第266話「遊戯会」
「桜花ちゃんかわいーっ!!」
蛍が着替えてきた桜花へと思い切り抱きついた。翔も遅れて全身トナカイの姿でリビングへと戻ってきた。
カルマには「よく似合ってるじゃないか」と慈愛の笑みを付与して言われたので、やはり着替えるべきではなかった、とひっそりと後悔した。
「翔くんが選んでくれましたから」
「ふぅん。……なるほどね〜」
「意味ありげな視線を向けるな」
蛍は桜花の容姿をぐるりと一回見回した後、翔に意味深な視線を送ってくる。いや、その視線の意図することはもう既に分かっていたのだが、敢えてそれを言う必要は無いだろう。
超がつくほどの短いスカートに、黒タイツ。ご丁寧にブラウス型のサンタクロースのコスプレである。
「いや、何はともあれ。こんな風に美少女が抱き合っているのはなかなかいいですな」
「あっそう」
「あら釣れないわね」
「口調を変えるな。面倒くさくなるだろ」
からからと笑うカルマに反省の色は見られない。カルマはたまに翔の理解ができない所へと行ってしまっていることがある。
本人にとってはただ、良いものを良いと言っているだけに過ぎないのだが、それを深く、拡大解釈してしまうのは最近の翔の悪い癖だ。とはいえ、その癖はカルマ以外には発動しないのだが。
「ほら、赤い鼻にしないと」
「うわっ!こらっ!やめっ?!」
カルマは有無を言わさぬ物凄い腕力で翔を思い切り捩じ伏せ、その翔の鼻頭に赤色のマジックペンでぐりぐりと赤色に塗りあげていく。
桜花も蛍も「わっ?!」と驚きはしたものの、それだけで身体が動くことなく、ことの成り行きを見守っている。
「カルマくんが……翔くんに馬乗りになってる……」
「動物に暴力振るっているように見えますね……」
「わぁ、そう考えるとものすごーくシュール」
カルマの性癖については今後宜しく話し合う必要がありそうだ。
翔はいつまでもやられている訳にもいかないので、カルマの手首を精一杯の力で掴み、強引に離した。
「喰らえっ!鹿の頭突き!!」
「ぐはっ……?!おまえは……トナカイ……だろ」
「あっ」
「おい、素なのかよ」
カルマが油断したところで頭を振り下ろす。しかし、殺傷力はもちろん皆無。当たればいいな、ほどだったのだが、何としっかりと胸にツノを突き刺していく。
ツノは柔らかい布でできているが、カルマの反応は弾丸で貫かれたような程に重傷だった。勿論、演技である。
しかし、翔の痛恨のミスが響いた。
「翔くんのトナカイさんは私がいろいろと弄りました」
「えっ?!桜花ちゃんが作ったの?」
「全てという訳ではありませんが。買ったものに多少の着色をした程度ですよ」
「蝶ネクタイとか、二本分のツノが加わっているのとか?」
「そうです。翔くんは女の子なので」
最後の桜花の一言が偉く爆弾となり、蛍とカルマの頭上で疑問符が浮かぶ。翔は以前に聞いた豆知識を思い出していた。
桜花が察し、その種明かしをしようと口を開く前に、カルマが思い出したようにぽんと手を叩いた。
「そういえばどこかで聞いたことがあるぞ。サンタクロースが連れてくるトナカイは時期的にメスだって」
「なんで分かるの?」
「それはですね……」
「んー、と確か、十二月の時期はオスのツノは無くなっているはずなんだよ」
「生え変わりの時期?」
「たぶん」
翔はカルマが意外にも博識だったことに驚きを感じていた。蛍もカルマの説明で理解したのか「へぇ〜!そうなんだ!」と嬉しそうに相槌を打っていた。
一方で話を全てカルマに取られた桜花はしょんぼりとしていたので、翔はカルマ達には見つからないようにこっそりとその手を桜花の手に重ねる。
「僕はカルマの説明よりも桜花から聞いた方が分かりやすかったよ」
「翔くんに話した時はここまで詳しく話してませんし」
「あれ?そうだっけ?」
「もうっ……。でも、ありがとうございます」
「クリスマスパーティはまだ最後のお楽しみが残ってるからな。楽しまないと」
翔は桜花へと笑いかけた。
桜花はそうですね、と屈託のない笑みを浮かべた。
「あっ!桜花ちゃんが嬉しそうな顔してる!」
「その時は大体翔が何かしたんだよな?」
「そうだよ!私の調べによると、ね」
「う、嬉しそうになんかしてませんから」
「え、そうなのか……?」
「あ、いや、そういうわけではなく……。翔くん、笑いを抑えながら言ってくるのはやめてください」
何だかんだでパーティは大盛況だった。
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