第25話 鳴り響くシステムコール


 セカンドルナの街にたどり着いた私達は徒歩で領主邸まで歩いて行きます。

 正直な話、馬車で行く必要性を感じなかったと言うか、あれだけセキュリティがバッチリなら許可証さえ持ってれば問題なく入れると思ったからです。と、その前に。



「どんさん、パーティよろしいですか?」


「ただの山登りに必要なのか?」


「どちらかと言えば通行パス関係で必要になります」


「そう言うことなら了承した」



 もっと事前に言っておけば良かったですね。

 領主邸に向かう前に歩きながら雑談中、ついでに投げて受け取っておく。これで問題なく入れますね。


 はい、二名様ご案内、と。

 無事入場できたのを確認しつつ、これから敷地を散策することを領主様に報告しておきましょう。

 まぁ私がドアの前に立つと自動ドアのごとく開くんですけどね?

 領主様とは特に会話らしい会話もせず、これから登りますんで朗報をお待ちください的なやりとりをしてからどざえもんさんを連れて裏庭に到着。


 

「さて、ここにある明かに私有地の坑道は無視します。良いですね?」


「良いですね、っていうか坑道ってたかが銀鉱石だろう? この街の唯一の産出品だ。今更珍しくなんて……」


「たかが銀鉱石を入手するのにここまで許可を取る必要があるというのならばそうなのでしょう」


「なんだか含みのある言い方だな。ああ、つまりそれ以外の鉱石も出てくるわけか?」


「さぁ? ただそう考えた方が納得はできると思いませんか」


「まぁな。でもその藪を不用意に突けば確定で蛇以外の何かが出てくる、そんなところか?」


「そうですね。深入りはするなとありがたいご忠告を受けてます。それとまだ領主様から100%信用されたわけじゃないので、ここは素直に従っておいた方が今後につながると思いませんか? さて、ここに取り出したりますは敷地内を自由に歩ける場所を記したマップです」


「拝見しよう」



 広げたマップを画像取り込みでいつでも見れるようにしつつ、メールの画像添付でどざえもんに送る。

 それを受け取りながらもどざえもんさんは顔を顰めていた。



「……正直、ここまで念入りにする必要があるのか?」



 マップの受け渡しの件でしょうか?

 しかし念入りという言葉を聞いて、そうですねとしか答えようがない。



「ええ。ここのマップ自体の流出は出来れば避けたいです。なにせ関連イベントが秘匿に秘匿を重ねたものでしたので」


「おい、つまりここにきた時点で俺は十分にその秘匿イベントに巻き込まれてるってわけだな?」


「はい。まぁどのみち連れてくるつもりだったのでそこは諦めてください。私は同じスキル持ちの人と普通に山登りを堪能したかっただけなんですけどね」


「アキカゼさんはそういうところがある人だなってなんとなくは思ってたが、ここは誘いに乗った時点で俺の負けだな」


「別に勝負をしたいわけでもないんですけどね。さ、ここからが探索許可範囲です」


「さっきマップを貰ったが、ずいぶんと山の端っこなんだな」


「まぁ中央に何かあるんでしょうね。あまり詮索しない方がいいやつがあると思って良いです」


「そう言われるとすごく気になるんだが?」


「私もです。でもせっかく築いた友好関係を壊してまで勝ち取りたいわけでもないですし、今は普通に登山を楽しみましょうか」


「だな。道中でそこはかとなく不穏な気配を感じたが、念願の本命ルートだ。腕が鳴るぜ」


「やはりどんさん的にもこの山脈は登る価値があると?」


「そうだな、ここらへんで山岳地帯があるのはこことファイベリオンくらいだが、あっちにあるのは活火山だ。登るのも命がけだよ」


「なるほど」



 つまりそこに地に逃れた精霊達がいる訳だ。



「なんか特定された気がするけどどこから登る?」


「はっはっは。なんのことやら。取り敢えずは特に考えずに進みましょう。ルート捻出も登山の醍醐味でしょう?」


「その通りだ。一応同好会では新規募集も兼ねてルート捻出はメンバー全員でチェックしてから出発するようにしてるが、こういった特別のルートが前提だとその手は使えない。が、杞憂だったようだ」



