618・混迷する思考(ハクロside)
「この……! 【フレアウィップ】!」
一度、二度と切り結び、敵兵の体勢を崩したと同時に炎の鞭を生み出して敵兵に叩きつける形で振り下ろす。しなる軌道が予測のつかない攻撃を生み出し、成すすべなく鞭撃によって葬られてしまう。
「うおおおおお!!」
自分を鼓舞するように大きく
次々と敵兵を始末していく中、ハクロは少しずつ自分が高揚している事に気付いた。
今【覚醒】によって目覚めた力は一切使っていない。上手く魔力をコントロールしているおかげだ。周囲にも九尾を出した状態である白狐族本来の姿で戦う事は相当負担になると説明しているからこそ彼の振る舞いには違和感がない。昔は他の尻尾を縮小した状態で戦闘する事は不可能だったが、現在では問題なく行う事が出来る。これも訓練したおかげだ。
「【ファントムフレア】!」
大きな黒い炎の幻とその中に紛れ込ませるように放たれる速度のある小さな黒い炎。敵兵は防御行動を取ったが、それをすり抜けるように小さな炎が身体に当たり、兵士を焼き尽くしてしまう。
通常人を手に掛けるという行為は忌避されるものだ。しかし魔王祭などで当たり前に死を経験し、殺しを経験しているハクロは他人に手を掛けることなど慣れている。お祭りの側面が強い魔王祭だが、その本質は戦う事に慣れた新兵の育成でもある。その点で言えばハクロは成功していると言えるだろう。
怒涛の快進撃を広げていくハクロの姿は敵に恐怖を。味方に勇気を与えてくれる。
「今だ!! 一気に攻めろ!!」
既に指揮官も隊長も関係ない。後方はまだ問題ないが、前方は既に指揮系統は滅茶苦茶になっている。誰が命令を出してもとりあえず従っておくかと思う者が多かったのはハクロに良い意味で働いてくれた。
味方の兵士達も少しではあるが戦意を取り戻し、叫びを上げながら突撃していく者。魔導で攻撃を仕掛け、近接戦闘のサポートをする者……。各々の役割を認識し、しっかりと果たしていた。
「戦えない者は下がれ! 押し返すぞ!!」
ハクロの指示の元、怪我をしている者達を少しずつ後ろに下げ、それをハクロ達戦う気力を持っている者達が支える。最初は少しずつ押されていたポレック軍だったが、ハクロの奮闘のおかげで拮抗状態まで持ち直すことが出来た。しかし――
「どけぇぇ!」
敵軍から突如声が聞こえ、ハクロと同じように兵士達を薙ぎ倒して進んでくる者がいた。見た感じでは黒竜人族だとわかるそれにハクロは気を引き締めてそちらの方に向かう。今少しずつ気力を持ち直している味方の兵士達の戦意を削ぐ事を抑えるためだ。
どこかで見たことがある黒竜人族が剣を振るい、兵士達を斬り伏せていく。その光景に割り込んだハクロ。
「ちっ……!」
鬱陶しそうに一度下がった男の姿を改めて見たハクロはやはりどこか既視感を抱いていた。見た目は彼と同じくらい。恨みがましい視線をハクロに向けているが、彼自身……というよりももっと別の何かを憎んでいるようだった。
「【フレイムインパクト】!」
一旦離れた男は魔導を発動すると同時に再突撃してきた。拳に炎を纏い、多少の防御を無意味にさせてくるそれをギリギリの状態で回避するも、纏った炎が肌を焦がす。
「……っ! 離れろ!!」
超近距離で拳を振り回されてはたまらないと言わんばかりに剣を振り回すが、軽やかにステップを踏んで距離を取り、隙を見つけると踏み込んでくる。ハクロの剣筋も大方見えているようで、かなり戦い慣れている印象を受ける。
「【フレイムウィップ】!」
離れたと同時に近寄らせないための炎の鞭。これによって通常では考えられない軌道の攻撃が可能になり、先程の軽やかな動きも取れなくなってきていた。
「小賢しい! 【ヒートスラッシュ】!」
拳での攻撃が出来ないと判断した男は剣に炎を纏わせて横薙ぎに振るう。すると斬撃が炎の線を描くように刃を飛ばし、真っ直ぐハクロへと飛んできた。
「甘い! 【フレアバースト】!」
向かってくる炎の刃と相打ちしたが、それをすり抜けるように男は迫ってくる。重なる刃。咄嗟に防いだ一撃は目の前の敵よりは細い体型であるハクロにずしりと重くのしかかる。
「くぅっ……」
明らかに力負けしているが、決して引かないという覚悟が伝わる。それ故に尚更男は苛立ちを見せた。
「くそっ、いい加減くたばりやがれよ! ハクロさんよぉっ!」
押し勝った男は更に振り下ろし、受け流されると返す刃で切り上げる。
「僕を知っている……? お前は一体……」
続け様に放たれる斬撃を幾度となく流したハクロは、敵が自分を知っていることが意外だった。しかしそれは男の神経を逆撫でする結果となる。
「そうだよなぁ……特待生のお前は俺のことなんかおぼえてないよなぁぁ!」
力任せに振られた剣はハクロを数歩後退させる。そのまま距離を取った男は恨みがましく睨みつける視線を送ってきた。
「お前達に追放されたクリムだよ! クリム・ルーフだ!」
それは
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