313・偽物の黒
激しい攻防戦が幾度となく繰り広げていく。斬撃をかわし、魔導を重ね、それでも勝敗はつかない。
大体私の予想通りに事は進んでいた。違いがあるとすれば……ローランの顔には焦りも何もなく、まるでこちらに探りを入れてくるような視線を向けてくる。
――なるほど。実力を探ろうとしているのは同じ、という訳ね。
ならばどうするか。一度勝負に出ても悪くない。このまま延々と同じことを繰り返して戦いを長引かせるのも悪くないだろう。既に見切った実力の範疇から抜け出すつもりがないのなら、それもまたいいだろう。
「……【エアルヴェ・シュネイス】!!」
結局私が出した結論は、攻勢に出る事だった。あの鎧には魔導を防ぐ効果がある。ならば、威力の高い魔導を畳みかけて、ローランの動きを探る。空がひび割れて光が差し込み、周囲の全てを白一色に染め上げる。
もはや見慣れた光景になりつつあるそれを、彼がどう返すか……私は密かに楽しみにしていた。
「【マジックリフレクト】!」
ローランが発動させたのは、私の予想とは違って防御の魔導。期待外れと言ってもいいそれに、思わず肩を落としそうになる。
恐らく、あの鎧の防御力を信じての行為なんだろうけど……例えこれに耐えたとしても、ダメージを受けることに変わりはない。同じ高威力の魔導が通るのならば、全力で放った【プロトンサンダー】も問題なく通る事になるだろう。
そうなれば後は簡単だ。何の面白みもない殲滅魔導をあの鎧の耐久力が尽きるまで発動し続ければ良い。
全てが真っ白に染まって、何も見えなくなった世界。そこで私は落胆していた。結局いつも通りの光景が見えるだけで、【エアルヴェ・シュネイス】によって作られた白の世界が終わりを告げれば、後はローランのダメージ次第で、行動にあまり変化はない。
やがて白の世界が収まって、光と色が戻って私が最初に見たのは――先程のとは違って黒い剣を握りしめたローランが迫ってくる光景だった。
「なっ……」
まさか【エアルヴェ・シュネイス】の直撃を受けて尚、攻勢に出てくるなんて思いもせず、戸惑った声を上げてしまう。
――油断した……!
内心、舌打ちをしそうになるけれど、こうなったら仕方ない。
「【シルドアームズ】!」
「その魔導は見飽きた!! 魔力を断て! 【フィリンベーニス・レプリカ】!」
一喝するように振り下ろされた黒い刃は、私の魔力の盾を容易く切り裂いて、腕に鋭い痛みが走る。
「っつ……!!」
久しぶりに感じる痛み。それが現実のものとして襲いかかってくる。
――胸の高鳴りを感じる。
二度目に襲いかかる刃を掴み、更なる痛みを感じて……私は思わず頬を緩めてしまう。
「なっ……」
『し、信じられない! エールティア選手の必勝パターンを打ち破り、一撃を加える事が出来ました! こ、これは、もしかしたらもしかするかも!?』
実況のシューリアが騒がしくしているのを耳にしながら、彼への評価を改める。
今までこの世界で私の【エアルヴェ・シュネイス】を受けてもなお、刃を向けてきた人はいなかった。
これは私の最強の魔導であり、誰にも打ち破れないという自負があった。それが崩れた私に浮かんだ感情――それは喜びだった。
「ふ、ふふふ……面白いじゃない。良いわ。楽しくなってきた」
「これで、どうですか? まだ俺では足りないと?」
にやりと笑ったその顔に苛つきと喜びがよぎる。わざと私を挑発してきたみたいだけど、いいじゃない。ノってあげる……!
「良いわ。貴方は私の敵足りうる相手だと認めてあげる! この世界で、私の記憶に留めるに値する相手だと!!」
笑みが止まらない。どんどん楽しくなってくる。彼の腹を蹴り上げ、距離を取る。
「くっ……ふっ、熱くなってきたじゃないですか」
「この場で、敬語は不要。普通に話しなさいな」
「……それじゃあ、遠慮なく!」
再度距離を詰めてきながら魔導を発動させようとしているみたいだけれど、まだ甘い!
「【ディスターブ】!」
ローランの魔導の発動を妨害して、こちらが優位に立つ為に行動に移る。ちょっとした魔力を乱す魔導だけど、実力者相手には成功率がかなり低い。少しでも意識されれば、容易く打ち破れるからだ。
今回は成功したからいいけれど、ちょっとした賭けでひやっとした。
「【アグレッシブスピード】!」
速度を強化する魔導を発動させ、戸惑っているローランに一気に迫る。
戦いに興奮を覚えている者の笑みが見えて、彼も同じ気持ちなのだと確信した。
鋭い動きで迫ってきた私を迎撃するように剣を振り下ろしてくる。やはり、私の速度について来れるみたいだ。それがわかるだけでわくわくしてくる。
振り下ろす体勢に入ったと同時に速度を緩め、左に避けるように旋回するように動いて撹乱する。
僅かに逸れた刃が返すように迫ってくる前に、ローランに向けて魔導を解き放つ。
「【プロトンサンダー】!!」
今までとは比べ物にならない程の光と熱と雷の線。吹き荒れる奔流がローランに襲いかかる。
だけど……油断はしない。この程度で終わるとは到底思えないしね。
私が敵として認識した――それがどういう意味か、とくと味わってもらおう。
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