657・集う者達(ファリスside)

 なんとかユミストルの核を破壊する事に成功したファリスは【フィールコラプス】を維持したまま外へと出る事に成功する。最初に飛び込んだ時とは違い、よろよろと出ていった彼女を待ち受けていたのは凄惨な光景だった。

 幾つものゴーレムの残骸。魔導やゴーレム達の攻撃によって荒地へと変貌してしまった平原。死体もあちこちに散らばっており、戦争の悲惨さを伝えてくれるようだった。


「みんな……」


 ぽつりと呟いたファリスは呆然としてしまった。目の前の光景は今まで見てきたどんなものよりも酷かったからだ。思わずオルド、ワーゼル、ククオル、ユヒトの四人の事を思い出していた。短く、それほど深い付き合いをしてきた訳でもない彼らの事を大切に思う気持ち。自然とそれが湧き上がり、重い身体を奮い立たせ、なんとか探そうと歩き出した。

 幸いにも活動を続けているゴーレムは確認できなかった。戦いによって大部分が破壊されたためだろう。金属片が散らばる場所を歩き続けていると、ようやく見知った姿に出会う。


「ククオル!」


 見覚えのある狐人族が振り向くと、ファリスを見た途端に笑顔を見せてきた。


「ファリス様! ご無事でしたか!」

「ええ、何とかね。みんなは?」

「それが……」


 気まずそうに言葉を濁すククオルの反応に誰か死んでしまったのではないかとファリスは勘ぐってしまった。


「もしかして……」

「あいや、そういう訳ではなくてですね」


 ファリスが何か勘違いしている事に気付いて尚更気まずそうに頬を掻いて苦し紛れに笑う。


「……ワーゼルが少々はりきり過ぎまして。今はちょっと倒れています」

「ほ、他は?」

「みんな何とか無事です。死んだ人もいてオルドたいちょ――さんはその確認に駆り出されています」


 やはり隊長呼びが染みついているからか慌てて言い直すククオル。その姿に多少和みを感じながらもファリスは安堵した。あまり良くはないが、彼女の知っている人達は無事であった事。それが何よりも大切に違いないからだ。


「……そう。良かった」

「それで……ファリス様がこちらにいらっしゃったという事は、ユミストルは――」

「ええ。完全に機能停止した……と思う」


 いまいち確信を得られない答えをしたのは、あまりに酷い光景に思わず確かめる事もなく歩いてしまったからだ。しかしユミストルがまだ機能しているならば、あの大砲を使用しないはずもなく、大地にはその跡が痛々しく刻まれている事から少し前まではまだ使用したと思われる。追尾型の攻撃も迫ってきていないところから考えると、やはりユミストルは機能停止していて間違いないだろう。


「ユヒトとワーゼルは?」

「ワーゼルは後方に下がって休んでいます。ユヒトはオルドさんとは別の場所で遺体を探しています」

「そう。という事はククオルも探していて、戦いはもう終わったって事?」


 こくりと頷いたククオルにファリスは自然と【フィールコラプス】の発動を解除した。今まで気を張っていたからか、糸が切れたように身体が崩れ落ちてしまった。


「ファ、ファリス様!?」


 いきなり目の前で少女が倒れる姿を見て驚愕したククオルは慌ててファリスを抱きかかえる。さっきまで普通に話していたはずなのにいきなり倒れてしまったらそれは驚くのも無理もない話だ。しかも最も苛烈な戦いに身を投じて生還し、普段通りに話していた少女が……なのだから尚更だろう。


「あ、あはは、ごめんなさい。つい力が抜けて……ね……」


 抱えられたファリスは先程までの元気は消え失せ、力なく笑った。今まで気を張っていたのだ。それでもなんとか立っていられたのはもしかしたら仲間達の身に何かあったのかも? という不安によるものだった。それが最善の形で解放されたのだから一気に疲れが襲い掛かってくるのは仕方のない話だろう。


(あとはきっとティアちゃんが何とかしてくれる……よね……)


 ユミストルは機能を停止させ、その中から出てきたゴーレム達はリシュファス軍によって粗方破壊された。既にティリアースでもダークエルフ族の拠点は大体制圧され、各国も徐々に落ち着きを見せ始めている。これもひとえに迅速な対応を出来るようにしてくれたエールティアのおかげであり、彼女は今もなお戦っている。ファリスがこの国に帰還した時も真っ先に会いに行ったのだが、その時は既に彼女はこの国を離れていた。恐らくダークエルフ族に関する情報を手に入れて乗り込んでいったのだろうと思ったファリスはそれ以上の情報を集めはしなかった。ただ信じているのだ。必ず全てを終わらせて戻ってくると。


 だからファリスはそのまま安心して気絶した。次に目を覚ました時には全てが終わっている事を信じて。


「ファ、ファリス様!? ……え、えっと、誰か戻ってきてー!!」


 半ば安らかに気を失った少女と相対するように残されたククオルはただうろたえてくるはずもないオルド達に助けを求め――やがて諦めてファリスを背負い、自軍に戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る