第一章:殺意の萌芽

「ここだよ」


 告げながらノックをすると、中から短い返事が聞こえた。


 扉を開けた草本に続いて部屋へ入ると、絵夢に気づいた日向が無邪気に笑いかけてくる。


「あ、絵夢さん。戻ったんですね」


「ええ、会場へ行く前に挨拶しておこうと思って」


「そんな気を遣わなくても良いんですよ?」


 メイクをチェックしていた神川が、鏡越しに絵夢を見つめてきた。


「でも、いろいろ迷惑をおかけしましたし……」


 主に助手が、と絵夢は胸中でつけ足しておく。


「探偵さんって、案外律義なんですね」


 律義などと言われたのは生まれて初めてかもしれないなと、神川の可愛らしい笑顔を見つめながら絵夢は考えた。

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