第267話「交換」


「さぁ待ちに待ったプレゼント交換の時間がやって来た!!」

「嬉しそうだな」

「いいか、翔。これは一種のギャンブルなんだよ。誰に何が渡るかが分からないこのゲームはパチンコ、競馬、競輪、賭け麻雀と一緒だ」

「おい、最後」

「だが、プレゼントを選ぶ上ではどうしても誰に送るかを念頭に置いて考えないと何も浮かんでこない」

「は、はぁ……」

「その相槌は何も考えてなかったな?……まぁいいや。兎も角、翔のことを想ってプレゼントを買っただろう双葉さんのプレゼントになるのか、本命の蛍からのになるのか、それともよく分からない翔のになるのか」

「おい、最後」

「これにワクワクしない人間は男じゃねぇ!」

「……」


 翔はカルマの浮かれ具合に呆れながらツッコミを入れているが、実は心中では意外にも楽しみにしていた。カルマ程に口に出せるほどではないが、嬉しさがこっそりと表情に見え隠れしているのを自分ですら感じる。


 たまたま桜花と視線が合った時には「嬉しそうですね」と瞳で語られた。

 それに対して「桜花のが当たればいいな、と思ってる」と瞳で返したのだが、果たしてしっかりと伝わっているのかは不思議なところだ。


「さて、どうやって決める?」

「ジャンケンとか?」

「先程のくじを使いますか?」

「目隠しして名指し」


 多種多様な選定の方法が飛び出てくる。ジャンケンは何となく締まらない気がするし、くじも先程、痛い目を見たばかりだ。それならば意味は分からないが目隠しして名指し、というのを選んでみよう。

 そんな発想があったのだろう。

 翔達は特に言論を交わすことなく最後に出された案を採用することにした。


「これってどうやってすんの?」

「目隠しして、シャッフルする。手渡しでも地面に置いてでもそこは何でもいい。その後にまだ目隠しをしたままで誰が持っているプレゼントがいいのかを公言する」

「もしも、被った場合は?」

「口頭ジャンケンでも」

「結局じゃん」


 辛辣な蛍のツッコミはあえてスルーさせてもらおう。


「このようなものしかありませんでしたけど……」

「ハチマキと……何これ?」


 桜花が持ってきてくれたのはハチマキが二本と、よく分からない細長の布だった。


「裁縫をしている時に出た余分な布です。これに先程、ゴムを取り付けたので、一時的な目隠し程度なら使えると思います」

「桜花ちゃんすごい!!」

「なんでも出来るな……」

「これぐらいなら、小学生でもできますよ」


 小学校の高学年の時には裁縫道具を使っていたような気もするが、その時の記憶をどこかに置いてきてしまった三人は首を傾げるしか無かった。


 ちなみにだが、3人の耳には桜花の言った言葉は煽りには聞こえない。桜花は当たり前のことを平然としているだけで、忘れている自分達が愚か者であるという事実を認識しているからである。


「じゃあこれで」

「何も見えなくなっちゃった」

「これは蛍にセクハラし放題なのでは」

「カルマくんのえっちー!お触り禁止!!」

「そんなこというなよー!ええい、ここかっ?!」

「……残念だなカルマ。そこは僕の足だ。蹴り飛ばすぞ?」

「自重します、すんません。やめてぇー!」


 カルマはもうどこかの変態おじさんと割り切った方が良さそうだった。


 翔達はそれから名前を呼びあって着々とプレゼントをシャッフルしていく。このシャッフルを覚えていられるものはそうはいないだろう。

 自分以外の3人で回されているときを知ることが出来ないからだ。


 それでも翔はパッケージされている箱の大きさから中身が何なのかを何となく察していた。

 視覚を失えば逆に聴覚、触覚が強くなるらしい。


「この辺でもういいだろう」

「そうか?まだ回してもいいぞ。何だか途中から楽しくなってきた」

「私もー!でもそろそろ中身も気になる」

「私はどちらでも構いませんよ。狙いはひとつなので」

「それって翔くんのプレゼントのこと?」

「……さ、さぁ。どうでしょうね」


 桜花は言葉を濁したが、そのようにぎこちなければ簡単に嘘であることがバレてしまう。


「桜花ちゃんはかわいーなー!」

「不変の真実だからな」

「ひゅ〜。お熱いことで」

「言ってろ」

「まぁ、でも翔くんのことだから……。桜花ちゃんはそこまで狙いに行かなくてもいい気がするけど……」

「どうしてですか?」

「何だろ。女の子の勘かな」


 勘に頼ることの無い桜花は結局何だったのだろうか、と再び首を捻った。


「実際のところはどうなんだ?」


 カルマが気になったのか翔へと訊ねてくる。翔はカルマにならば、別に話しても問題ないだろう。


「一応……。買ってる」

「ひゅーっ!!将来はいい男になるぞ、翔は」

「えっ?!私に言ってたの?」

「勿論だろ、俺が話すのは友達と親友と先生と同級生と、先輩と、後輩と蛍以外にはいないからな」


 少ないのか多いのか分かんない!という蛍の叫びに対しては誰も反応してやることが出来なかった。


「よし、なら誰が持っているプレゼントがいいか選んでくれ」

「俺は……そうだな。なら、翔にしようか」

「私は桜花ちゃんのにする」

「私は……蒼羽くんの持つプレゼントにします」

「なら僕は蛍のだな」


 目隠しを取って公言したプレゼントを交換していく。桜花や蛍やカルマが驚きや喜びの声を上げる。

 これこそがプレゼント交換の醍醐味なのだが、ここで浮かない顔がひとつ。

 翔だ。


 そして、その翔が受け取ったのは……。



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