302・対照的な二人(レイアside)
魔王祭も五回戦。まもなく終盤戦に突入するといったところで、観客達はどんどん白熱していく決闘に魅入られるように熱狂していく。
『さあ、いよいよ五回戦だよ! これに勝った人が準々決勝に進める事になるんだけど……今回の決闘はまたすごい組み合わせだよね。だって――』
『選手入場をする前に名前を口にしようとするな。早く入場させろ』
『んもう! 相変わらずガルちゃんは固いなぁ……。えっと、こほん。それじゃ、
四回戦辺りから同時に入場する方式に変わり、観客達の待ち時間が少しだけ短くなった。二人の選手が入場し、会場は熱気に包まれる。
周囲から響いてくる歓声に応えるように手を振るうレイアに対し、
『アルフくんを降したレイアちゃんが戦うのが、去年アルフくんと激戦を繰り広げた
『……結界具は問題なく発動している。さあ、二人とも死力を尽くせ。決闘、開始』
『ちょっとガルちゃん、無視しないでよ!』
姦しく騒ぎたてるシューリアを無視して、ガルドラが決闘開始を宣言し、オルキアがそれを楽しそうに眺めている――。
今年の魔王祭が始まって以降、この調子が続いているためか、選手も観客もすっかり慣れているようだった。
開始の宣言と同時に弾け飛ぶように金剛覇刀を抜き放ちながら迫りくる
大きな土塊を敵の頭上に落とす【ガイアプレス】。
ジャマダハルの先端から放つ事が癖になっている熱線を浴びせる魔導【フレアレイ】。
それらを簡単に避けられないよう、地面を凍らせ、スリップさせる事に特化した【フリーズスリップ】を仕掛け、
レイアが様々な経験から編み出した魔導が、
アルフを降した次の日。レイアは彼の口から全てを教えてもらった。
彼女は黒竜人族と竜人族の間に生まれたある意味混血児とも呼ばれる人種で、両親に愛情を注がれて育ったこと。その後、レイアの両親は幼い彼女と旅行に行っている間に事故で死に、親戚であるルーフの家族に育てられた事。
そのまま放置され、昨今に至る今までどこにいたのかすらわからなかった……という事。
勿論、その話の全てが本当ではない事をレイアは知っていた。旅行で事故に遭った――そう告白するアルフの様子は明らかにおかしかったし、話だけで何の確証もない話だったからだ。
一生懸命隠していた『本当』の事を教えてもらったレイアは、特に感情が動かなかった自分に驚いていた。
そのまま一日――二日と考え、結局答えを出したのは実際にアルフと決着をつけ、
どうあがいても自分の『今』を変える事が出来ず、今はただ、エールティアの為に戦って、彼女を守るために生きる――という事。
以前のレイアであれば、家族の事に多少固執していたり、何か思い悩む事も多かっただろう。
だが、今の彼女にはエールティアがいた。リュネーや他の仲間達もいる。もうすでに……僅かな言葉を一々深く、延々と悩み続ける彼女ではなくなっていた。
今はただ、決勝にて再びエールティアと
「はははっ! 中々やるな! アルフを倒しただけはある!!」
様々な魔導により、攻めあぐねていた
それと同時に、自分の中のレイアの評価を書き換える。十全の状態で相手をするに足る猛者であると、彼の心の中に留める。
対するレイアは、多少油断していた。宿敵とも言っていいアルフを降し、絵に描いたような快進撃。心は浮つき、上を目指して飛び立つ。
そして、決闘の相手が一度アルフに敗北した
肌で
今までが弱者であり続けたが故の慢心。自らの最強の敵を打ち倒したからこそ生じた心の隙。賢しさを身につけたばかりの幼い子供であるが故に、レイアは自らの勝利を求めた。
強者に必要な揺るぎない自信は身につけても、自我が伴わなず、遠く先を見上げる幼い瞳。
対するは己と同等の強者であると認め、自らが持ち合わせている情報を全て更新し、眼前の敵を討ち滅ぼさんと見据える
あまりにも違いすぎる二人だが、今はまだ拮抗の状態を保っていた。それも――もうすぐ終わりを迎える事になる。
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