第268話「悲劇の運命」


 何ということだろう。どれくらいの確率を引き当ててしまったのだろう。

 先程からの翔はそのことばかりを考えてしまっていた。


 浮かない顔をしている翔を横目に自由に喜怒哀楽を示していた桜花達だったが、翔の尋常ではない落ち込みように触れずにいられなくなってしまった。


「……こんな確率があるのか?」

「あちゃー。まさかこうなるとは」

「……まぁこれも醍醐味といえば醍醐味だが」

「私のものと交換しますか?」


 翔がぼそりと呟くとカルマ達が口々に翔を慰めた。


 そう。


 翔は自分で買ったプレゼントを選んでしまったのである。言わば自分にプレゼントを買ったのだ。


 しかし、翔の気持ちとして自分に買うつもりは毛頭なく、できれば桜花か蛍へ向けての、女性が喜びそうなプレゼントを買っていた。カルマに当たった時はそれこそこの遊びの醍醐味だといって思い出にすればいいとも思っていた。


 しかしながら、そうは問屋が卸さないらしい。


 どうしようも出来ないこの現実に翔は堪らずため息を吐く。というよりもため息を吐くぐらいしかすることがない。


 桜花の提案は丁重に辞退した。

 それをしてしまうとそれこそ、プレゼント交換をした理由がなくなってしまう。する前までにもしも自分のプレゼントを選んでしまった場合、というルールを決めていたならば話は別だが、そんなルールを決めた覚えはない。


 桜花が不服そうだったのは謎だった。


「これもまた一興だっていえるぐらいの男にならないといけないのか」

「もう翔くんは立派ですけどね」

「流石にここでプレゼントを開けるのもあれだし……。今回は開けずに持って帰ろうか」

「おっ。蛍にしては名案だな」

「私にしてはってどういう意味かな?」


 蛍が気を利かせてくれようとしているが、翔は別に構わないよ、と返した。

 貰った人にとっては早く開けて見たいという欲があるだろうし、贈った方も反応がみたいに決まっている。

 元から翔は入っていなかった、と考えれば何も問題は無いのだから気が済むまでプレゼント交換を楽しんで欲しい。


「なんだこれ?」

「全て出してみれば分かりますよ」

「んー……。マフラー?」

「正解です」

「桜花ちゃん、カルマくんの持っているマフラーって何だか長くない?」

「そうですね。お店の方が長い方がいいとおすすめしてくださいましたので」

「……これ俺知ってる。カップルで巻くやつ!!」


 どうやら桜花のプレゼントはカルマへと渡ったようだ。そしてその中身はマフラー。今の季節にはぴったりの代物で、更にカップルで巻くタイプの長いマフラーらしい。


 プレゼント交換に参加しているのはカップル二組だけだから、このプレゼントを選んだのだろう。これならばあたりもはずれもない。


 なるほどな、と翔は驚かされると共に感心した。


 早速、蛍と共に身に付けていた。曰く、「なんか恥ずかしいが、とても嬉しい。ありがとう」だそうだ。


「これは……カルマくんからのプレゼントかな?」

「俺のプレゼントは蛍に渡ったか。喜んでくれると嬉しい」

「うん?これなーに?」

「ブレスレット。男でも女でも似合うようなデザインを何とか探してきた」


 カルマはブレスレットをプレゼントに選んだようだ。

 アクセサリー系はいつの時代、どの年齢層でも人気が高い。カルマが選ぶのも納得だ。ただ、しっかりと翔に渡る可能性も考えて男女、どちらもが似合うようなデザインを探してくれていたことに嬉しさを感じた。


 蛍は身に付けぎゅっと胸の前で包み込むように抱えた。


「ありがとう。一生大事にするね!」

「おう。喜んでくれて嬉しいぜ」


 嬉しさのあまりかカルマへと飛びついた蛍だったが、カルマは持ち前の筋力で難なく蛍をしっかりと抱きとめる。

 少し羨ましいなと思ってしまった。勿論、筋肉に。


「となると、私は蛍さんからのプレゼントをいただいたことになりますね」

「本命に渡ってよかったよ」

「……本命?」

「まぁまぁいいからいいから」


 そう言って桜花を後押しする蛍。


「あ、開けます」

「どうぞ〜」


 気後れしてしまったのか、桜花は少し声を詰まらせながらゆっくりと開けていく。


「これは……ボディソープ、ですか?」

「そう!これで翔くんを悩殺しちゃえ!」

「ほ、蛍さん……!!」


 蛍が用意したプレゼントはあろうことかボディソープだった。こんなものを自分が貰っていたらと考えるととてもでは無いが、今の桜花のように素直に喜べなかっただろう。

 単純に興味が無いから、というのもあるが、何より何かもやがかかっているかのように複雑な気持ちになるからだ。


 それを考慮すれば蛍は飛んだ豪運の持ち主だと言えるだろう。

 桜花へと贈ったボディソープは何でも、いい匂いがするらしく、結構なお値段がするらしい。


「みんな揃ったな。よし、じゃあこれでクリスマスパーティは終了!最後に乾杯しよう」

「何だかんだでいいパーティになったんじゃないか?」

「楽しかったね〜」

「楽しかったです。早速使わせていただきますね」

「よかったね、翔くん!桜花ちゃんが今日から悩殺してくれるって!」

「……秒で死ぬからやめて」

「その抵抗の仕方は実に翔らしいな……」


 それぞれが自分の杯を上部にあげる。

 そして、最後に、


「「「「乾杯!!」」」」



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