639・単調な階段。その先

 結局階段を下りたけど、意外に短かった。少なくともここまでやってきた時に降りた階段比べれば遥かに少ない。それと今まで見た階段とは違って厳かな感じの装飾が施されていて、明らかにダークエルフ族達が作った階段ではないとわかる。遥か昔はここは地下じゃなくて地上だったんじゃないかと思う。長い年月がここを地下に埋めた――そう思うと壮大なロマンを感じるけれど、今は後回し。奥に進むと大きな扉が鎮座している。


「……如何にも何かあるって感じね」


 兵士達の視線を魔導で掻い潜り、スムーズに進める事が出来た私達の前に立ちふさがるそれは威圧感すらある。というか、まず私達に開けられるのか。それが問題だ。


「うわー……すごく重そうです」

「どうやって開けるのでしょうか」


 コンコンと扉を叩くジュールの行為にはあまり感心しないが、ここに来て音を気にする必要はないだろう。どうせ上には聞こえないだろうし、下に人がいるかどうかはわからない。何が仕掛けになるかわからない以上、あらゆる可能性を試してみるべきだ。


「何か合言葉がいるとか……」

「それではまるでおとぎ話ではないですか」


 あはは、と軽く笑っているジュールを横に内心本当なのかもしれない……と思っている時にガコン! と何かがなった音が響く。そちらに視線を向けるとヒューが平然とした顔で地面のスイッチであろう場所を踏んでいた。その瞬間にゴゴゴ、と大きな音を立ててゆっくりと扉が開いていく。


「やっぱりな」


 自分の行為に満足したような笑みを浮かべている後ろでジュールが肩を怒らせている。


「もし何か起こったらどうするつもりだったのですか!」

「他に方法はなかっただろう。のんびり待っている時間はなかったはずだが?」


 正論を言われ、ぐぬぬと悔しそうな顔をするジュール。しかし実際扉を開けたのはヒューだったので何も言えなくなっていた。


 扉の向こうには部屋――ではなく通路。ここまで来て更に奥があるというのか……。

 だけど幾つか扉が分かれていて、ただ進むだけの場所ではないみたいだ。


「……どうしますか?」


 どれだけ時間があるかわからない……が、他の部屋が気になるのも事実だ。


「幾つか部屋を見てみましょう。城側にはまだ気付かれていないでしょうから」


 気になる時は調べてみるのが一番だ。警戒を怠らないようにして扉越しに耳を澄ましてみる。ついでに【サーチホスティリティ】で調べて敵対者がいない事も確認しておく。何か音が聞こえるけれど、人が動くようなものではなくて、何か無機質な感じだ。

 静かに扉を開くと、そこにはすごく広い部屋に変な魔導具が複数個と同じ数だけゴーレムが動いていた。


「これって、ゴーレム……みたいですね」


 私達は目の前に広がる光景を多少呆然とした感じで眺めていた。私には全く理解できない魔導具がゴーレムのパーツを生成していて、それを手足の生えた丸っこいゴーレムがくっつけている。以前に破壊したゴーレムを修復できないか試した人がいたけど、何をやっても無理だったと報告があったはずだ。それをこの丸っこいゴーレムはいとも簡単にくっつけて新しいゴーレム兵器を製造している。ここは獣型の兵器を作っているようだ。


「もしかしてこれが作っているのが私達を……?」

「それしかないだろうな」


 ぽつりと呟いたジュールの言葉は真実だろう。だけどここにいるゴーレムは一切私達を襲ってくる様子がない。前にダークエルフ族の拠点で見た起動していない状態のようだった。


「ここを破壊してしまえば……」

「ま、まず間違いなく気付かれるだろうな。おまけにここのゴーレム共が襲い掛かってくるかもしれねぇ。手を出さない方が無難だろう」

「で、ですが……」

「俺達でも対処できるような兵器どもだ。全部終わってから壊せばいい。それからでも遅くないだろ」


 ヒューの言葉に苦虫を噛み潰すような顔をして納得していた。こればかりは仕方がない。ここで妙な事をして最悪な事態になっても困る。襲い掛かってくる様子がないなら放置するのが一番だろう。

 それからも幾つか扉を開けてみたけど、造られているゴーレムの種類が変わっているだけで大体は同じ構造だった。どうやらここは大規模なゴーレム生産工場を担っているらしい。他にも使い方がよくわからない魔導具が保管されている部屋もあり、明らかに現代の技術を凌いでいる物が複数確認できる。


「こんなに沢山の兵器が彼らの手に渡っているのですね……」


 次々と見つかる用途不明な魔導具の数々。中には予想がつくものも混じっているからこそ兵器だとわかるそれらにジュールは肩を震わせていた。

 恐らくまだ使い方がわからないものも存在するはずだ。でなかったら戦場に投入しているだろうしね。


 ついつい他の部屋も確認した私達はとうとう一番奥の部屋があるだろう大扉へとたどり着いた。途中で上り階段が存在したけどそちらは後回しにした。

 ヒューが目についた壁を押すと、そこがくぼんで扉が先程と同じように音を立てて開いていく。


 最後の戦いはすぐそこに迫っているかのように――

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