第260話「メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
「「メリークリスマス!!」」
「おーい、翔?」
「めりーくりすます」
「もう少し心を込めて!」
「Merry Christmas」
「発音いいな、おい」
翔達はカルマが買ってきてくれたハンバーガーを片手に乾杯した。翔の読み通り、マックだった。それについては喜んでいいのか、思考が単純だな、と呆れればいいのか、正直判断がつかなかったのだが、美味ければ何でもいい。
翔が若干拗ね気味なのはカルマがいつの間にか家に入っていたことである。インターホンを必ず押せとは言わないがそれでも連絡のひとつは欲しいし、折角、この飾り付けを見たカルマ達のリアクションを見たいという思いも少なからずあったのだから、肩透かしをくらったような気分だった。
「それで?どうやって入ったんだよ」
「壁をすり抜けてさ」
「頭だけじゃなくて身体までもぺらぺらに……」
「ツッコミのキレがいつにも増して鋭いな……。毒舌になってる」
「あーあ、カルマくんが翔くんを怒らせたぁ」
「えー、俺のせいなの?」
「いえ、蒼羽くんだけのせい、という訳ではありません。翔くんもそろそろ機嫌を治してください」
「……分かったよ」
翔はしぶしぶグラスを手に持ち、一人一人と乾杯を交わしていく。そして、ハンバーガーに思い切り齧り付いた。
盛大に始まったとは言えないクリスマスパーティだったが、気になることがひとつ。
「なぁカルマ。コスプレはどうした?」
「ちゃんと持ってきたぞ。……え、なんだよ。コスプレしたまま来いってか……?」
「うん」
「純粋に頷くなよ……。目立ちまくって仕方がなくなるだろ?もう始めるなら隣の部屋を貸してくれ。着替えてくる」
「いや、まだいい」
「いいのかよ」
「楽しみは最後に取っておくタイプなのでな」
「なのでな……?」
翔はカルマにまぁまぁ座れと手をひらひらさせる。
「桜花ちゃん、元気してた?」
「学校ではいつも会っていましたよ?」
「でも学校にいる時ってどうしても肩張っちゃうから」
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。蛍さんは元気でしたか?」
「元気なのは元気だけど……。最近疲れが酷くて」
「疲れ、ですか?」
ぴくっとカルマが首をすぼめた。これは何かあったな、と翔は瞬時に思う。
「蛍ー。このポテト美味しいぞー」
「そうなの。平日は学校があるし、休日は遊ぶし、で疲れを取れないの」
「それは自業自得なのでは……」
「蛍ー、それぐらいにしておかないかい?昼間からぶっこみすぎるのもよくないと思うんだ、俺は」
「この疲れが取れないのはカルマくんのせいでもあるのはおわかり?」
「えぇ!もちろんおかわりですっ!」
「おかわりって……」
翔が小声でツッコミを入れるが、本当にツッコミを入れるべきはそこではない。決して自慢をするために言っているわけではないだろうが、蛍は桜花に夜の営みアピールをしているのだ!と翔は認識した。
「どうして蒼羽くんのせいでもあるのですか?」
「あ、桜花……」
「それはね……。カルマくんったら急に夜に呼び出してきてね」
「あ、おい……」
翔は何とかして止めさせなければと思った。桜花にはまだその話は早い。それにその話をされてカルマ達が帰ってから翔はどのような面で桜花と接しればいいのか分からない。
翔は何とか蛍の次の言葉を言わさないようにできないものか、と瞬間的に脳に負荷をかけて知恵を絞る。
……しかし、何も出てこない。何か言わなければ。
「カルマ、何とかして」
「無理」
「おい」
「夜に激しい運動をさせてくるの」
「あっ……」
取り繕う言葉が浮び上がる前に蛍が言い放ってしまった。
翔が内心で思い切り頭を悩ませる。昼間からその話をするのは本当にどうかと思うぞ、と何度も毒づくが蛍もカルマも特に気にした様子がない。
桜花に至っては未だに何のことを暗示しているのかに気づいていないようだ。
「カルマ……」
「なんだよ」
「昼間からするか、この話?」
「……?何言ってんだ?」
「蛍さん、激しい運動とは?」
「え、マラソン。私長距離は苦手なんだけどなぁ」
「短距離走の方が好きですか?」
「そう!一気に駆けて風を切る感じが好きなの」
(えっ……。あっ、そういうこと?あー恥ずかしいな、これ。一人だけ勘違いしてたのか)
翔は自分の勘違いに汗が止まらなくなった。カルマがじとっとした目線を向けてくるので脇腹を思い切りつまんでやった。
「で、翔くんは何をそんなに焦ってたのかな?」
「いや、なんでもないです」
「どうせえっちなことでも考えてたんでしょ」
「カルマだからありかも……って違う!全然考えてなかったよ!」
「翔〜。それはさすがに無理があるぞ」
翔は恥ずかしい気持ちを隠すようにジュースを一気に煽った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます