296・運命の決闘
ファリスの決闘の後が綺麗に修復された決闘場。四回戦目の順番もそろそろ後半。いよいよ私の番が回ってくる。
次の対戦相手は――トーナメント表を見ればすぐにわかる。何度見ても、結果は変わらない。
「いつぶりかしらね」
一度知り合った相手と今度は戦う事になるなんて、世間は狭いのか、これが運命というやつなのか。
もう何度目かになる控え室でのティータイム。今回は少し興奮していた。
なにせ、今回は初めて戦う武器が相手だ。決闘で見かける事はあっても、自分が戦うことになるなんて思ってなかった。
「エールティア様、少し昂っているみたいですね」
「ええ。魔導銃なんてものと戦うなんて、滅多にない事ですもの」
一般人なら、余分な魔力を使う必要がない魔導銃を愛用している人もいるだろうけれど……こんな魔王祭にまで出てくるような人物が使っている事は珍しい。
だからこそ、今回の対戦相手――カイゼルとの戦いは、新鮮な気分を味わう事が出来るかもしれない。
もうじき訪れるであろう未来に想いを馳せていると……出番を告げるかのように、ノックの音が響いて、運営スタッフが入ってきた。
「エールティア選手。時間が来ますので、そろそろお願いします」
「……ええ」
いよいよ時間になった。もう少しお茶を楽しんでいたかったけれど……なんてちょっとだけ名残惜しい気持ちを胸に秘めたまま、ゆっくりと立ち上がる。雪風はいつものように全く動かず、控室から魔導具の画面で会場を見るつもりみたいだ。
「それじゃ、行ってくるわね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
本当に使用人と間違えてしまいそうな程の丁寧な物腰だ。少しはジュールに見習わせてあげた――いや、流石に今の彼女にそれをするのは可哀想か。
雪風の見送りを受けて、控室から会場へと続く通路の方に歩みを進める。
ここまで来ると、会場の熱気が伝わってくる。ファリスによって二連続のジャイアントキリングは成立しなかったけれど、まだ可能性がある。今回戦うカイゼルの方も人気が高いから、必然的に盛り上がるのだろう。まあ、させるつもりは全くないけどね。
『アルフくんが負けるという予想外の事が起こったけれど、果たして今回はどうなるのかな? それじゃ、二人いっぺんに読み上げるね! エールティア選手とカイゼル選手の入場だよ!』
呼ばれて入ってきた私達の姿に、一層興奮したような声が投げかけられる。
そんな中、カイゼルは落ち着いた様子で私の事を見据えている。まるで他の事は気にならないくらいにだ。
「久しぶり……というべきかしらね」
「まさかあの時の女がティリアースの王族だったなんてな。俺の態度、不快だったんじゃないか?」
「ふふ、どうかしらね。そう思っていても改めるつもりはないのでしょう?」
わかってるじゃないか、と言いたげににやりと笑ったカイゼル。予想通りの反応だ。
「当然だ。別に敬意がないとか、そんなんじゃない。元々そんなもんとは無縁だったからな。下手な言葉遣いは言われた方も不愉快になるだろ?」
「……そうね。確かに、貴方の言う通りだわ」
下手な敬語なんて使った日には、恥ずかしい思いをする事は間違いない。もちろん、彼の考えを全面的に肯定する訳じゃない。それでも彼の話し方は無礼だと捉えられるだろうからね。
そんな事にこだわらないのは、私のようにあまり気にしない人くらいなものだ。
「随分と楽しそうだな」
「そう?」
「ああ。まるで、楽しい玩具を見つけた子供みたいな目をしてるぜ」
同じような目をしているくせによく言う。
昔は楽しいものじゃなかった。戦わないと生きていけなかった。これに愉悦を見出すようになったのは、一体いつの日からだろう? もうずっと昔のことだからわからない。
ただ……生まれ変わっても、この
「なら、もっと楽しくしてくださる?」
「……は、火遊びが過ぎると痛い目に遭う事になるぞ」
挑発しても、普通に仕返してくる度胸は流石だ。
より一層笑みが深くなるのがわかる。彼の実力がどれほどのものか……見極めさせてもらおうか。
『二人とも盛り上がってます! 互いに笑顔のまま、熱い火花を散らしてますよ!』
興奮した声でシューリアが力説しているけれど、そんな事よりも早く始まらないだろうか? それかカイゼルが先制攻撃をしてきたら――なんて思っていると、カイゼルの方もふっ、と挑発するように笑っていて、私と似たような事を考えてる事が手に取るようにわかる。
残念だけど、私がフライングするなんて有り得ない。大体、そんなのは私の戦闘スタイルじゃないしね。
『それじゃあガルちゃん、準備はいい?』
『問題ない。それでは、両者全てを尽くして雌雄を決せよ。決闘――開始!』
ガルドラの決闘開始宣言と同時にカイゼルが動き出した。早業で抜かれた魔導銃が私に狙いをつけて、瞬く間に銃弾は連射してきた。
開幕速射とは、中々やってくれる。だけど――
「……ほう」
素早く撃ち込まれた弾丸を
彼の本気はこの程度ではないはずだ。その全てを私に見せてもらおう。そして……最終的に勝利を収めるのは私だ。
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