第27話 七の試練/虚実 Ⅸ

「これ、まさか向こうの台詞ランダムって事はないよね?」



 実に数回目のチャレンジ。

 同じ徹を踏むまいと押し問答を繰り広げているが、未だに好ましい返事は返ってこない。堂々巡りが続いて、セリフのチェックと高感度のチェックを始めようとしたときのことである。

 先方が違う反応を示したのだ。


 例えば最初の訪問でのこと。

 向こうの挨拶は定型文で[此処へ何をしにきた、名乗れ]と出る。もちろんアトランティスからの使者ですよと言葉を添えても無反応。

 そこで敵意を下げる銀の指輪を全員が装着した途端に[そうか、すまなかった]と突然態度を変えたことから、指輪を6段階で調整して対話するのが正解だと運良く気がついた。


 しかし次が不味かった。

 私なりに立ち話もなんだろうと椅子から立ち上がったレムリア人に座る様に促したのだ。

 そうしたら彼は大層怒って問答無用でこちらに光線銃を向けて順番にキルしてきたのである。

 まさかまさかの展開に開いた口が塞がらない。


 じゃあここからは死ぬのを覚悟で検証しようかと思った時、なんと彼の対応が変わったのだ。


 「椅子に座ったらどうですか?」と言う言葉に[では、そうさせてもらうか]と、簡単にこちらからの話を飲み込んだ。


 もしかしてこれ、ダンジョンの出入りではなく、ログインのし直しで感情値がリセットされるタイプなのだろうか?

 だとしたら厄介極まりないぞ。

 それはつまり繰り返しの出入りによる検証ができないと言うことだ。なんともプレイヤー泣かせのギミックだが、種が割れればやりようはあると指輪の付け替えと質問と正解の答案の精査で挑むこと50回目。


 ようやく友好的な態度のまま事の真相に触れることができた。

 コツを語るなら、接待プレイの様に相手に得意げになってもらい、こちらはひたすらに下手に出ること。

 そんなありきたりなテクニックでレムリア人は協定を結んでくれた。

 友好の証として、各自に身分証がわりの光線銃が手渡された。

 すると同時に頭の中でピコンと電子音が鳴る。

 ともすればこれがクリアなのだろう。皆も似た様にどこかホッとしていた。



[七の試練:共闘ルートをクリアしました]



 やっぱりルート分岐系だったか!

 探偵さんが悔しそうな顔をしている。

 これって一度クリアするともう一回挑戦できない奴かな?

 ダメだったら諦めるとして、挑戦できるならしたいと探偵さんが漏らしている。まぁ気持ちは分からなくもないけど。



[レムリアの器を手に入れました]


[称号:レムリアとの盟友★を獲得しました]

効果:レムリアの器の能力を最大限に引き上げる。



概念武器[レムリアの器]

スキルを光線に乗せて遠くまで射出、効果を発揮する。

装備時、レムリア人から敵対認識されなくなる。

装備時、ムー人から問答無用で攻撃される。



 これは受け取ってしまって良いんだろうか?

 いくらアトランティス側の悲願だとはいえ、未だ出てこないムー人と敵対ルートまっしぐらですよ?

 と、相手のレムリア人がこちらを伺っている。

 クリアして終わりじゃないと証明してみせねば行けないか。



「こんなものまでいただいてしまって良いのでしょうか?」


[問題ない。友好の証だ。是非受け取ってくれ]



 裏切ればわかるな? と言う意味も含んでいるのだろう。

 怖い怖い。



「では最後にもう一つ。外の景色の見える場所へ案内していただけませんか?」



 ダメ元で聞いてみる。

 何せここまで一切表の光が見えないダンジョンだった。

 外で待機している赤の禁忌のどこかしらに隠されている暗号を読み解くためにも外の景色が見える場所が必要不可欠なのである。



[そんなものでいいのか? いいだろう、ついてこい]



 レムリア人はノリノリで私達を案内してくれた。

 ……観測室へ。

 違う、そうじゃない。


 しかし彼らレムリア人からしたらそれが常識なのかもしれないか。身体中はよく分からない金属に覆われており、それらは物理法則を無視した現象を周囲にもたらす。

 つまりそうでもしないと肉体を維持できない場所なのだろう、ここは。

 そう思えば可哀想に思えてくる。

 私達老人世代に比べて娘世代は今やVR世界に閉じこもっている。外に出ていられた期間はあまり多くない。

 流行病は老人達と若者を分断し、VRの中へと追いやってしまった。

 彼らはそんな防護服で身を守ることで表に出られている。

 そんなふうに考えてしまった。


 ……全く違う可能性、見当違いもあるが、こういう妄想は勝手に膨らんでしまうものだ。

 なので彼が少々不遜な態度を取っていても可愛らしく思えてしまう。

 ちなみに性別の判断は今だにできていないので彼と呼ばせていただいている。女性だったらどうしよう。

 だが今はヨイショし続けようと妄想を振り払ってレムリア人に向き直る。



「素晴らしいところですね」


[そうか? 見飽きた風景だ。好きに見るのは構わんが、勝手に触らぬ様に]