 どざえもんさんなりに私に気を使ってくれてたようですね。

 でもそれを杞憂だと思わせることに成功した。

 その点だけ見るなら大きな前進でしょう。

 私は初心者ですけど、こちらではそれなりに登れると自負してますからね。

 そこを汲み取ってくれるだけでもありがたい。



「そういう事です。垂直移動に木の呼吸。これの有無で難易度は大きく変わります。むしろ難易度が高い方が楽しいと思ってしまうくらいですよ」


「まったくもって同意だな。ここまで意見の合うプレイヤーに出会えるとは思わなかった。今日は改めてよろしく頼む」


「ええ、今日は煩わしいしがらみは一旦横に置いといて、思う存分登山を堪能しましょう」


「勿論だ」



 と、思っていたのも束の間。

 一時間にも満たない絶壁を上り切った先、許可が降りた私有地内の山脈の中腹層に大きな竪穴を発見した。

 この明かに何か眠ってますよ的な雰囲気に、私のみならずどざえもんさんも何か嗅ぎ取ったようだ。


 そこにあったのは一定の広さを持つ空間、所謂行き止まりというやつである。だと言うのに、先ほどから今まで踏んできたイベントフラグが警鐘を鳴らすようにして明滅した。

 そう、つまりそれは……新たなフラグを呼び起こす起爆剤となっていた。



「アキカゼさん、どうやらこの場所は俺たちに特に縁のあるイベント関連のもののようだ」


「そのようですね。お陰でまったく身に覚えのない呼吸関連がフルオープンしてます」


「俺もだ」



 けれどそれだけではなく、その先に繋がる呼吸の情報まで判明していた。その上位とも呼べるスキルは無の呼吸。残念ながらスキルを解放しない限り詳細は不明瞭なので多くは知りません。

 けれどただでさえ旨みしかない呼吸系のその先、気にならないと言ったら嘘になります。


 ここにあるのは呼吸をもってる前提、つまり妖精関連。

 そしてそれらを解放しなければ到達し得ないと言われた気がして改めてその難易度の高さに武者震いする。




【パッシヴ:21】[▶︎スキル派生 / スキル詳細]


 ┣『持久力UP』━━━┳━『ST消費軽減』

 ┃ ┣『持久力UP中』┫

 ┃ ┣『持久力UP大』┫  

 ┃ ┗ 『持久力維持』┻━ ST維持:51/150

 ┃            ┗EN維持:51/150

 ┣『木登り補正』━━━┳『垂直移動』

 ┃ ┣『クライミング』┫ ┣重力無視:80/100

 ┃ ┗『壁上り補正』━┛ ┗スカイウォーク:50/200

 ┣『水泳補正』━━┳━━『水中内活動』

 ┃ ┣『潜水』━━┫   ┣海の眼:50/600

 ┃ ┣『古代泳法』┫   ┗海の手:50/600

 ┃ ┣『水圧耐性』┫

 ┃ ┗『海底歩法』┛

 ┣『低酸素内活動』━━━━━━┳無の呼吸:200/700

 ┃ ┣━石の呼吸:60/150┫

 ┃ ┣━火の呼吸:50/150┫

 ┃ ┣━空の呼吸:50/150┫

 ┃ ┣━雲の呼吸:50/150┫

 ┃ ┣━炎の呼吸:50/150┫

 ┃ ┣『木の呼吸』━━━━━━┫

 ┃ ┗『水の呼吸』━━━━━━┛

 ┗『命中率UP』 ━━妖精眼:50/1000

 ┣『クリティカル』

 ┗『必中』


【称号:4】

『妖精の加護/特殊スキル:妖精看破』

『木登りマスター/特殊スキル:垂直移動時速度上昇』

『古代の代弁者/特殊スキル:古代言語理解』

『セカンドルナの代理許可人/特殊スキル:私有地内散策』



 なんだか一気にきましたね。

 それもまったく身に覚えのない行動に対してもあっさりポイントが振られてしまっている。

 法則を見る限りどうも50づつ振り込まれてるようです。

 これってプレイヤーにとって旨みしかないやつでは?


