609・鳥車の外装

 途中で脱線した話し合いが終わった次の日。私達は改めて館の前に集まることになった。大型のゴーレムの出現。それに伴う不安感を拭うには早急に対処すべきだと結論付けたからだ。

 それに町の人達を怯えさせるわけにはいかない。彼らを守るのも私達の責務なのだから。


 集合場所に着くと、既にヒューが鳥車を用意して待っていた。


「あら、随分早いじゃない」


 普段から面倒くさそうにしている彼が真っ先に来ているとは思ってもみなかった。


「俺の帰りをラミィが待ってんだよ。早く帰れるなら何でもするさ」


 ラントルオにエサを上げながらぶっきらぼうに返してきた。

 やっぱり彼にとってはラミィが一番なのだろう。


「ラミィの事がそんなに心配なのね」


 こちらでも流石に子供一人で生活させるのは色々と忍びない――ということで彼女の身辺を警護するのと同時に身の回りの世話をしてくれる人材を二人は付けている。それはヒューも知っているはずだけど…….。


「当たり前だ。あいつは俺の半身。魂なんだよ。心配するなってのが無理な話だ」

「わかっているから。少し落ち着きなさい」


 ラミィの事になると本当に過保護になる。この前もあの子が転んだ時に大騒ぎになったっけ。あんまり心配しすぎてもラミィの成長の妨げになる、と言いたいところだけど彼が聞く耳を持つとは思えない。今まで生きていた環境を考えると尚更ね。


 自分で振った話題ながらも少々辟易していると雪風とジュールも到着した。


「お待たせしました」

「僕達が最後のようですね。遅れてしまい申し訳ありません」

「いいえ、私達が早くきただけだから大丈夫」


 予定の時刻よりも前に辿り着いたのは私とヒューだから特に問題はない。


「揃ったみたいだし、クォルトン卿の兵士達が築いている防衛陣地に向かいましょうか」


 肝心のクォルトン卿は新しく軍の編成や兵糧の準備に忙しくなってきたと嬉しそうにしていた。まだ戦っていないけれど、援軍としてやってきた甲斐があった。


 ヒューを御者として残りの三人は鳥車に乗り込んだ。緩やかに移動を始めた私達は門を過ぎ、クォルトン卿の陣営へと向かうとだった。


 ――


 町を出てしばらく進んでいると幾つもテントが張ってある場所を見つけた。あれがクォルトン卿の陣営だろう。随分数が多い。それほど本腰を入れているって訳だろう。


「止まれ!」


 陣営の中に入ろうとする私達を見張り台の人から連絡を受けたのだろう兵士二人がこちらの進路を遮るように立ち塞がってきた。


「ここはクォルトン伯爵の名の下に陣を構築している最中である。現在一般人の侵入は許可されていない。引き返すがいい!」

「こちらはエールティア・リシュファス姫殿下とその御付きの者達だ。クォルトン卿の要請で援軍として参戦しにこの陣地へとやってきた」


 少し改まって話しているヒューがなんだか可笑しい。しかもそれに兵士達がしどろもどろになっているところがまた。なんだか劇を見ているだ。


「も、申し訳ございませんでした!! どうぞお通り下さい!」


 頭を下げて道を開けた兵士はあまりの慌てぶりに段々可哀想になってくる。再び移動を始めた鳥車の揺れを感じているとジュールが神妙な顔をしていた。


「どうしたの?」

「……やっぱりティア様も王族の乗る鳥車を使用した方が良いのではないかと思いまして」

「そうですね。エールティア様が愛用なさっているのは丈夫な作りになっているものですからね。外見だけでも変えられたらよろしいかと」


 ジュールだけじゃなくて雪風にも言われてしまうとは……。でも私はお父様達が使っている立派な鳥車を使いたいという気持ちがあまり湧いてこない。両親共に私がどこにでもあるような鳥車を使っていることに何も言わないから今まで使っていたけれど、こうして毎回止められるのも時間がかかるのはまた事実。やはり見た目が大事ということなのだろう。


「リシュファス家の家紋だけじゃダメ?」

「それでもわかるでしょうが、兵士達には偽物だと思われてしまいますよ」

「それにティア様が使っている鳥車は一般的に出回っています。家紋さえなんとかすれば騙るのは容易いのではないでしょうか」


 呆気なく否定されると「むむむ……」と黙るしか無くなってしまう。仕方がない。今までもこうした問題は何度か発生した訳だし、今後のことも考えると何か対策した方がいい。わかってはいるんだけどねぇ……。


「……はぁ。今度お父様が懇意にしているお店に話してみましょう」

「エールティア様の威厳が伝わるような豪奢なものが良いですね!」

「……なるべく控えめなやつをね」


 ここぞと言わんばかりにアピールしてきたけれど、そんなに派手なやつに乗るつもりは微塵もない。私は元々豪華なものが好きじゃないしね。お父様達が乗ってる鳥車ですらちょっと敬遠していたくらいだから。でもあまりわがまま言っている場合でないし、普段使いのものは少し検討しなければならない。


 ……なんだか色々と疲れてしまった。今からここの指揮官との話もあるのに、この先どうなることやら。

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