429・まるで悪党みたい
私の感覚的にしばらくの間、ガリュドスの町に留まっていたけれど……ガンドルグ王の使者と名乗る男の人がやってきたお陰でそれも解放される事となった。
雪風が未だ戻ってこないけれど、恐らくラミィの説得に時間が掛かっているのだろう。もしくはまだ見つからないとか。
本当なら今頃は合流した後でガンドルグの王都に行く事が出来ただろう。
雪風が帰ってくるのを待っておきたかったけれど、これ以上は難しい。こうなったらここにメッセンジャーを残して行くしかない。
という訳で、様々なことを加味した結果、ジュールとファリスの二人を残して王都へと行く事になった。
レアディはこういうの向いていないし、アロズも言わずもがな。私が残るのは論外。ベアルに至ってはそもそも仲間でもないし、頼むのは筋違いだ。
必然的にジュールかファリスのどちらかになる。それを相談したら、ジュールが残ってくれることになった。前回の時もそうたっだけど、最近はお留守番等で離れてもらう事が多い。
ジュールはファリスにも残ってもらいたかったようだけど――
「えー、久しぶりにティアちゃんに会ったのに……」
――とかなり未練がましい視線を私に向けてきたので、ジュール側が折れるような形になったという訳だ。
ちょっと可哀想ではあるけれど、仕方がないと割り切ってもらいたい。雪風への伝言を残して、残念そうに見送りをしてくれるジュールの視線を感じながら、私達はヒューを連れてガンドルグの王都ビーマテスへと向かう事になった。
――
久しぶりにビーマテスの大地に足を踏み入れた私は、懐かしい気持ちが溢れ出してきた。
「随分と懐かしがってるな。ここに訪れたことがあるのか?」
レアディが訝しむように私を見ている。気付いたらアロズやファリスも不思議そうに見ているけれど……そんなに意外だっただろうか?
「私が一年生の時に魔王祭の見学で訪れたのがここだったのよ。あの頃はリュネーやフォルス、ウォルカの三人も一緒だったっけ」
今は昔に来たメンバーとは全く違うけれど、やっぱり懐かしい気持ちになる。あの頃とは取り巻く環境が大分変わってしまったけれど、ここの空気というか……町の雰囲気や人の流れはあまり変わらない。
「へぇー、ここにねー……」
ファリスは興味深そうにあちこち見回していた。まるで敬愛している昔の人物が訪れたところに、自分も足を踏み入れたと感動している学生のようだ。
「一年という事は……二年前か。そんなときから魔王祭の見学なんて流石だな」
「ベアルはエールティアの姫さんと会った事ないのか?」
「私はつい最近まで別の町で訓練を積んでいたから、エールティア姫とはあった事はないな。あの時は忙しく、闘技場まで行く余裕がなかった」
あの時の事を思い出すけど、私もベアルとは会ったことがない。ちょうど
そういえばもう随分とリュネーに会っていない。今頃彼女は何をしているのだろう? 久しぶりにあの可愛い猫人族訛りの喋り方が聞きたくなってきた。
「それで、今すぐ王城に向かうのか?」
私の思考をかき乱すようなレアディの言葉にベアルの『当たり前だ』という視線をひしひしと感じる。だけどレアディはどことなく面倒くさそうな雰囲気を露わにしていた。彼はあまり位の高い人との会話には慣れてないようだ。下手な事を言われて場の空気が悪くなるよりはいない方がいいだろう。
「レアディとアロズの二人は宿を抑えておいてちょうだい。後は……情報収集をお願い。適当に過ごしても良いけれど、あまり家名に泥を塗るような事はしないでちょうだい」
「ふっふっふっ、流石姫さんは話がよくわかるな」
どこかの悪党が浮かべていそうな笑みで上機嫌になるけれど、周囲に人がいるのだからあまりそういう笑顔をやめて欲しい。なんだか私も悪党の仲間というか……彼の上司みたいな感じに見えてしまいそうだからだ。
「ティアちゃん、それでいいの?」
ファリスがレアディに胡乱げな視線を向けてきた。確かにここで自由行動なんて普段はさせない。でも彼を連れていけば、むしろ事態を悪化させる可能性がある。礼儀作法とは無縁そうな彼には戦場での活躍に期待した方が良い。それにアロズと二人で組ませておけば、万が一複製体の誰かと戦闘になったとしても彼らで何とかする事が出来るだろう。
「ええ。二人ともお願いね」
「わかった。それじゃ、後でまた合流って事で」
「あ、レアディはん、まってぇな!」
適当に片手をあげてどこかへと向かうレアディと、慌ててそれを追いかけていくアロズはあっという間に雑踏の中に消えてしまった。
「さ、行きましょう」
「……本当に良かったのですか?こう言っては何ですが、野放しにしていいようには見えませんでしたが」
ベアルの疑問ももっともだ。基本的に悪人のような雰囲気をだしている彼を放置しても、あまり良い事は起こりそうにない。でも――
「彼らをこれからガンドルグ王やティリアース女王陛下の元に連れて行く方がよっぽど不味いでしょう」
その言葉に『ああ、なるほど』みたいな顔でみんな納得してくれた。ヒューに至っては「はははっ、それは違いない」と楽しそうに笑っている始末だ。先が思いやられるけれど、彼を連れて行くと決めたのは私だし、何も起こらない事を祈るばかりだ。
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