第118話「待ち合わせ」
「お待たせしました」
「いいよいいよ!」
「桜花ちゃん、可愛い!!」
「ありがとうございます。蛍さんも可愛いワンピースですね」
「ありがと!!そのブラウスどこで買ったの?」
「これはですね……」
遂に待ちに待ったこの日が訪れた。
桜花は少し遅れてしまったことを詫びたが、蛍が満面の笑みを浮かべていて、つられて笑った。
「遅かったな」
「ちょっと準備に手間取ってな」
「ふぅん」
「何だよ」
「いや?髪上げると結構いい顔してるんだな、と」
「カルマに言われても何も感じない」
カルマが意味ありげな視線を向けてくる。
カルマは顔の整っている、美男子に分類分けされる顔立ちで、そんなカルマに褒められても嬉しくも何ともなかった。
ただ、桜花にも「髪の毛を上げた方がかっこいいですね」と言われたのでお世辞ではないらしい。
だが、毎日髪の毛を上げるとなると、それなりに時間がかかるので、こういった特別な日でなければする気はなかった。
ダブルデートをする、という前代未聞のことに些か気を張りすぎてしまったらしい。
桜花に見繕ってもらったスポーツミックススタイルの服をそのまま着ている。桜花も前に買った白のブラウスを際立たせるように全体的に清楚なイメージで纏めていた。
逆にカルマは襟付きのポロシャツに半ズボンとカジュアルな服を着ていて、蛍も淡い水色のワンピースを着ていて、2人ともから夏のイメージが強く伝わってくる。
「意気込みすぎるなよ?」
「俺は意気込まない!」
「自己暗示をかけるんじゃない」
「うわーん」
「棒読み!!」
昨日のメッセージのことを含ませながら言うと、カルマは珍しく弱気な声を漏らした。
「できるかな……?」
「やれ」
「無慈悲!!」
余程やられてしまったらしい。事情を知ってから、まじまじと再び観察すれば、その程度がどれほどのものなのかは大体分かる。
カルマの精神は蝕まれていてそろそろ瓦解しそうな勢いだった。
その証拠にちらちらとカルマが蛍に視線を送っているのだが、全く視線が合うことはない。
「そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
翔は頷きながら桜花に手を差し伸べた。桜花は蛍達をちらりと見て恥ずかしそうにしていたが、優しく翔の手を取った。
翔だって恥ずかしいのだが、これもカルマのため。気を抜くと桜花は蛍と、翔はカルマと並びかねないので、こうして自分の彼女は自分としっかりと繋げておくのだ。
あと副効果として、変な奴らに絡まれないようにするため、というのもあった。
「翔くんが自然に桜花ちゃんの手を握ってる……」
「そんなに不思議か?」
「ちゃんと彼氏してるんだね」
蛍が感嘆の声を漏らした。翔が彼氏としての行動を見せたのはこれが初めてだったからだろう。
前にカルマ達が遊びに来た時はまだ、付き合ってなかった。
「蛍……手を」
「いつもは繋がないのに?」
「……」
翔達を見て、カルマが勇気をだすが、今までの行いが仇となってしまったようだ。
いつもは手を繋がないらしい。
蛍も冷めた言い方ではなく、疑問が口をついて出た、という感じだったのでいつもと違うから驚いた、ということだろう。
ここで「うん」とでも言えれば良かったのだが、断られたと受け取ったカルマはその手を引っ込めてしまった。
「あー、その。いつもは手を繋がないのか?」
「うん。前に繋ごうとしたら恥ずかしいって言われちゃった」
カルマをじと目で睨むと誤魔化すように頬をかいた。あれだけ惚気ておいて、「恥ずかしいから手を繋げない」とは……。
もう放っておいてやろうか、と思ったが、桜花はまだ諦めていないらしく、蛍に質問をした。
「蛍さんはもういいのですか?」
「わざわざ恥ずかしい思いをさせるほど私は趣味の悪い女じゃないよ」
「いえ、そうではなく」
「私としては……繋ぎたいとは思ってるけど」
桜花に小声で教えてやる蛍。しかし手を繋いでいるので翔にまで筒抜けだった。知らないのは一番知るべきであるカルマだけ。
「そろそろ行こうぜ」
「そうですね。いつまでもここで話しているわけにもいきませんからね」
「話なら歩きながらでもできるしな」
「そうね」
カルマが外されている感に耐えきれなくなったのか声を上げ、桜花がそれに追随して、翔と蛍が同調した。
蛍も一応、隔たりはできてしまっているものの、彼女としてカルマの隣に居たいらしく、翔達の元から離れ、カルマとの少しの間を設けながらも隣に並んだ。
「素直じゃないな」
「そうですね。お互い様な気がします」
カルマも蛍も素直じゃない。
本当は一緒にくっついて遊びたいのに、心の中にもやもやを感じ、距離を置いてしまっている。
(似た者同士だからこそ付き合えた、とも言えるけど)
翔と桜花は似た者同士ではないだろう。むしろ逆だとさえ言える。
二人のもどかしい後ろ姿を眺めながら、翔と桜花は顔を見合わせて微笑みあった。
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