第50話「急展開です」


 こほん、と一つ咳払いをする。

 つい翔のパンツも用意してくれたのかと気になって、話が脱線してしまったようだが、本来ここで話を付けるべきは「カルマと蛍が我が家に遊びに来る」問題をどう上手く解決するか、ということだ。


「日にちは勿論ずらすとして、場所だよな」

「部屋、ではダメなのですか?」

「カルマが来た時は桜花が動けなくなるぞ」

「逆もまた然り、ですね」


 梓や修斗がいないので、翔達は家事分担をして、掃除やら料理やらを回している。

 友達が来れば片方が相手をするのは必須であり、更に付け加えるとすると、翔と桜花は一緒に住んでいるとバレたくはないためかなり、行動が制限される。


 よって、一階を伝って二階の部屋で遊ぶよりも、一階で遊んでもらい、二階は完全に安全なスペースとして確保することも出来る。


「あんまり言いたくはないけど、面倒なら断るという選択肢ももちろんある」

「それは……選びたくはありません。あ、もちろん翔くんがダメだと言うなら別ですが」

「僕も選びたくないよ」


 折角、お互いに友達が遊びに来るというビックイベントが発生しているのだ。

 そのイベントを潰してしまうのに、見合っているほど翔達は困っていない。唯一の友達と言うところも加点になっているだろう。


「一階の方がいいですかね?」

「まぁ、ゲーム機はこっちだしな」


 テレビの下にリモコンやらソフトやらが転がっている。

 桜花はしげしげとそれらを眺めたあと、翔をじっと見つめた。先程の光景が鮮明に蘇り、息を飲む。


「あれをまだやった事がありません」

「ゲームのことか?」

「この家に来てからまだ一度も触っていません」


 因みに翔は夜中に直々触っている。携帯ゲームもいいが、テレビ等の大画面でするのも楽しい。


「触りたいのか?」

「私もやってみたいです」


 直球な桜花のお願いに断れる男子はいないだろう。翔は勿論その一人なので、表面上は少し渋ってみるものの、快諾した。


「一応、どうするか決めてから遊ぼうか」

「そうですね。料理もしないといけませんし」

「今日は僕が洗濯だったか」


 桜花がこくりと頷いた所で、翔のスマホが震えた。


 翔のスマホの通知が鳴るのはとても珍しい事だった。登録している連絡先は桜花のものと両親、カルマぐらいで、他のアプリの通知は全てオフにしている。


 桜花はここにいるので、さては旅行中にいいもの見つけて何か送ってきたのか?と推測しながらロックを解除する。


「カルマか……」


 一体何の用だ?と文面を見た瞬間に翔の時間だけ止まってしまったかのように全身が凍り付いた。


「どうしましたか?」


 桜花が心配そうに声をかけてくれるがそれどころではなかった。


 翔の一言目の感想は「展開早すぎだろ」だった。まだそこまで行っていないと、外野である翔は思っていたのだが、そんなことは無かったらしく、本人達はもっと進んでいて、ゴール一歩手前まで来ていたらしい。


 何という不覚。


 しかし、こうして律儀にメールで知らせてくれるところがなんともカルマらしかった。まぁ、はっきり言って何一つ必要はなかったが。


「ははは……。ラブコメの神様が仕事してるよ……」

「神様?」


 話が見えていない桜花に、スマホを渡す。すると桜花も翔と全く同じように固まり、微動だにしなくなった。


 ラブコメの神様は全く仕事しないものだと思っていたのだが、そんな事はないらしい。少なくともカルマに関しては御執心なのか、祝福のバフが多くかけられているのではないだろうか。


 届いた文字は至極単純。


『無事、付き合う事になった。手伝いありがとう!!』


 いくら何でも早すぎだろ。


「「えぇえええ?!」」


 翔達は示し合わせたように同じタイミングで驚きの声を上げた。


 告白をしたのはカルマだろう。そして脈アリ?程度だと思っていた蛍は案外押しに弱かったのか承諾したらしい。


「ほ、ほほ蛍さんが……」

「お、落ち着け!」

「お、お付き合いを……?!」


 落ち着けと言っている方も大して変わりのない狼狽ぶりだった。


「本当なのでしょうか?」

「カルマが嘘を送ってくる人に思う?」

「エイプリルフール以外はありえないと思います」

「それは確かにある話だな」


 恐る恐る桜花は翔に訊ねた。

 少し落ち着いてきたようで、少々脈は上がっているものの、言葉をつっかえるほどではなくなっていた。


「カップルならお互いに遊びに行くことぐらい言いそうだよな」

「隠し事とかはなさそうですよね」


 桜花も翔と同じ意見らしい。

 本当はもう少し頭を冷やしてから考えるべきだったのかもしれない。

 しかし。


「……カップルできてもらうか」


 そんなとんでもない発言が出るほどに、翔はおかしくなっていた。桜花もこくこくと連続で頷いた。


 否定をしないところから二人は完全におかしくなっていた。


 こうして、家には今までの作戦を全てぶち壊しになり、カップルとして二人ともを一緒に呼ぶことになった。


「まぁ……大丈夫だろう」


 桜花とはカップルではない。そんな男女がカップルを迎えることに少し違和感を感じる。


 桜花は家族であり、幼馴染である。決して赤の他人という訳では無い。


 だから問題ない。と、翔は誰に対するでもなく弁明の論を自己完結されていた。

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