 一応パシャパシャしておきましょうかね。

 しかしこれをどう取り扱いましょうか?

 自分一人ならブログに載っけてフレンドさんの慌てる様を鑑賞……じゃなかった、右往左往してる様を微笑ましく見守ることもできるんですけどね。


 しかしここに来るには私一人では無理だった。

 どざえもんさんという強力なライバルがいてこその頑張りがここに至れるまでの活力になっているのも確かなんだ。


 だってあの人私がどうやって登ろうか考えているところをスイスイ登っていくんですよ?

 その上で「行かないのか?」だなんて煽られたら、ねぇ?

 そこで足踏みしてるのがなんだか馬鹿らしくなってしまうじゃないですか。

 諦めて後悔するなら悔いのないようにやれることを全部やって後悔するべきだと教えられてここまで来れた。

 その事実こそがこの到達点。


 彼ら山登り同好会からしたらこういった情報は喉から手がでるほど欲しいでしょうし、一応声だけかけておきましょうか。

 もし有効利用されるんでしたら私としても本望です。

 だって私の目的なんてあってないようなものです。

 今日こんなところに行ってきたよ、そこに行くまでこんなことがあって大変だったとフレンドさんと語り合いたいだけですからね。

 だから必要ならもっていってくれても問題ないです。


 こっちは十分過ぎる恩恵をもう貰ってますからね。

 どざえもんさんというプレイヤーとの出会いは私の気持ちを確実に10歳は若返らせてくれましたよ。

 逆にそのお返しがこんな些細な情報なんかで申し訳ない限りですが。



「それで、どうします? これもそちらのスポンサーに引き渡しますか? 私は別にもっていかれて困るものでもありませんが」


「これはやめとこう」


「どうしてです? 控えめに言って大発見だと思いますが」


「大発見だからだよ。でも俺たち以外に現時点でここまで来れる奴って一体どれ程いる? まず登山部のメンバーは全員アウト。呼吸系をもってないからな。つまりその時点で呼吸をもってる前提に絞られてしまうんだ。俺の言いたいことは分かるだろう?」



 なるほど納得。ここまで状況証拠を揃えられたらさすがの私でもグウの音も出ません。

 つまり公開してもその場所を確認のしようがないと?

 プレイヤーとはそれだけ情報の難易度にこだわるみたいですね。

 特定の条件を満たしたものにしか訪れることしかできない場所ほど無価値なものはないと言いたげにどざえもんさんは嘆息していた。



「やっぱりやめておきましょうか」


「それが賢明な判断だ。それとここは私有地だろう? もとより何かを秘匿してる前提の場所だ。そんなところに欲にまみれた連中が押しかける。その先、どんな未来が待ってるかなんて想像するまでもないだろう? 俺だってアキカゼさんから誘ってもらった手前、そんな不義理は働きたくないしな。このスキルポイントはありがたく受け取っておくが、何でもかんでも情報を公開すれば良いってもんでもないんだ」


「ごもっともで」



 私はどざえもんさんに言われるがまま、標高200メートルに達する山脈の中腹を下山した。

 そこに至るまで一切の足掛け場はなく、ほぼ90度の垂直が待ち受ける。降りるのにはとてもありがたい地形だが、確かに登るのは厳しそうだと今更ながら思った。

 それを登れてしまう私も、我先に上り切ってしまうどざえもんさんも明かに規格外。

 だからこその発見をおいそれと公開するものでもないと諭されて、私達はセカンドルナの街でパーティを解散、そのままログアウトする事にした。

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