 口調ではツンツンしているが、声はどこか誇らしげだ。

 個体としてと言うより、レムリアの技術力を褒められて喜んでいる様に感じる。

 スズキさんがツンデレですねとこぼしていた。

 そうかもしれないね。そんな感情が彼らに残されているかは分からないけれど。


 目的のものは見つかった。

 しかし触るなと言われてる手前、液晶の向こう側にいる赤の禁忌をズームなりできないものだろうかと聞いてみる。



「申し訳ありません、少し良いですか?」


[どうした]


「私達の乗ってきた船を見たいのですが、画像を拡大をしたいのです」


[そんなこともわからぬか?]


「触るなと言う事でしたので」


[そうだったな。うっかりしていた……これでどうだ?」



 レムリア人は腰のホルスターから引き抜いた光線銃……もとい、レムリアの器を液晶パネルに向けてコネクトし、画像を拡大をしてくれた。

 確かに直接は触ってはいないけど、それはありなのか?

 そう思いながら自分でもやってみる。しかしなかなかうまくできない。こんな時に自分はコンピューターに弱いのだなと自覚する。勤続時代はあれほどお世話になったのに、こんなにダメになるかと内心焦りが止まらない。

 おかしいなぁと何度も操作をしている内に、背後から声がかかった。



「焦ったいですね。どれ、僕に貸してみなさい」



 ジキンさんがしたり顔で操作に割入ってくる。

 しかし操作をしながらみるみる内に顔色を青くさせ、操作の手を私に委ねてきた。



「僕には無理でした」



 何しに出てきたんですか、この人?

 やっぱり操作できないんじゃないですか。

 ちなみに探偵さんと女性陣にもさっぱりで、ダメ元でスズキさんに頼んだら簡単に順応していた。


 

「さすが、若者代表!」



 探偵さんが褒め称える。

 輪の中にすっかり馴染んでて忘れてたけど、この子こう見えて娘と同じくらいの年齢なんですよね。すっかり忘れていたよ。



「慣れるまでコツが要りますけど、慣れちゃえばすぐですよ?」



 彼女はそう言うが、年寄り連中は顔を見合わせながらゲンナリしていた。

 体は動くしアイディアは無限に湧いてくるが、どうにも若者ほど頭の中であれこれ操作するのが苦手なのかもしれない。

 そんな当たり前の現実に一人を除いて落ち込んでしまう。



「それよりもハヤテさん、目的のものは見えました?」



 液晶パネルの視点をグリングリン動かしながらスズキさんが聞いてくる。

 そんな勢いよく視点を回されたら見えるものも見えないと思うんですけどね? そう聞いたら可愛い感じに「テヘペロ」をされた。

 こういうところは子どもっぽいんだよね。

 だから逆に心配になる。孫世代ならまだしも、この人娘世代なんだよな、と。


 目的のものを手に入れて赤の禁忌へ凱旋。

 今だに[七の試練]に向かうプレイヤーの多さから、すっかり人気スポットの一部になっている様だった。

 そりゃオリハルコンが出土するなら人気も出るか。


 道中でもりもりハンバーグ氏と娘のフィールと挨拶する。

 クリアした事を仄かしたら、少し悔しそうな顔をしていた。


 とはいえだ。彼女が素材にしか興味を示さない様に、クリア特典はあまり攻略に嬉しいものでもありゃしない。

 そんな風に思っていた私に対し、ランダさんや探偵さんは謎の行動を仕掛ける。

 なんと鉱脈スポットにつくなりレムリアの器から光線を浴びせかけ、無作為に採掘を行なっていたのだ。一瞬のうちに採掘を終えた彼らは、ノータイムで採掘結果を得られてホクホク顔を浮かべている。

 周囲で真面目に採掘していたプレイヤー達は何がなんだかわからないという顔。

 が、探偵さんやランダさんの足元……レムリアの器の真下にポロポロと鉱石が落ちていけば話は変わる。

 目の色を変えたプレイヤー達が私達に殺到するのは時間の問題だった。

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