466・到着した町の違和感
ヒュッヘル子爵領からルーセイド伯爵領にある大きな町――ミッゼンゲルに辿り着いた私達は、鳥車を降りてひとまず宿を確保することにした。流石に人口密度が高くて……と思ったけれど、あまり人は多くない。商人や町の人達は行き来しているけれど、どうにも活気がない。なんというか、小さな領地の中で一番発展した町って感じの場所に見える。ヒュッヘル領ならまだこんな光景が広がっていてもおかしくはないけれど、ルーセイド領でこれはおかしい。閑散としている訳でもないけれど、賑わっている訳でもない……そんな中途半端な感じだ。
「なんだか、他の町とは様子が違いますね」
宿を押さえた後、周辺を散策しに行った私達。そんな街中を歩いていてジュールもどこか不穏を感じ取ったのだろう。きょろきょろと左右に頭を動かしていた。しかしそれは私が思っている事とは真逆の――なんというか楽しいものでも見るかのような目をしている。
ファリスの方も見てみたけれど、この子はいつもと同じでこの光景をどう思っているかあまりわからない。
「ファリス、この町はどう思う?」
「どう……って、結構寂れてると思うけれど……。ティアちゃんもそう思うよね?」
変な事を聞くなぁ……みたいな表情をしているファリスが見ている景色は私と一緒であることを教えてくれている。
「え? こんなに賑わっているのにですか?」
ジュールの言葉にファリスが戸惑って私の方を見ている。どうやら私もジュールと同じ景色をみているのかと聞きたいみたいだ。
「……どうやらこの町には何かあるみたいね。私やファリスには効いてないみたいだけど」
恐らくこれは人造命具関係だろう。発現していない間も効力を発揮してくれるタイプもあるけれど、ファリスのは多分違う。強すぎる故に妨害に関連する魔導は同等かそれ以上……それ程でないと影響を与える事すら出来ない人造命具も存在する。ファリスは多分こっちのタイプだろう。ちなみに私も後者の方だ。
「ジュールには何が見えてるんだろう?」
「多分、お祭りか何かでしょう。目が輝いてる」
田舎から都会に出てきた子のように目をキラキラさせているジュールの事は置いておいて……今一番問題なのはそんな幻を見せているという事だ。
よくよく見ると、街中には何かに浮かされているような表情をしている人がいた。大方彼らもジュールと同じなのだろう。長いこと幻に魅せられているから、段々意思を表示する事も無くなっていった――そんなところか。
今私が何かしてあげても、彼らは再び元に戻ってしまう。ここにいる以上、いくら幻を解いたところで無駄になるだろう。
「ティア様、何か召し上がられますか?」
意気揚々と私に問いかけてくる彼女を見ると、胸が締め付けられそうになる。一応見ている方向には本物の店があるから、食事はしっかり摂ることが出来るだろう。
「私はあまりお腹減ってないから、見てるだけでいいわ」
「……そ、そうですか?」
「お腹が減ったら食べるから、今は……ね」
「わかりました」
あまりしつこく誘ってこず、諦めたジュールの隣で私は露店で売っている物を確認した。
じゅわじゅわと音を立てて焼き上がる肉串は、塗られたソースも相まって香ばしい匂いをさせている。
他にも新鮮そうな野菜を切って白いソースと黄色いソースを塗ってパンに挟んだ物を出している屋台もある。何かしら怪しい食べ物を出しているかも知れない――そんな風に思っていた私を嘲笑うようになんの変哲もない物ばかりだ。
中には麺料理なんてものも並んでいる。
「ファリス、こっちはどう見える?」
「えっと……多分これはわたしとティアちゃんも同じの見てると思うよ。美味しそうだけど、片手で食べられる料理ばっかりだね」
うん、食べ物については今私たちが見ている物がそのままジュールの認識しているもののようで安心した。これなら、彼女がついつい食べても問題ないだろう。
「一体何がしたいんだろう? こんな大規模な見つかったら厄介なことになるのは間違いないのに」
ファリスの言う通りだ。通行人にこんな魔導をかけるリスクを背負いこむ必要はない。普通なら、ね。
だけど逆に考えるなら、周囲に良く見せる為にこんな事をしているなら説明がつく。そこまでして何をしようとしているのかはわからないけれど、どうせロクな事ではないだろう。
「多分、これが他の領地に伝わっている噂の正体ってことでしょう。惑わされているのであれば、ここや他にも同じ仕組みになっている町に良い感情を持つことにつながるしね」
その噂を元に町や領土は更に発展する。きちんと取引などは行われているみたいだし、幻覚の作用は限定的なのだと思う。
「とりあえず今日は普通に見てまわりましょうか。何か見えてくるものもあるかも知れないし」
町中ではジュールを戻す事もできないし、何が起こるかわからない今離れるのはあまり得策じゃない。ここは彼女を気にかけながら町の様子を確かめるのが先決だ。そうすればきっと何かわかるだろう。
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