第13話 近況報告


「ああ、そう言えば」



 朝食後。家族と一緒にのんびりとした時間を過ごしている際、昨日どざえもんさんに大見得を切っていたことを思い出し、相談してみることにした。



「どうしたんです、お義父さん?」



 尋ねてくる秋人君に対し、お茶を一杯飲み込みながら本題を打ち出す。



「君のクランで熱耐性の装備とか、火傷などを治す、又は予防する薬品など扱ってないかな?」



 再びお茶をすすり、飲み込んだ。

 秋人君は少し考えながら言葉を選ぶ。



「作れます。が、何に使うか用途を聞いても?」


「うん。実は私が使うんではなくて、それを用意する代わりに私がスキルを教わる形で約束していてね。そのために必要なものなんだ。もちろん製作にかかる材料だってあるだろうし、お金は払うよ。引き受けた関係上、製作できるかどうかの有無を聞きたくてね」


「成る程。物は出来ます。ただし在庫がなく、一からなので素材から集めることになり、その分お時間を頂くことになりますが」


「それは良かった。完成したら私に連絡してくれ。私から彼に持ちかけよう」


「その人って昨日お爺ちゃんが出会った登山部の人?」


「んー、ナガレさんではないなぁ。そのあと合流した人でね。ドワーフの人だったんだ。ドワーフなのに登山してるって面白いよね」


「確かに面白いですね。ですがドワーフは火に耐性があった筈ですが……一体何に使われるんでしょう?」



 秋人君曰くドワーフとは山に住み、鉱山夫として鉱石を掘ったり鍛治をして生計を立てていたりするらしい。

 だから少しくらいの火傷ならなんともないのだとか。

 確かにあの人が負う火傷の規模か判別がつかないな。

 作ってもらったはいいが、効果がなかったら意味もないか。



「これを言うべきか迷ったんだが、製作を頼む手前言ってしまうか」


「?」



 秋人君を始め、由香里や美咲まで頭の上にクエスチョンマークを置いて首を捻る。私は十分に間を置いてから語った。



「実は彼は私と同じく妖精発見者でね。マグマに覆われた向こう岸にその国を発見したのだと言う。そのための防具であり、薬品だ」


「「「!!」」」



 ようやく理解してくれたようだ、事の大きさを。

 そして生半可な耐性では耐え切れないであろう事実に。



「お義父さん!」


「うん」


「その話はどこにも持って行ってないですよね?」



 秋人君が私の両腕をがっしりと掴んで顔を覗き込む。

 彼がここまで興奮するのも珍しいね。

 つい先日の娘を彷彿とさせる。少しだけ怖い。



「彼、その依頼人は人見知りをすると言うことになってるし、今回その話を振ってくれたのも私がとあるスキルを明かしたからなんだ。美咲も知っているよね、水の呼吸というスキルを」


「うん、あの持ってるだけで行動中でも常時スタミナが回復し続けるやつだよね? もしかして……」


「ああ、彼は私がまだ取得していない土の呼吸を所持していた。そして称号の妖精の加護もだ。つまり妖精と出会うことが呼吸系のスキル取得につながる可能性が高い」


「そうだったんだ。でも普通に遊んでてもそれは見つけられないってことだよね?」


「難しいだろうね。私だから、その人だから到達し得た領域と言うものがある。その人もね、私と同じでパッシヴスキルしか持ってなかったんだ」



 私と孫の語らいに対して由香里は理解できないままに頭にクエスチョンマークを浮かべ、秋人君は難しい顔をしている。



「待って待って。お父さんの持ってくる情報、毎度毎度密度が大きすぎて頭が理解を拒むの。何よ、行動中にスタミナが回復するって。そんなスキル聞いたこともないわよ」


「お母さん、お爺ちゃんのすることだよ? 常識じゃ測れないっていい加減学びなよ」



 混乱する娘を慰めるようにかける孫の声。

 ちょっと待ってくれないか?

 私だから仕方ないみたいに言うのはやめて欲しい。

 それではまるで……いや、よそう。

 身に覚えがありすぎて自分で自分を擁護できない。

 それだけ周囲には世話になってるからなぁ。

 そこでずっと黙り込んでいた秋人君が口を開いた。



「分かりました。マグマ耐性の防具は作った事はありませんが、偶然にも前回のイベントで配られた未知の鉱石があります。それをうまく扱えば耐性を付与して賄える事でしょう」


「流石だね」


「それと昨日お義父さんがお話しされてた件ですが」


「領主邸の話かな?」


「はい。一応話をつけたのですが、商会長がぜひお義父さんと面談したいと申してきまして、後でお時間を頂けますか?

 それほどお時間は取らないと思います。何やら確認作業をしたいとだけ言ってましたので」


「うん、構わないよ。秘匿してるにせよ、セカンドルナにとっての一大事業だろうからね。それに私有地に入るんだ、人となりを確認するのは卸業者だろうと当たり前のことだ。付き合うよ」


「ありがとうございます。僕からは以上です」


「それじゃあログインした時にでもまた連絡するよ」


「はい」



 秋人君は座ったままでお辞儀をしながら自室へと旅立つ。

 今日は休日とは言え、やる事は多いらしい。

 部屋に入っていくのを見送ると、次は娘が立ち上がった。



「私からも特にないわね。ただ回復ポーション関連で火傷を回復する類は現状ないからクランは防具関連で検討すると思う」


「分かった」



 自分は生産に携わってないと言うのに、ここまできっぱり言い切れるのはクランの統括を秋人君の代わりにしているおかげか。

 メンバーがどの程度のスキルを有しているかを完璧に把握し、且つどの程度の作品を制作できるか頭に叩き込んでいるからこその余裕を見せる。

 娘は炊事の続きをしているようだ。


 今の段階から昼食が待ち遠しくなってしまう。

 洗い物くらいならいつでも手伝うんだけど、私の手より食洗器の方に信頼が傾いてしまっているのが頂けない。

 うぅむと唸りながらも違う手を考えていると、続いて孫も立ち上がって言葉を綴る。

 今日は特にどこかへ行くとは聞いていないが、私に気を使ってくれている事だろう事はその表情から窺えた。



「私からも特には。お爺ちゃんはまだ山登りする感じでしょ?」


「そうだね」


「じゃあ待ってればブログアップするよね?」


「そうだね。美咲だけじゃ行けない場所の写真をいっぱい撮ってこようと思う」


「じゃあそれを楽しみに待ってる!」


「そうか。書き込みをしてくれてもいいんだぞ? シグレ君を皮切りに、私のブログも書き込み数が増えてきた。そこに美咲の、マリンの思いも込めてくれると嬉しいな」


「ちょっと恥ずかしいけど、わかった」



 そう言って自室へと駆け込む。

 部屋が閉じるのを確認してから私も重い腰を上げた。

 今日は誰とも約束をしていない。


 どざえもんさんもリアルでは自営業をしているとかで休みはあってないようなもの。

 普段は19:00〜23:00の間のログインしかしておらず、連絡を取るにも今からでは早いくらいだ。


 私は席を立つと自室に戻り、ゲームを起動する。

 AWOではなくVR井戸端会議の方を。

 

 さて、今日は何人接続してるかな?


 誰を待つでもなく、読みかけのコミックの続きを読む目的のため、私の意識は電脳世界へと旅立った。

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