第257話「久しい買い物」


「桜花とここに来たのも久しぶりな気がするな」

「あの時は確か、スマートフォンのケースを作りましたね」

「そんなこともあったなぁ」


 翔はしみじみと呟く。

 翔達が仲良く手を繋いでやってきたのはすっかり久しぶりとなったとある近場の大型ショッピングモール。直近の思い出がスマートフォンケースを作ったことと言うのだから、結構前だ。


「部屋の飾り付けをするための用品がいりますね」

「それとコスプレかな」

「コスプレ、ですか?」

「そそ。どうせカルマ達のことだから「おい翔!せっかくのクリパにコスプレのひとつもしないとは一体どういう了見だ?!」とか言われそう」


 翔がカルマの言い方を真似ながらいう。

 桜花は翔のモノマネが面白かったのか笑いを必死に抑えていた。


「ではコスプレする衣装も買いましょうか。作る時間はさすがにありませんし」

「え、時間があったら作ったの……?」

「う〜ん……。作る方が手間はかかりますが安く済みますし」

「恐るべし、桜花の何でもスキル」

「なんですか、それ」


 桜花は少し頬を膨らませる。

 翔はその頬をぷすっと指で押してみたかったが、そんなことをしたら拗ねそうだったのでここは抑えておいた。


 兎も角はコスプレだ。


 クリスマスパーティでコスプレといえば、サンタクロースかトナカイが王道だろう。

 最近はミニスカサンタなるものが流行りらしいので桜花には是非ともミニスカサンタクロースの格好をしてもらいたいが、トナカイのコスプレもまた心惹かれるのも事実。


「桜花はどんなコスプレがしたい?」

「……私にコスプレ趣味はありませんよ」

「サンタクロースとトナカイだとどちらがお好み?」

「翔くんがトナカイをしてくれるならサンタクロースがいいです」


 翔がトナカイをするならば、という条件はあったものの、桜花はどうやらサンタクロースがお好みらしい。

 それはそれとして、翔がトナカイをすれば、という条件は翔の要領を得なかった。


 翔が少し引っ掛かりを覚えて首を捻ると桜花は、そういえば、と続けた。


「冬場のツノがあるトナカイさんは殆どがメスらしいですね」

「ん?僕はメスのトナカイになるの?」

「トナカイをわざわざ性別分けする必要がありますか……?」

「いや……。確かに、意味ないや」


 人間が性別判断できるのは人間だけで充分なのだ。動物のコスプレにわざわざオスメス考える必要は無い。

 女装となればまた話は別になるが。


「よし、なら先に飾り付けのものを一気に買ってしまうか」

「そうですね」


 行こうか、と翔は桜花の手を引く。もうこの状態が当たり前となったことに今更ながらに感慨深いものを感じる。

 桜花も嬉しそうに翔の隣にぴったり寄り添う。もう少し年齢が上がるか、二人の薬指に愛の証でもあれば夫婦にしか見えないだろう。

 今でも充分、バカップルには見えているが。


 翔と桜花は少なからず人の注目を浴びながら目的地まで歩くことになった。

 桜花は言わずもがな、翔も今日は桜花におめかしをしてもらっているので一際目立っていた。元々がよかったので、ワックスで固めた髪も相まってそれなりにかっこよく映っているはずだ。


「翔くん、見てください。スノードームです」

「おっ、本当だ。中の雪だるまが可愛いね」

「癒されますね」

「好きなのか?」

「そうですね、人並みには好きだと思います」

「そういえば桜花の好きなこととかものとかをはっきり聞いたことない気がするんだけど」

「確かに言ってないかもしれませんね」

「僕、気になりますっ!」


 えるたそになり切った翔の渾身のボケは桜花には通じなかった。しかし、翔の内心は上手くいったとほくそ笑んでいた。


 あまりにも自然な話の運び方だと自負している様子は傍から見て、さらに内心の声もだだ漏れだった場合、実に滑稽だと言うしかない。


「好きなことや物、ですか……」

「そうそう」

「翔くんとすること全てが好きです、よ?」


 ばきゅーん。


「好きな物は……翔くんから貰ったこのスマートフォンケースですかね」


 ばきゅーん。


 銃声が二つほど、鳴り響いた。勿論狙いは翔の心臓であり、その二つともがクリティカルヒットだった。

 翔は心に大ダメージ。それに特殊効果として桜花への魅了が入った。


「翔くん?どうしたのですか、固まってますけど」

「いや、別に?何でもないよ」

「もしかして、どきどきしてますか?」


 ばきゅーん。


 桜花が翔をつんつんとつついてくるので、翔は必死に自分の心を隠した。


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