第269話「謎解き」
「帰られましたね」
「そうだな」
「まだ落ち込んでいます?」
翔は少し適当に返しすぎたと後悔した。カルマと蛍はマフラーとブレスレットを身につけて、仲睦まじく帰っていった。
それできっと、気持ちが抜けてしまったのだろう。桜花と二人きりのいつもの日常に戻ってきた途端に心の中が漏れてしまった。
まだ何か言いたそうだった桜花を後目にパーティの残骸を片付けていく。
家でパーティーをするときにはこの後片付けがとても面倒である。少し考えればわかる事だが、パーティではしゃぎすぎてしまったことも相成って、とても億劫である。
「翔くんはゴミを捨ててください。私がお皿などは洗っておきますから」
「桜花は休んでいて構わないよ。疲れただろう?」
「確かに疲れていないといえば嘘になりますが、それは翔くんも同じでしょうに」
「基礎体力の差だよ」
「更にいえば、翔くんは気持ち的にも疲れているはずですから、ここで休むのはむしろ翔くんの方です」
「……後で休むから」
絶対ですよ、とお小言をもらって翔はささっと片付けを始めた。
自分でも驚く程に片付けが早く終わった。集中していたのか、無心だったからか、いつも通りの綺麗な状態にする頃にはちょうど翔の集中も切れて、翔はごろん、と横になった。
休んでいるのだからこれで桜花が何か言うことは無いだろう。
「少し頭上げますね」
「うーん」
翔は生返事を返して、桜花にされるがままになった。後頭部に伝わる柔らかい感触がまた一段と柔らかくなった気がする。しかし低反発ながらも返ってくる感触は芯があって、心做しか温かい。
「お疲れ様でした」
「うん、疲れたよ……」
「今日はいつにも増して運がなかったですね」
「本当だよ。25%を外していくのはソシャゲしてる人間として恥ずかしい」
「そしゃげ……?」
「いや、何でもない。兎も角、誰かのプレゼントを貰いたかったなぁ」
「私の申し出を断ったではありませんか」
「まぁそうなんだけどね」
翔は少し自嘲気味に笑った。誰からもプレゼントを貰わないように仕向けたのは翔自身である。
しかし、人間たるもの自分の選択に後悔するのは常である。
桜花は翔の髪の毛を空気を含ませるようにわしゃわしゃと触る。
「翔くんが買っていたプレゼントは何だったのですか?」
「……秘密」
「そう言われると気になります」
「そうだな……。当ててみなよ」
「翔くんの秘密を暴いてみせます」
「名探偵桜花かな」
翔は温かみでついうとうとと眠ってしまいそうになる。
ミニスカートというものは何と破壊力が強いのだろうか。直の感触が後頭部から伝わってきて、翔はどうしようもなくいたたまれなくなる。しかし、同時に眠たくもあるのだから、五感が正常に機能していないのではないか、などと思ってしまう。
「翔くんは私と買い物に行った時に同じように買いましたよね?」
「まぁそうだね」
「となれば、あの時の会話が何かヒントになりそうな気がします」
むんむんと悩む桜花に翔は内心、冷や汗が止まらなかった。少し茶化して名探偵桜花などと持ち上げてみたが、まさかここまで早く真実に手をかけてくるとは思わなかった。
あの時の会話で翔が覚えていることといえば「スノードーム」の話しかない。
正直にいえば、翔が買ったプレゼントはスノードームであった。桜花は勿論、蛍も綺麗だと喜んでくれそうだし、カルマも案外、あのように見えてスノードームのような可愛いものを好む。
ただ一人、翔はというと、そこまで好きではなかったのだが、あの時は自分に当たる可能性など皆無だ、と何の数字を見た訳でもないのに鷹を括っていた。
「翔くんが選びそうなもので……会話からヒントを……。これは難解な事件ですね」
「事件ではないと思うけどな」
「事件ですよ。題して……何も浮かびませんでした」
頑張って頭を悩ませた末に出ないのならもう仕方がないだろう。翔は桜花の頬を手のひらで優しく触れた。
わざとらしく頬を膨らませるのでぷにぷにとつつくと、ぷすーと可愛らしい音を立てて溜めていた空気が抜けていった。
「私で遊んでいませんか?」
「気の所為だと思うよ」
「怪しいです」
「と、ところで謎は解けたのか?」
「解けました」
「ほぅ。なら聞かせてもらおうか。名探偵の名推理を」
気分は真相を暴かれる前の犯人だ。
特に悪いことをした訳では無いが、この流れには乗らなければならないと身体が感じている。
「翔くんが買っていたプレゼントは……雪だるま、ではありませんか?」
(んー!!当たってはいるけど、ニアピン!!)
桜花がキメ顔でそう言った。だが直ぐに翔の表情から外した、もしくは惜しいところであることを察し、こほんと一つ咳払いをして空気を持ち直した。
「では、雪だるまのスノードームではありませんか?」
「お、正解だ」
「……雪だるまの時に、もう正解でよかったのでは?」
少し不服そうな桜花に翔は解決したご褒美を兼ねて頭を撫でた。へにゃりと眉尻を下げた桜花は翔が撫でやすいようにすっと上半身を落とした。
「?!」
と思ったら違った。
桜花が何をしたのかはご想像にお任せしよう。
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