512・異変(ファリスside)
勝利を収め続け、次々と戦場を制していく一方。ルドールでは奇妙な
シャニルの腹心であるハトル以外にも偶々置いてあるのを見つけたファリスの手によって破壊されるといった事例もあり、事なきを得ていた。
以前訪れた町がこの
それと同時にダークエルフ族の潜伏先を探す為、シャニルの部隊が町全体を捜索する事になり、現在は結果待ちの状態だった。
そして、ここに来て
そこで嬉々としたのがシャニルとベルンだった。シャニルは今まで散々脅迫され、したくもないことをさせられていた。
ベルンに当たっては彼自身が魔人族との混血あり、この戦争が終わり次第王太子に任命される予定の人物だ。彼や彼の妹達は幾度となく危険な目に遭ったし、今もなお目の敵にされている。ベルンの目的の一つに彼らの根絶が含まれている以上、ここで見せた彼らの尻尾を確実に掴むために互いに探りを入れていく――。
そんな急展開を見せているシルケットの内情とは別に、ファリス自身はいつも通りだった。
各地で起こっているダークエルフ族の攻撃や拠点制圧に尽力していた。
連勝が続いたおかげで兵士達の士気はあがり、今までは低下を防ぎ国で一体となり戦っていることを理解してもらうためという目的で陣頭に立っていたベルンだったが、凄まじい勢いでダークエルフ族を撃破している現状。純血派を一掃する機会が狙えることもあり、今はルドールの町で機会を窺っていた。それも相まってファリスに何かを言える人物は更にいなくなる。
結果的に戦場の女神のように扱われている彼女は次々と戦果を叩き出し、それに追従しようとする者も現れ始めた。
(これは……不味い事になるかもしれません)
そんな状況を
だが、だからこそ危険なのである。もし、彼女に何かあれば? 彼女が軍のフォローに向かえないときは? その時のことを考えれば考えるほど悪い方向へと傾いていく。
今の軍はファリスがいなくなればあっという間に
現時点でも女神のように崇めている者もいる中、そんなことを何の考えもなく口に出せばどうなるか……それすら思いつかない間抜けはここにはいなかったという訳だ。
ファリス自身は肯定も否定もしない。『あなたがそう思ってるならそれでいい。だけどその考えをわたしに押し付けないで』。つまるところこれでしかないのだ。彼女は自分の認めた者以外の意見に耳を傾ける事は少ない。完全にない訳ではないが、今のままでは聞き入れてもらえる事はほぼないだろう。
結局のところ現状維持。しかし、それもずっと続けるわけにもいかない。どうする事もできない。結果、不満が募る。少数派のそれでも膨れ上がれば周囲に伝達する可能性がある。しかも下手をすればいとも容易く爆発する。
どうする事もできずに
「前方、敵拠点発見! 索敵班の報告通り、ダークエルフ族の防衛隊がいるようです!」
先鋒を務めていた魔人族の男性の配下と思える男がファリス達に片膝をついて話しかけてきた。
少し前の報告でダークエルフ族の拠点が厳重に防衛されているのは知っていた。
しかし、彼らが考えている防衛とは若干違った様子。明らかに必要以上に警戒しているからだ。まるで大切なものを守っていますと大げさにアピールしているかのように。
これに色めき立つのはファリスに戦果を持っていかれ、あまり活躍する事が出来ない一部の猫人族や魔人族の兵士達。命は大事だが、戦で功績を挙げて名を上げるのも彼らにとっては大切な行為だからだ。
「……どうされますか?」
しかし、いくら名声や地位を得られたとしても、肝心の命がなければ意味がない。誰もが最初の犠牲者にはなりたくないのだ。だからこそ、一歩を踏むことが出来ずに立ち止まる事となってしまった。
結局様子見ばかりをしている兵士達を眺めながら、ファリスはふとある出来事を思い出していた。以前もこうやって厳重な拠点を攻略した事を。
あの時はかなりの敵を自分に引きつけていたが、途中で強力な兵器によって一掃されてしまった。その事実がファリスの判断を鈍らせる。
「……ひとまずここから少し離れたところに陣を敷いて待機。監視を怠らずにね」
それでも何も決断しないという事は出来ないから、最終的に選んだのはとりあえずもう少し様子を見てから決める――という消極的な手段だった。しかし現状では案外悪くはない一手。後回しにする行為だとしても、情報を手に入れてから選択するという選択もまた重要だからだ。
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