第17話「カーストルール」
翔の学校生活は順風満帆で日々楽しい生活を送ることが出来ている……とは流石に言いきれなかった。
「おう、響谷。少しツラ貸せよ」
「分かった」
翔はこれから自分がどうなるのかを十分に分かっていて須藤の呼びかけについていく。
そう。
須藤による完全な逆恨みによって、翔はターゲットにされてしまっている。
須藤は恐らく、桜花に惚れている。しかも一目惚れ、というやつだ。
しかし、お近付きになるには近くにチラつく男の存在が邪魔で仕方なかったし、その男に対して桜花が他の他人とは違う柔和な笑みをたまに浮べるところも気に入らなかったのだろう。
須藤はどうにかして自分に意識を向けてもらいたかった。
彼にとって初めての人を好きになるという人生のイベントをどうにかして成功させようと必死だったのか。
須藤のとった行動はイジメと受け取られても仕方がないほどの暴力であった。
「まだ呑気に学校なんかきてんのか?もう帰って大人しくしてろよ、なッ!」
今回は体育館裏に翔を呼び寄せ、問答無用で腹に重い拳を喰らわせた。
須藤の子分のような生徒はこの行為が先生や生徒に見つからないために見張りをしている。
中学生時代にやんちゃしていた須藤は躊躇いもなく次々に拳を繰り出していく。
しかし、露骨に顔を狙うと傷ができてそこから芋づる式にバレてしまう恐れがあったので、服で隠れるような腹や胸に的を絞って殴る。
「何か言って見せろよ?あァ?」
「僕は何もしていないし、これからする気もない」
「それで信用出来たらいいんだけどなッ!」
胸ぐらを掴み、耳打ちしていたはずが、いつの間にか投げ捨てられる。
翔の受け答えが案外しっかりしているのは須藤がわざと峰打ちを外しているからだ。
翔が意識を失ってしまった場合の配慮だろう。細い身体の翔が昼休みを越えて目覚めなければそこからもバレてしまう可能性があるからだ。
これがここ一週間程毎日毎日続いていた。
「ごほっ……かはっ……」
翔は堪らず空嘔吐する。
今日は金曜日。そして放課後。
殴られて意識が朦朧とする中でもはっきりと分かる。
今日はこれだけでは終わらない、と。
「明日は休みだったな。まだ付き合ってくれるよな?響谷」
「ごほごほっ……」
「これで伸びてんじゃねぇよ。これからだろ?」
翔は須藤にどんな言葉を掛けても今は聞く耳を持たず無意味であることを理解していた。
それに、憎悪の対象に正論を言われたら更に逆上するだけだということもわかっていた。
だから、早くこの時間が終わってくれ、とひたすらに願うしかない。
放課後、金曜日。
配慮するものがなくなったせいか遠慮もなくなり、好きなところを好きなだけ殴られる。
「お前の席の位置が気に入らねぇ!」
腹に一発。
翔は堪らず遅れて腹に手を当てる。しかし、その少し上に須藤の大きな拳が飛んできた。
「お前の存在が気に入らねぇ!」
胸に一発。
鳩尾には入らなかったようだが、これはわざとだろう。それでも鈍い痛みが伝わり脂汗が浮あがる。
「お前の目付きが気に入らねぇ!」
顔に一発。ちょうど顔を上げてしまった時に何の防御もなくストレートで殴られた。吹き飛ばされそうだったのを何とか保つと、
「信頼されているのが気に入らねぇ!」
最後の締めだとばかりに鳩尾に一発。
再び翔は蹲るように体勢を前傾姿勢にする。
「全部全部気に入らねぇ!!」
そういういちいち反応しようという所が気に食わないのだ、といわれているかのようだった。
髪を引っ張り引き寄せてから頭突き。
「はぁ……はぁ……クソが」
翔はそんな捨て台詞を遠くなりそうな意識の中で聞く。
地面に横たわっている状態のはずにも関わらず、意識は混濁とし、頭は揺れているような感じがする。
胸部が圧迫され呼吸はしずらく、意識して酸素を取り込もうとしなければうまく行えない。
鼻からは鼻血が零れ、鉄の匂いがするし、口の中も切れてしまったらしく血の味がした。
身体は既にボロボロだった。
「月曜日、休むなよ」
須藤はそう言い残して翔に背を向けた。
翔は浅い息を繰り返し行い、タイミングを整える。
今回はいつもより酷く、直ぐには立ち上がれそうになかった。
翔の身体を自分で見ることは出来ないが、ここまで散々やられたので痣や擦り傷は至る所にあるだろうなぁと思った。
辛うじて動く手を握りしめたり開いたりしてみる。
じめっとした湿り気のある土ならではの臭いと血の臭いが混ざり合い気持ちが悪い。
翔はもしやれるのなら今すぐにでも立ち上がり、後ろから殴りかかってしまいたいほどだったが、そんな超人的な体力は翔にはないし、一発やり返すことが出来たところで後々倍返しにあうだけだ。
銀行マンですら10倍返しの世の中なのだから。
桜花に先帰っておいてくれ、と断っておいて正解だったと1時間ほど前の自分に賞賛を贈り、立ち上がれるまで動かず回復するのを待った。
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