第4話
「おい、おい、おい。
そんな肉ばかり食べてちゃ身体を壊すぜ。
野菜も喰え野菜も」
「うるさいわね!
私は人間なの。
馬じゃないの。
草なんか食べなくても病気になんてならないわよ。
インキタトゥスこそブケパロスを見習って、たまにを肉食べなさいよ」
こんな掛け合い漫才のような会話が、楽しくて仕方ありません。
公爵令嬢や聖女という肩書があると、畏まった言葉遣いを強要されます。
そうでなくても貴族同士の会話は、相手の粗を探して少しでも有利な立場を築こうとする会話ばかりです。
談笑ではなく戦い、殺し合いに近い会話ばかりです。
私には性があいません。
「だが冗談抜きで、たまには果物くらい食べた方がいい。
人間と馬じゃあ毒物に対する耐性が違うから、俺達が食べられるからといって、その辺に生っている果物は勧められないからな。
油も残り半分を切っている。
旅はいつなにが起こるか分からん。
手持ちの物資が半分を切ったら買い足した方がいぞ」
「分かってるわよ」
ぞんざいな返事をしてしまいますが、インキタトゥスの助言は役に立ちます。
長年生きてきた賢者のような馬ですから、助言には素直に従った方がいいのです。
ただどうしても一言悪態をついてしまいます。
でもそれも私の旅の楽しみの一つになっています。
「騎士様、どうぞうちの宿で休んでいってください。
色とりどりの美妓を取り揃えておりますよ。
一晩の夢を約束いたしましょう。
どうぞうちの宿に泊まっていってください」
嫌な眼つきをした、いえ、悪相そのものの客引きが、私が騎乗するバビエカの手綱を取ろうとします。
強引に売春宿に連れ込もうとしているのでしょう。
まあ、私が女だと見抜いたわけではありません。
正規騎士の板金鎧を装備し、兜まで被った私は、男にしか見えません。
女を抱かして大金を奪い取ろうというのでしょう。
「ちぃ!
おい、予備の馬を厩に案内しな」
バビエカが威嚇すると、私を強引に宿に連れ込もうとしていた兄貴分が、ビビッて手綱を奪うのを諦めました。
それも当然でしょう。
私の知る限り、この国でバビエカに匹敵する巨大馬は十数頭しかいません。
田舎の小都市のチンピラに、どうこうできる相手ではないのです。
ヒィィィィイ!
貧弱な馬体のインキタトゥスを狙ったのでしょうが、気の荒いブケパロスが黙って見過ごすはずもありません。
一声いなないたと思うと、前足でチンピラを蹴り倒しました。
いえ、蹴り倒したという表現は正確ではありません。
チンピラの頭部を粉砕して脳漿をぶちまけたと表現すべきです。
私は吐き気を催して面貌を取り、馬上で嘔吐してしまいました。
(吐いてる場合じゃないよマリーア嬢。
あの子を何とかしてやらないと、一生後悔するぜ)
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