと何言ってるかわかんないですね】


「まぁ見ていればわかるよ。行こうか、ジキンさん」


「はいはい」



<ここから先は古代獣:ヨルムンガンドの領域です。戦闘エリアに突入しますか?>


「お願いします」


【期待】

【期待】

【wktk】

【何秒持つか賭けようぜ!】

【あっさり倒しちゃったりして】

【それは流石に……無いよな?】

【わからんが、そういうのも多少は期待してるところはある】

【でもこの人たち戦闘ガチ勢じゃないんでしょ?】

【今まで何を見てきたんだ? ガチ勢じゃ無いからこそここまで注目されてるんだぞ?】

【南無(人-ω-)】

【勝手に殺すな!】

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