第119話「遊園地にやってきた」
移動中の話題は尽きることなく、四人で楽しくお喋りをしていたのだが、どうにもカルマがそわそわしているのだけが気になった。
しかし、それも目前に広がる夢いっぱいの光景にかき消されてしまった。
翔達が今回遊ぶところとして選んだのは、一概に言ってしまえば遊園地なのだが、この中にはほとんどのレジャー施設が入っていると言っても過言ではなかった。
観覧車やメリーゴーランド、ジェットコースターといった王道は勿論、カラオケボックス、ボーリング、ダーツ、ビリヤードに漫画喫茶、ネットカフェ。
遊園地という名で表すにはもう言葉が足らず、言うならば娯楽施設と総称するべきだろう。
「初めて来ました……」
「ここができたのも最近だからな」
「そうなのですか?」
「ここまで揃っている施設は中々ないだろ」
「驚きました」
桜花はこの土地に来てからまだ半年も経っていない。厳密に言えば幼少期には住んでいたので違うのだが、この娯楽施設は桜花が引っ越してから後に作られ、最近まで工事中だったので知らないのも無理はない。
「そうそう。この前なんかはニュースで大々的に報道してたな」
「そうなのか?」
それは初耳だったので聞き返した。最近はめっきり地上波放送を見ることが減っていたので知らなかった。
「そうよ。だから私がカルマくんにここがいいってお願いしたの」
「蒼羽くんは蛍さんのお願いなら聞いてくれますからね」
「茶化さないでよ〜」
桜花が茶化すと、蛍は頬を染めながら桜花の服の袖を引っ張った。
そして、桜花は蛍のお願いでここに来たのなら、と。
「なら蛍さんがまずは決めてください」
桜花が決定権を蛍に譲った。翔は桜花と楽しく回れることが出来ればそれで満足なので、桜花に合わせるようにして同じく譲った。
「いい天気だから外で遊びたいね」
「ジェットコースターにでも乗るか?それかカーチェイスみたいなやつもあったぞ?」
「どうしようかな……」
いつの間にかカルマと蛍が普通に話していることに驚いた。カルマの事前調査が効いているようだ。
カーチェイスみたいなやつ、というアトラクションの正式名称を知りたくはあったが、今は邪魔をするべきではないだろう。
「翔くん」
「うん?」
「ジェットコースターは得意ですか?」
「別に普通かな。人から誘われたら乗るけど、自分から乗りたいとは思わない」
「そうですか」
「ん?桜花……まさか」
「いえ、私も平気ですよ、勿論」
妙に胸を張り、最後に「勿論」とつける辺り、いつもと違うので怪しいのだが、追及はしなかった。
「ジェットコースター乗りに行きたいな」
「よし、任せろ。翔!ジェットコースターだ!」
「道案内頼んだ」
「任された!」
「ちょっとカルマくん!待って!」
カルマはすっかり張り切ってしまったようで、先々進んでいく。蛍はそんなカルマを止めるために、追いかけていった。
この二人から先程のような気まずい雰囲気は感じられない。もうそこら辺にいそうな異性友達ぐらいには戻っていると言えるだろう。あとは翔が「甘いっ」と砂糖を作ってしまうほどの仲に戻ってくれれば終わりなのだが……。
カルマがもう少し積極的なアプローチをして、引き金となってしまった事件をちゃんとお互いに話し合って解決しなければ難しいだろう。
翔はそこまで考えたあと、桜花をちらりと見た。いつもは気付いてくれるのだが、今回は全く気付いていない。まるで、わざと避けているかのようだった。
(まさか苦手なのでは……?)
そう思わずにはいられない。
高所恐怖症なのか、あるいは絶叫系が苦手なのか。
苦手ではあるが、決定権を譲った手前、言い出せないのではないか。
「大丈夫ですよ」
そんな翔の思考を読んだのか。桜花が落ち着かせるような声色で諭してくる。
「翔くんが隣に居てくれれば私は大丈夫です」
「何か神様みたいだな」
御利益的な感じかと思ってそう例えると鳩が豆鉄砲を食らったように呆けた顔をしたあと、桜花はくすくすと笑った。
「翔くんは神様ですね」
「からかうなよ」
「私の一番好きな人ですからね」
そう言って桜花は二の腕に頭突きをしてくる。急なことに心臓が破裂しそうなほど脈打つ。桜花に聞こえていないか、とどきどきしながら、桜花の顔を見る。
ここに誰もいないのなら、今すぐこのいじらしく可愛い彼女を抱き締めてしまいたかった。
「そろそろ行きましょう。蛍さん達に怒られてしまいます」
「む……」
この昂った感情が行き場を失ってしまったので、せめてもの代替として、桜花と繋いでいる手に少し力を込める。
二人の手は深く交わり、恋人のみが許される形へと変化した。急なフォルムチェンジに翔がそわそわしていると、桜花は悪戯が成功した子供のように微笑んだ。
夏の陽射しに当てられてか、妖艶にすら見せる桜花の表情に、今まで以上に惚れたな、と自覚してしまった。
「どうしました?顔を手で覆って」
気持ちを落ち着けるために、手で顔を覆って視界を謝絶していると、桜花が気になってしまったようで訊ねてきた。
「好き過ぎて辛い」
「……ばか」
翔が正直に答えると、桜花は照れたように小さく呟いた。
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