567・作戦の全容(ファリスside)
ファリスから見たら兵士はどれも一緒で、特に猫人族なんて他の種族みたいに着飾ったりしないから更に見分けがつきにくい。だから一歩前に進み出た兵士の事もベルンの館に常駐している衛兵程度にしか思っていなかったのだが――
「それではお話させていただきますみゃ。銀猫騎士団長のトイルと申しますみゃ」
会釈をしたトイルを見たファリスが真っ先に思った事。それは(縞模様なのに銀猫なんだ……)だった。
獣人族の中でも大柄の虎の姿をしている者もいるが、彼はそれを猫まで落とし込んだ感じの姿をしていたのだ。とても『銀』には見えなかった為ふとした疑問を思い浮かんだのだが、それを言えばまた脱線して面倒な事になるだろうと思った為黙っていた。
トイルは用意していた地図を広げ、説明を始める。
「まず、ここに純血派が集結していますみゃ。戦力はおよそ五十前後だとの見立てですみゃ」
それはルドールの街並みを上から見下ろした様子の地図であり、トイルが指を差したのは細い路地を抜けた先にある一つの大きな館だった。昔とある貴族が使っていたらしいが、現在は純血派の者が買い上げている都の事。以前は様々な場所に散らばっていたらしいが、今はまとまった戦力の確保に動いているようだとトイルは話す。
「恐らくダークエルフ族との戦いも佳境に差し掛かっているからだと思われるみゃ。悲しい事に彼らに同調する者もまだいて、金で雇われた傭兵も内部に取り込んでいるみたいですみゃ」
「……それだけわかっているのならなんとかなるんじゃない? 国に仕えている兵士達が遅れを取るなんて思えないけど」
トイルから聞いた戦力と彼女が知っているシルケット軍の戦力では、どう考えてもシルケットの方が有利であるし、敗北する理由の方が少ない。ファリスはルドール付近の拠点を構築する際にそこまで気を遣う必要があるのか? という疑問を呈した・
「純血派はダークエルフ族と手を組んでいる可能性がありますみゃ。もしそれが本当だったらなら恐らく呼ぶと考えての対策ですみゃ」
「……なるほどね」
それなら自分で倒せばいいじゃないとファリスは思ったが、それは酷と言えるだろう。何でも一人でこなして突破している彼女と違って彼らには出来る事と出来ない事を明確にする必要がある。そうしなけれrば生きていけないからだ。
「ファリス様達には万が一ダークエルフ族共の兵器が出てきた時の対処をお願いしたいですみゃ。他の純血派を構成するメンバーはこちらに任せてくれれば……と思っていますみゃ」
言うならばダークエルフ族の兵器が出てきていないときはこちらで対処しておいてくれ。他は手柄を上げる邪魔になるから必要ない。そんな風にでも思っているのだろうな……とファリスは一人で考えていた。
ワーゼルやククオルは何を言われているのか理解して納得していない表情を浮かべていたが、かといってそれを突っぱねる訳にはいかない。そんな行き場のない感情が二人を支配していた。
「……もちろん、私達も可能な限り対処いたしますみゃ。決して最初から貴殿らに丸投げする事はないみゃ。あくまで切り札的な立ち位置。最終的に被害を抑える為の力だと思って欲しいのみゃ」
ファリスとオルド以外の不満を感じ取ったのか、トイルは慌てるように付け加えた。たったそれだけで怒りが引っ込む彼らも単純ではあったのだが。
「こちらは極力何もしない形で構わない。そういうことですか?」
オルドの質問にトイルはゆっくりと頷いた。
「私達も最大限戦力を整えて望みますみゃ。だからこそ自信を付けさせてあげたいのですみゃ」
「……わかった。こっちはダークエルフ族の兵器かそれに準ずる力を持つ人が現れた場合対処する。それでいい?」
「ありがとうございますみゃ」
深々と頭を下げるトイルを特に何の感情も抱いてなさそうな瞳で見つめるファリスの一言でなんとか彼らの全員が合意を得る事に成功した。
「本当に申し訳ないが、よろしく頼むのにゃ」
再びベルンが礼の言葉を口にする。ここさえ乗り切れば……という想いがあるからこそ、彼の態度は必死だった。
「ファリス達の部隊はここに待機してほしい」
地図に示されたのは純血派が立てこもっている館の裏側。つまり非常口で脱出した彼らを絶対に逃さない為にという意味も含まれていた。
「何か不都合があった場合は赤。ダークエルフ族の兵器が出現した場合は黄。作戦終了は青色の光を放つ魔導を上空に撃ちだしますみゃ。作戦日時は明後日の十時ですみゃ。間者の可能性も考えて話した内容は決して他言無用でお願いしますみゃ」
「わかった」
「当日は私達の事は気にせずその時間までにその場所で待機してくださいみゃ」
ぺこりと頭を下げたトイルの説明が終わると同時に会議は終わった。ワーゼル、ククオル、ユヒトは固い表情で今から緊張している様子なのが見るからにわかる。今更何を……ともファリスは思ったが、とりあえず明後日になれば多少マシになるだろうと放っておくことにしたようだった。
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