第261話「パーティです」


 翔達が全員、昼食を終え、一息ついたところで、カルマがゴソゴソと何かを探し始めた。まさかプレゼント交換か、と疑ったがそんなことも無く取り出したのはカードだった。


 それもみんなで遊べるパーティゲーム用のカード。具体的にいえば、上がる際に関して「UNO」と言わなければならないゲームといえばわかりやすいだろうか。言っているではないか、というツッコミは受け付けない。


 ちなみに翔はといえば、それをUNOであると確認した瞬間に複雑な表情を浮かべた。彼にとってはUNOもまた例に漏れず必ずと言っていいほど敗北するゲームだ。

 以前までは対戦相手が強すぎたから、や、自分は根が単純だから狙いを悟られやすいのだ、など、自分を慰めていたのだが、それも日が経つにつれて段々と効果を失い、今ではできるだけ勝負はしないようにしている。


 しかし、ここはどうしても辞退することが出来ない雰囲気になってしまっているし、3人で行うよりも4人で行う方が楽しいに決まっているので、断りづらい。


「ゴミを捨ててくるよ」

「おう、サンキュー。もう手札は配っておくからなー。どれになっても恨むなよ」

「恨まないよ。ついでにお菓子も持ってくる」

「上の棚の奥の方に片しています」

「ありがとう」


 お菓子の管理は桜花に任せていたので居場所がどこかは明確にはわかっていなかった。それを思ってか桜花が教えてくれたので、翔は特に困ることも無くお菓子を手に持ちリビングへと戻ってくる。


 そして余った手札を自分のもとへと寄せた。カルマは勿論、蛍も桜花も手札を取り、しげしげと眺めている。ババ抜きではないため、人の顔色を窺って戦略を立てる必要は無いが、どこでカードを切っていくのかが勝負の鍵になるだろう。


 翔の手元にあったカードは黒色のプラス4カードが一枚と黒色の変色のみのカードが一枚、赤のスキップと黄色のリバース、青の2、4と赤の1というどちらかと言えば守りに適したような割り当てだった。


「じゃあ行くぞ。……おっ、最初のカードは緑の3だな」


 ジャンケンをして順番を決めていく。決まった結果はカルマ、桜花、翔、蛍の順番になった。

 まずは先攻であるカルマが緑の4を出した。


「まぁ、まだ無難に行こうか」

「ということは私は後々、蒼羽くんにやられてしまうということでしょうか」

「リバースで蛍が被害を被るかもしれないけど」

「カルマくん嫌い」

「ぐはっ……!!」


 翔の負ける原因はこういう他愛なさそうな腹の探り合いに参加出来ないところだろうが、ここはカイジの世界では無いのでもっと気楽に行くべきである。


 桜花は緑がなかったのか、4繋がりで赤の4を出した。

 翔はしばらく赤を出すか、青に変えてしまうか悩み、赤の一を出した。


「もうっ、なんで赤なの!1もないし」


 蛍は山札から一枚カードをとった。だが赤色でも、一でもなかったようで、カルマへとターンが移った。


「赤なら沢山あるから歓迎だな。だが俺は颯爽と一位勝ち取りたいから行かせてもらうぜ」

「競争心高いな」

「そりゃそうだろ。これで最下位の人は罰ゲームだし」

「えっ」

「えっ、じゃねぇよ。ここで罰ゲームを設けなくてどうする。蛍は多分、そのつもりでいただろ?」

「うん、まぁカルマくんならそういうかなーとは思うよね。私とゲームする時もいっつも罰ゲーム決めるし」

「罰ゲームの内容は喋っちゃダメだぞ」

「話せないことを要求してるからでしょ」


 一体どのようなことなのだろうか、と深く聞きたいところだが、言ってくれそうにはなかったので、ここは勝ちに行って口を割らせるしかないだろう。


 桜花も比較的、蛍に似た思考だったのか罰ゲームを設けることについてはあまり抵抗がないらしい。

 とんでもない事を言われることは無いから、という絶対的なまでの自信からなのか、単に自分が勝つから問題ないと思っているのか。


 カルマが1という数字でカードを重ねて、手札を一気に精算する。トラッシュに置かれた1番上の色は青色。これはラッキーだ。


「罰ゲームはその事について話してもらいましょうかね」

「翔がなったら無理だけど」

「その時は翔くんが私にも隠している秘密をひとつ、教えてもらいましょうかね」

「隠してることなんてないよ」


 桜花が青色を重ねたので、翔も総じて青の2を出す。蛍が黄色の2を出し、カルマが黄色のスキップを出した。


「私の番が飛ばされてしまいました」

「スキップだから仕方がないね。双葉さんは手強そうだからちょっと狙い撃ちをさせて頂こうか」

「うわっ、カルマくんがガチモード……。女の子にも遠慮がない」

「勝負に遠慮はいらないの!!これ大事ね!試験でるよォ!」


 翔はそっと赤のスキップを出してカルマへとターンを渡す。


「うーん、さっき赤は精算したからな……。仕方がない」


 カルマが出したのは赤のプラス2のカード。

 これに対抗出来るカードは同じプラス2のカードかプラス4のカードしかない。


 桜花は少しだけ迷ったあと、黄色のプラス2を置いた。


「なかったら翔が4枚な」

「う〜ん」


 ここで4枚を引くという選択肢もなくはない。というのもまだまだ序盤であり誰も上がる気配はないからだ。それに黒色のプラス4カードが残るという心の安心感も大きい。


 しかし、蛍がもし、赤のプラス2のカードを持っていたとすれば、カルマの動作からした手札には赤のカードのプラス2がないと思われるのでカルマが合計で十枚のカードを取ることになる。


「黒色のプラス4カードで色は赤」

「ラッキー」


 幸いにも蛍は赤のプラス2のカードを所持していたらしく、翔の黒色のカードの上に重ねた。

 後はカルマの動向なのだが。


「おっと、これは何枚だ……。いやーこれは受けられないな」


 ひょいと置いたのは黒色のプラス4カード。


「黄色」

「何枚ですか?」

「14枚」


 桜花は観念したようで14枚を数えながら手札に加えた。これで一気に桜花は最下位へと脱落した。まだ巻き返しは充分に狙えるがカルマの立ち回りに依存してしまうのは確かだ。


「無いので、次は翔くんです」

「うん?……あっ」


 残念ながら翔の手札にも黄色はなかったので、大人しく山札から一枚、カードを取る。


(……ラッキーだな)


 そこには見せてたはずの黒色のプラス4カードが煌めかしく輝いていた。

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