第40話 チェインアタック

 

 永井君がギルドへの加入をしている間に私はコールでパープルにアポイントメントを取る。

 流石に今の今で協力してくれというつもりはないので、また時間を合わせて集まろうとしたんだけど……



「お義父さん!」


「お父さん!」


「やあパープル、それにオクト君。君も来てくれたのかい?」



 パープルの他にオクト君も来てくれた。

 理由としては当時戦闘スキル無しでどのようにポイントを所得したかわかりやすく教えるためのコーチとしてきてくれたらしい。



「それでお義父さん、彼は?」



 オクト君は私の近くで妙に格好つけていたところを怪しい目で見られていた。まぁ確かに原作での彼を知らなきゃ怪しいですもんね。アニメチックなツンツンとした赤髪に、ロングコートにトレンチ帽。ポケットには探偵七つ道具なるものを忍ばせているし、虫眼鏡を持ち出しては、何かを確認している。

 一見すれば不審者だ。



「あはは、彼は秋風疾風。私の学生時代のリアルフレンドさ」


「今紹介してもらったように私は秋風。探偵を生業としている。よろしく頼むよ」



 妙に格好つけたポーズで永井君は片手を差し出し、オクト君は乾いた笑みでそれを受け取り握手する。

 どうも彼独自のRPに気圧されているようだ。



「……まさかの同姓同名ですか?」


「私はカタカナで、彼が漢字だ。一応原作イメージに忠実なのがこっちの方。区別するためにも彼のことは今後探偵さんとでも呼んでやってくれ」


「はぁ、わかりました」



 オクト君は疲れたような返事をした。

 パープルはあの時コールが来た理由はコレねと妙に納得したように頷いていた。



「さて、早速クラン結成についてのシステムを教えてもらおうか」


「はい。情報としてはすでに周知されてますが、まず最初にクランを立ち上げるリーダーの冒険者ランクがCである事が条件です」


「うん」


「そのランクを上げるのに必要なのがエネミーを討伐した時に現れるリザルトポイントです」


「なるほどね。あのポイントはなんのためにあるのかと思ったけど、そっちに繋がったか」


「すでにご存知でしたか?」


「ポイント自体は知っている。けれど取得システムについては詳しくない。教えてくれ」


「はい」



 オクト君の説明では、討伐にかかった速度、討伐に関わった貢献度によって評価がされるのだとか。

 この場合、写真撮影などで情報を抜いただけではポイントは入らないらしい。

 しかし戦闘中の動き方次第ではダメージに貢献しなくとも高ポイントを取るやり方があるらしい。それが……



「はい、拘束です」



 私達は今ファストリアの戦闘フィールドに来ている。

 そしてオクト君は靴でボール型を踏んづけていた。

 それで拘束できてしまうのがなんともだけど、一応はこれにもコツがあるらしい。なんともなしにやられた時は何かと思ったよ。


 オクト君曰く、ボール型には小さな足が付いているらしく、それを接地させなければこのように簡単に自由を奪うことができてしまうらしい。


 ボール型の攻撃スタイルは弾んでからの突進だ。

 身動きさえとられなければ、拘束ボーナスがつくんだとか。

 確かに拘束と言えば、そうなんだけど。

 絵面は完璧に弱いものいじめしているみたいで気が引けた。



「まぁ初見は気が進まないものです。でも僕はこうやってクランマスターになりました。決して恥ずべき行為ではないんですよ」



 確かにそうかもしれないけど。



「うむ」



 踏んでみた感想は雲に乗っている時に近い。

 踏んでる感覚はあるんだけど、低反発で押し返してくる。



「どうです?」


「意外と抵抗があるね」



 雲よりは、という意味合いで。

 しかしオクト君は違う意味合いで捉えた気がした。



「慣れないうちは大変ですよね。でも武器を使わない手段で一番安全な手段が足で踏むことらしいです。手で不用意に掴むと体表に取り込まれちゃいますからね。ダメージももらいますので踏むのが安全です」


「なるほど」


「だいたい20秒ほど拘束してれば100ポイント貰えます」


「ちなみに倒すと?」


「30ポイントですね」


「随分と違うんだ」


「ボール型は弱いですから。アタックスキルを用いれば容易に倒せてしまいます。しかし普通に倒すのと、こうやって動きを止めてから倒すのでは意外と差が出てくるんですよね。よっ、ほっと、パープル」


「はい、これっでとどめっ」



 私の拘束していたボール型をオクト君が横から奪うとそれを蹴り上げて、パープルにパスした。

 宙に放り上げられたボール型にパープルの弩弓から放たれた矢が穿つ!

