410・飲兵衛共の哲学(レアディside)
「――くぅぅぅっ! やっぱこれだな。他の酒も試してみたが、俺にはこれが一番合ってる」
「僕も同じですわ。これに後は女がおれば最高なんやけどなぁ」
アロズのため息にレアディもうんうんと頷いていた。美味い酒にツマミ。それだけあっても十分だが、一緒に飲んであわよくば夜の伴をしてくれる女性がいれば二人にとって言う事はなかった。
一応情報収集をする為にここに来ていい事になっているため、女と楽しくやっていることが雪風や
今やってる酒盛りも十分怒られる範囲内だと思われるのだが、そこのところは情報収集していたと言いくるめる自信がレアディにはあった。実際
「それにしても、誤算やったな。ヒューがあんなところに陣取っとるやなんて」
「全くイライラさせるぜ。あいつのせいで俺の明るい未来は台無しだ」
酒に怒りをぶつけながら愚痴るレアディは、今後の展開を考えていた。
雪風が無鉄砲に飛び出したお陰で
――もっとも、馬鹿にしている割合の方が遥かに高いのだが、レアディはそれを全く出さなかった。世の中は弱肉強食。弱い奴は強い奴の下について生き永らえる事が最も正しい処世術なのだというのがレアディの根幹にある。
彼にとって人生とは『楽しんでなんぼ』なのである。楽しむ為には強い奴の庇護下でそれなりに働いて、可能な限り長く生きる事だ。それを自ら実践する彼にとって、わざわざ自分より圧倒的な強者に喧嘩を売りに行く鬼人族の思考は理解不能だった。
「ヒューがいる以上、あそこには近寄れねえ。こりゃ何の収穫もないまま引き下がるしかないだろうな」
「エールティア姫さんが納得するやろか?」
「あの姫様にとって今必要なのは戦力だ。無闇に散らされるよりはよっぽど良いだろうよ」
頼んでいたおかわりの麦酒に口を付けながら、問題ないとアピールする。レアディが言う通り、エールティアにとって情報も貴重だが戦力もまた貴重。割合で言えば今後彼女の意思を汲み取って動ける者は多い方がいい為、無闇矢鱈に情報に手を伸ばして痛い目に遭われるよりはずっと良かった。
ここまで結論に辿り着くには、エールティアの性格を見抜いてどう自分を売り込んで働けばいいか常に考えているレアディにとっては簡単な事だった。
「でももし雪風はんが戻ってきたら、状況悪なるんちゃいます?」
アロズが心配しているのは雪風の安否――ではなく、彼女が戻ってきた結果、自分達の立場が悪くなるのではないか? という懸念だった。
基本的にレアディとセットでなければ行動しない彼にとって、周囲に対する彼の印象が悪くなると必然的に自分も悪くなる。共に行動する分には頼り甲斐のある兄貴分だが、共倒れは出来ればしたくない。そんな本音が見え隠れしていた。
「安心しろ。だからこうして情報収集してるんだろうが。商人共の動きや流れ。傭兵共から聞けるよた話。一つ一つはちっちぇが、まとまりゃ大きくなる。似たような話が色んな奴らから聞ければそれだけ信憑性も増すからな」
麦酒を飲みながら饒舌に語るレアディ。アロズはそれを感心するように聞いていた。
「なるほど。そこまで考えとるんやね」
「当たり前だ。アロズ、覚えておけよ。人は酒が入るとしたがよく回るようになる。奢られりゃいい気分になるし、肩組んで飲み明かしゃ仲間みたいなもんだ。下手な自白剤よりよっぽど効果があるってもんだ」
「さっすがレアディはん! 一生ついていけるわ!」
酒が進むにつれて上機嫌になっていく二人は、とても楽しい気持ちになっていく。
アロズはレアディの言う事が全て理解できるわけではなかった。だが、レアディが確かな信念をもっていて、それにアロズは共感した。面倒見も良いし、酒の席では彼にもわかりやすいように説明してくれる事もある。それだけで十分だった。……もっとも、打算がゼロという訳ではなかったのだが、それも彼らしかった。
「当ったり前だ!! 俺を誰だと思ってやがる。生きる事に関しちゃ人一倍執着してるレアディ様だぞ! そんな俺に付いてくるお前をないがしろにする輩じゃねぇよ」
にやりと笑うレアディは、あれだけ酒が入っているにも関わらず、酔いが回っている様子は全くなかった。魔人族にしてはかなりの酒豪であるレアディに付いて行くようにアロズも酒を進めていく。
その後も彼らは情報収集という名の酒盛りを続け――結局宿屋に帰るのは翌日となった。
雪風はもちろん
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