第262話「敗者は」


 先に言おう。結果は惨憺たるものだった。


 ある者は「UNO」と宣言するのを忘れて一枚引き、ある者はリバースを連投して結局どちらになるのか分からなくしたり、ある者はプラス2のカードを6枚ほど出し、12枚を相手に引かせるという荒業をなしとげたり。


 ゲームの内容としてはどんでん返しがあり、とても面白かった。


 気になる結果だが、一位は勿論、カルマ。12枚を引かされた人ではあったが、引いたカードの面子がよかったようでそのハンデを諸共せずに一位へと躍り出た。


 2位は翔だった。ギリギリではあったものの、相手の「UNO」の言い忘れで助かったと言ってもよかった。


 3位は蛍だった。のらりくらりと躱しており、カルマに追随して誰にも抜かれず抜かずの姿勢を崩していなかったのだが、最後の最後でぬかった結果が、この3位という結果だった。


 もう察しの通りだが、4位は桜花となってしまった。序盤のカードのハンデはなかったに等しいところまで持ち堪えたのだが、カート運に恵まれず、カルマにいじめられる形で何も出来ずに終わってしまった。

 ちらりと翔が覗き見た時には結構な強いカードを持っていたように思ったが、その時には桜花対蛍の一騎討ちだったので、リバースなどの特殊カードは意味をなさなかったのが痛いところだ。


「さて、罰ゲームだな」

「何にしようか。桜花ちゃんが負けるとは思ってなかったから考えてない」

「俺も。てっきり翔が負けるものだとばかり」

「酷いな。僕だってたまには勝つんだよ」

「罰ゲームを宣告される方と言うのはこんなにもドキドキするものなのですね」

「……ごめん10分ぐらい放置してもいい?」

「蛍。このバカを止めてくれ」

「任せて」


 むにーっと蛍がカルマの頬を思い切り引っ張り思考を正常へと戻させる。まったく、と翔は呆れ100パーセントのため息を吐いた。


 翔も桜花のドキドキにワクワクしているような表情に同じ感想を抱かなかった訳ではなかったが、それをわざわざ口に出してまでは言わなかった。


「もう僕達3人に対して一人ずつ何かを言うぐらいの罰ゲームでいいんじゃないか?」

「何かって?」

「そうだな、なら、俺達のことについてどう思っているのか実際の感情を包み隠さず教えてもらおう」

「なかなかに恥ずかしいところをついてきますね……」


 桜花が困ったように眉尻を下げる。

 その間にカルマと蛍は目線だけでなにやら会話をしていた。大方、「俺達はマシだけど翔になった時がどうなるかだな」「そうだね。可愛い桜花ちゃんが見られそう」とぐふぐふしているに違いない。


「分かりました。ではまず、蛍さんから」

「蛍」


 蛍は何を思ったか、胡座をかいて座っていたカルマの上にちょこんと座り、じっと桜花の顔を見つめた。


 よくそんなことができるな、と思ったが今更か、とも呆れを伴う納得が翔を襲う。


「蛍さんは私によく話しかけてくれる人で大切なお友達です。学校や人との関わりが楽しいと思えるのは蛍さんのおかげだと思っています」

「えへへー。そんなに褒められると照れちゃうな」

「可愛いなー、うちの蛍は」

「こーらっ、頬をうりうりしない」


 うぉ……。人のイチャつきを間近で見るとここまで砂糖を吐き出しそうになってしまうのか。

 初体験だったが出来れば体験したくなかった。


「つ、次は蒼羽くんです」

「謹んでお受けいたします」

「何をだよ」


 思わずツッコミを入れてしまった。桜花は何も頼まないのでお受けするものは何も無いはずだ。

 カルマは何も言わずに、ただ翔に眩しい笑顔を見せつけてきた。


「蒼羽くんは私達のムードメーカーで、どんな時にも楽しい気持ちにさせてくれます。翔くんが今このような性格なのもきっと蒼羽くんのおかげでしょう。……ですが、蛍さんからたまに聞きますが、その……程々にしてあげてくださいね」


 ぼんっ!!と破裂音が聞こえた。翔ははっと振り返ってキッチンの方を見たが電源さえついた様子は無い。それがカルマからだということに気づくのはもう少し後になってからだった。


「あっ、カルマくんが真っ赤になってる〜。可愛い」

「双葉さんに言ってたのか!!このっ!このっ!」

「やめてくすぐったいっ!あははっ!」


 2人がじゃれつき始めたのを横目で見やりながら、桜花が翔の方を注視する。心の中までじっと見つめられているかのような錯覚に陥るがこちらからもじっと見つめ返しているとふっと力を抜いた柔らかな笑みを見せられた。


 その表情が堪らなく愛おしくて翔はどきどきと鼓動が早くなったのを感じた。


「翔くんは私の一番大切な人です。ずっと傍にいてください」

「……うんっ」


 翔に対しての言葉は少なかったが、充分だった。もし足りないと思ったらカルマ達が帰ってからおかわりをもらおう。


「翔達の方が甘くね?」

「うん……。あんな関係憧れる」

「蛍がもう少ししっかりしてたらな」

「酷いっ!私だって頑張れば桜花ちゃんみたいになれるもん」

「まぁ、俺はありのままの蛍がいいけど」

「ありの〜ままの〜」

「……うん、ほんとそういうとこ」


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