第4章「やる気の導き方」
第101話「大事な事を忘れてた」
「どうしようか」
「……どうしましょうか」
翔達は互いに顔を見合わせて悩んでいた。何に悩んでいるのかは言うまでもなく、翔の親である梓と修斗に報告すべきか否かを悩んでいた。
本来ならば梓と修斗に限らず、桜花の両親にも挨拶すべきなのだろうが、桜花がその辺の事柄を話そうとはしないので翔も深く追求することはしてこなかったし、これからする気もない。
そのため、桜花の両親はひとまず置いておくとして、問題は翔のキャラの強い両親だろう。
報告すればまず確実に梓は喜んでくれるだろう。付き合っていなくとも桜花を娘同然のように扱っていたので間違いはないだろう。修斗も翔に踏み出して欲しかったのだろう、と今更ながらに過去を振り返ると背中を押してくれている場面が幾度となくあったので、喜んでくれるだろう。
だが、翔達はある意味で二人を裏切ってしまったのではないかと思ってしまっていた。
二人を送り出した時に「高校生だし外れたことはしない」と言って送り出した。それはその時にはまだ付き合っていなかったので信憑性があったのだが、今では立派な程に彼氏と彼女になってしまっている。
その二人が一緒にいて何も無い方がおかしいだろう。勿論、翔は何もするつもりはない。
だがそれでも前回のように伝えられるかと訊ねられれば難しいと答えるしかない。
「やめておくか?」
「梓さんが知れば怒りそうですけど……」
言わなかった場合、隠し通せれば何てことはないのだが、明るみになった場合は梓が手をつけられなくなる程に怒ってしまう。
特に男側の翔は24時間の説教!とでも言われてしまうかもしれない。
「だよな……」
「伝えた方がいいと思いますけど」
判断は翔に任せる、とでも言うように桜花は翔に身体を預けてきた。
任された翔はしばらく悩んだ末に、電話をかけてみることに決めた。
いつか言うのならば今の内に言うべきだろう。桜花と別れるつもりはさらさらないし、一生共にいるつもりだから、どのタイミングで言おうが構わないだろう。
「ちょっとかけてみる」
「はい」
緊張した面持ちの中、翔は半ばうろ覚えになりかけていた修斗の電話番号をタップして、電話をかける。
何回かのコールの後で、懐かしい父親の声がした。
『もしもし』
「もしもし父さん。今大丈夫?」
『短い時間なら大丈夫』
そう答えた修斗が、遠くの方で、秘書か誰かに「少し席を外す」と伝えているのが電話口から聞こえて、少し申し訳ないな、と思った。
と、気を抜いているとスマホを挟んで桜花がピタリと頬を寄せてきた。スマホを持っている手に桜花の頬が触れ合い、くすぐったい感触に襲われる。
スピーカーにしようか、と訊ねてみたが、いいえ、と首を横に振られてしまった。
手に頬擦りされているようで翔は胸の奥からむず痒い何かが表に出てこようとしているのを感じた。
『すまない。待たせた』
「こっちこそ時間を割いてくれてありがとう。単刀直入にいうよ。僕と桜花は付き合うことになりました」
『おぉ。それは良かった。おめでとう』
修斗はとても嬉しそうに祝福してくれた。
(あれ、あんまり驚いていない)
だが、翔は少し物足りなく感じた。いわってくれるのはもちろん嬉しかったのだが、「翔に彼女?!ありえない!!」とまでは流石に行かないまでも、もう少しリアクションがあってもいいのでは、と思わずにはいられなかった。
「ありがとう。でも、あんまり驚いてないね」
『ん?まぁそうだな。翔が付き合うのも時間の問題だろう、と梓と話したところだったし』
「間が悪かったのか……」
『梓には私から伝えておくよ』
「うん。また帰ってくるなんて言われたら面倒だし」
『こらこら。水を差さないように、とは言っておくよ』
梓は修斗に釘を刺されないと暴走してしまうので、これぐらいがちょうどいいだろう。
翔が相槌を打つと修斗は一つ、思い出したように続けた。
『夏休みには一度そっちに帰ることにするよ。その時には桜花のご両親も一緒に帰るから桜花にも伝えておいてくれ』
「え?あ、ちょっと?!」
詳しく問い正そうとしようとしたのだが、秘書らしき人が「戻ってきてください!」と切羽詰まったような声色で修斗に叫び、修斗が電話を切ってしまったがために深く訊くことが出来なかった。
「聞いてたか?」
「お父さんとお母さんが……?」
「夏休み中らしいから今から気を張ると倒れるぞ」
桜花が深く考えるようになってしまったので、軽く肩を叩きながら言ったやると、桜花はえへへ、と腑抜けたような顔を見せながら翔の肩に顔を乗せた。
「私には翔くんがいるから大丈夫です」
「僕は薬じゃないんだから無理したら僕では治せないぞ」
「看病してくれるので翔くんはお薬です」
もう何を言っても翔に結びつけてしまう桜花にため息を一つ吐き、とんとん、と桜花の背中を撫でた。
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