 ボール型にとってはオーバーキルだったのか、泥で形成された体はその場でパンッと破裂した。



 《リザルトポイント》

 戦闘時間00:04:32:09

 【ボール型/ノーマル:1】

 ▶︎チェインアタック:3HIT(+30%)

 ▶︎バインドサポート:+100

 ▶︎ラストアタック :+ 30


 アキカゼ・ハヤテ[130]

 秋風疾風    [  0]

 オクト     [130]

 パープル    [ 39]


 ■ドロップ

 なし



「これがポイントを多く貰えるコツの一つ。チェインアタックです。掲示板では連撃と呼ばれてますね」


「連撃?」


「攻撃をパーティメンバー同士で連携して組み立てていくことで発生するボーナスです。本当ならソロでサクサク倒していくより、連撃を用いてメンバーと一緒に倒していく方がポイントもドロップも美味しいんですよ」


「そうなんだ。マリンはボール型からはドロップはないと言ってたけど」


「それは勉強不足ですね。ボール型からもドロップはありますよ。ただし連撃回数によっては落ちません。そうですね、検証班の結果では5回以上だと聞いてます」


「なるほど」


「少し良いかな?」



 そこで永井君が手をあげる。

 オクト君は頷き、続きの言葉を促した。



「今見た限りでは連撃を行う際、ダメージは関係ないように思えた。そこで連撃は自分から自分につなげることはできるかなと思って質問する」


「残念ながら出来ません。チェインはあくまでもパーティ専用のテクニックです。それが出来てしまったらソロでもいいやとなってしまいますから」


「なるほど。理解した」



 そう言ってメモを書き込む。すごく楽しそうに、先ほどの考察と絡めてうなずいた。



「探偵さんは昔からあんなお方で?」


「そうだねぇ、マメな男だよ。さっきもボール型を倒すのに検証を繰り返していた。生真面目すぎて付き合うのに疲れる男でもある」


「お義父さんがそれを言うんですか?」


「ははは。よく聞こえないなぁ」



 オクト君から自分に向かった視線を払い、すっとぼける。



「そんなことより連撃について話を戻そう。さっきの話を統合するに、連撃を繋げることに意味があると理解したが、サッカーのリフティングのようにパスし合えば済む話なのかな?」


「いいえ。あくまでも連撃はエネミーが攻撃態勢に入ったら途切れてしまうものです。だからここで拘束という手が生きてきます」


「つまり?」


「バインド状態になるまでに20秒かかりますが、バインド状態の時間は3秒にしかならないんです」


「ふむ。つまり連撃にこだわりすぎてもダメってことか?」


「はい。これはあくまでも狙えたら狙えるものであって、絶対に狙わなければならないものではありません。狙ってできたら美味しいのは確かですが、失敗したら元も子もありません。最初は2連撃を想定して繋げていくのが良いでしょう」


「うん、了解した」



 オクト君はあくまでも連撃回数に拘らず、100ポイントを堅実に重ねていけと伝えたいらしい。

 それは確かに狙えれば狙っていきたいね。

 おっと、大事なことを聞きそびれた。



「そう言えばランクFからランクEに上がるまでの必要ポイントは?」


「3000です」


「上手くいけば30回戦闘すれば済むわけだ?」


「上手くいけばですけどね? 失敗したら100回戦闘する必要がありますから」


「それは少し面倒だね」


「はい、だからパスは一回が理想です。二回以降は、パーティメンバー次第ですね。無理をしてまで取る必要はありません」



 なるほど、ここまで念を押してくるあたり、結構コツが必要らしい。



「ならオクト君の指示に従うよ」



 肩を竦めながら私はそう答えた。

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