第06話 登山までの長い道のり


「まず最初に私がこの街でやりたい事をマリンには事前に伝えておこうと思うんだ」


「うん」


「取り敢えず、あそこ」


 遠くに見える景色と一体化した山脈を指す。


「あそこの上に登って写真を撮りたい。そこにいくまでのルート確保をマリンも一緒に考えてくれないか?」


「いいけど、可能なの?」


「ちなみに私はファストリアで初志貫徹したぞ? あの石壁の上からはどんな景色が見えるんだろうってずっと考えて動いたよ。もちろん外部から上に上がる通路はなく、歩き回っていくうちにクエストで内側に行けた時は驚いたもんさ。そこは通常のプレイではの立ち入れない場所だったけど、フレーバーアイテムを獲得して行ったら最終的に行けたんだ。だからやる前から無理だと諦めたくないんだ」


「なるほど。お爺ちゃんと一緒に行動してると全く違うゲームで遊んでる気分になってくるってユーノが言ってたけど、こういう事か」


「おや、彼女はそんな事を?」


「もちろん悪い意味でじゃないよ。ただ、普通プレイヤーはそういう場所に無理をしてまで行こうなんて考えないというか……」


「そうだね。でも登ってみたいんだ。お爺ちゃんのワガママを聞いてもらえるかな?」


「うん、それでこそお爺ちゃんだもん。だから私が知ってる範囲のところに連れて行ってあげる」


「よろしく頼むよ」



 マリンの知ってる限りの街を連れ歩いてもらう。

 マップを見ながら移動するも、大きな屋敷の前で道が途切れてしまった。とりあえずここがどこか分からないことには動きようがないな。


「マリンはここがどこだかわかるかな?」


「ちょっと待って」


 すぐにシステムを開いて、おそらく掲示板を覗き見る。


「えっと、ここはセカンドルナの領主のお屋敷みたい」


 ふむ。こんなに大きな街だし、それを統括する人物はいると思っていた。しかし領と来たか。この世界はまだ王政が残っているのか?

 それとも貴族社会が根付いたか。

 どちらにせよ門番も何も居ないんじゃ話を聞くに聞けない。

 諦めて帰ろうとした先、中央の馬車通りをガラガラと荷馬車が走っていく。


「アレはなんだろうね?」


「分かんない。あ、お屋敷の中に入っていくよ!」


 マリンの指摘通り、荷馬車は屋敷の中に消えていく。

 入る時に確かに入り口は開いていた。しかし今は固く閉ざされており入れそうもない。


「ここで待ってみようか?」


「別にいいけど、出てこない可能性だってあるよ?」


「その時はその時だよ。私は一人でも平気だけど、マリンにやる事があるんなら先に帰っててもいいぞ?」


 そういうと唇を噛みしめながら大丈夫だとはっきり答えた。

 健気だね。それともようやく私と一緒の時間が取れたから離れたくないのだろうか?

 こういう時ってあんまりないから分かんないなぁ。

 由香里の場合、おねだりばかりが多かった気がするけど。


「来ないねー」


「そうだね」


 あれから何時間経過しただろうか?

 マリンは掲示板を、私はブログを読みあさってあの門が再び開くのを待った。

 ブログもだいぶ読みあさって今日はもうログアウトしようかと諦めた時、屋敷の方からあの時入った馬車とは違う豪奢な馬車が現れていた。

 荷馬車ほどの速度はなく、中の荷物を守るようにゆっくりとスピードを上げていく。


「付いてみよう」


「怒られない?」


「怒られたらその時だ。興味本位で行き先が気になったと言えばいいだろう」


「そうだけど、む、急にスピードが上がったよ。お爺ちゃん、ついてこれる?」


 駆け足でスピードを上げるマリンに、私は無言でうなずいて全力疾走でその豪奢な馬車の後についていく。

 スタミナこそ増えたが、ここまで連続で走り込んだことのない私は馬車の行方を見失ってしまった。


 しかし孫はスピード特化。

 馬車に取り付いて、私に連絡をとっては道案内をしてくれた。

 そしてその馬車の向かった先は外のフィールド。

 マリン曰くサードウィルに通じる道のようだ。

 そしてマリンはサードウィルまで入り、サードウィルの領主の屋敷まで行って、帰ってきたようだった。

 門が閉まる前に街の中に入ったから見つかってないとは本人談。

 しかし領主の屋敷から領主の屋敷に運ばれるものとは?

 荷馬車にしては豪華すぎる装い。

 しかし人が乗るには明らかに異様。

 窓がなく、乗り降りする階段もない。出入口は御者台と裏口のみであり、やはり積んでいるのは荷物ということになる。


「喉まで出かかっているんだが、なんだろうなぁ。すごくモヤモヤする」


 思えばマリンの話を聞いた時からこの街の発展は不明瞭な点が大きかった。

 まずどこからそんなお金を仕入れているかだ。

 街を見る限りでは所有地の中に田畑はなく、果樹園、牧場の類もない。その多くを他の街から仕入れる事でこの街は成り立っている。


 そしてファストリアに比べてここでようやくシルバー系の武器が手に入るらしい。ファストリアでは手に入らない武器の活躍を見込めるイベントがファストリアに配備されてるのはどうなんだろうと思わなくもないが、過ぎ去った事なので施工に脇に寄せておく。


 問題は銀の算出だけでファストリア以上に栄えている説明がつかない点だ。

 ファストリアで売られているストーン系、ブロンズ系の武器と比べてお値段はさほど変わらないと聞く。

 だがこれがミスリルなら価値が跳ね上がる。

 

 そこで私の考える予測はこの街はミスリルまで発掘しているんじゃないかという事。それを他の街に売る事で資金を獲得していると考えれば腑に落ちる。だが同時にどうしてセカンドルナでミスリルを名産にしないのか? 単純にそこが理解できない。

 単純に職人が居ないのか? それとも使うよりも売った方が利益になるからか。謎は深まるばかりである。

 

 

「ただいま〜」


 領主邸の前で考え事をしている私に、孫のあっけらかんとした声が背後からかけられる。


「お帰り。随分と遠出させてしまって済まないね。道中で何か気になることはあったかい?」


「特には。ただ……」


 マリンは少し気になる事があると言いたげに俯き、気のせいかもしれないけどと口を開いた。


「ただ?」


「あの馬車に捕まって乗ってる時、誰からも注意を引かなかったの」


「それはおかしな話だね。結構なスピードが出ていたんだろう? それに街の中を走っていたんだ。誰かの目に止まってもおかしくない」


「うん、でも誰も見向きもしなかった。まるであの馬車が誰の目にも見えない仕掛けがしてあるみたいにスルーされたのが気になった、かな?」


「ステルス機能でも付いているんだろうか?」


「それか魔道具かも!」


「魔道具?」


「うん、サードウィルから売られてるアイテムでね、スキルで覚えなくても簡単な魔法が使えるスクロール。材料にミスリルをたくさん使うから結構いいお値段するけど、ユーノもSPが心許なくなった時はよくお世話になってたりしてるよ」


「ほう? 魔道具にミスリルね。だんだんと繋がってきたぞ?」


「なんの話?」


 話について行けずキョトンとするマリン。

 私は笑いかけながら彼女の肩を叩いた。


「ううん、まだ確信に至れないから内緒にしておこうかな? それよりも先にお夕飯を頂いてしまおうか」


「だね。もうそんな時間だ」


 私はマリンを促し、ひとまずログアウトして情報を整理した。

 

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