238・親友の集い(リュネーside)

 エールティアが悩みながら学園に通っている一方、彼女の友人であるリュネー達もまた、様々な考えを巡らせていた。


「ジュールちゃん、どうだった?」


 授業も終わって放課後。リュネー、レイア、ジュール、雪風の四人が集まって、最近出来た喫茶店でお茶を楽しんでいた。

 その中でも話題になっているのは――


「……駄目です。全然効果がありませんでした」

「やっぱり、ティアちゃんは一筋縄じゃいかないよね」


 エールティアの事に関してだった。……もっとも、この四人が集まってする話など、他にはないのだが。

 最近にアルファスで流行っているカーファと呼ばれる黒く苦い飲み物を飲んでいた。リュネーとレイアはそれにたっぷりと花蜜をかけて苦みを打ち消していた。雪風は逆に涼しい顔でそのまま飲んでいて、リュネーはそれを大人っぽいと思っていた。


「大体ティア様は強情なんですよ! しかも思い込んだらその通りに動くし! ぼこぼこにされた上にあんな冷たい扱いを受けたら嫌にもなりますけど……その後のこっちを気にする視線! 寂しそうな目を向けるくらいなら最初からしないで欲しいんですよ!!」


 ぐっと握り拳で力説するジュールに三人はうんうんと頷いていた。


「わかる。わかるよ。何か言いたそうにこっちをちらちら見てるのに、結局何も言わずに一人で落ち込んでるところとか、もどかしいよね」

「どうせ今まで以上に危険だからって巻き込まない為に動いてるんだよね」

「……でも一緒に戦って欲しいという願望も少しだけある。だから一人で勝手に悩んでるんですよね。見ていて楽しいですが、実際自分が遭うと心にクルものがありますね」


 うんうん、とこれもまた満場一致で頷きが起こる。一癖も二癖もあるような人物と友達になっている者同士、通じるものがあるようだ。


「勝手に首を突っ込んで、一人で重荷を背負って……それで苦しんでるんだもの。なんでもかんでも一人で解決できないのに――」

「わかってるって言いながら、また一人で背負いこんじゃうんだよねー。あれはもう性に近いのかも」


 次第に盛り上がっていくのはエールティアの悪口――というよりは彼女の性格に対する言及だった。


「でも……いざという時に助けてくれるおとぎ話の騎士様みたいな節あるよね」

「わかる。私も助けてもらったし……」


 レイアが頬に手を当てていやいやしている姿は可愛らしい。……が、彼女の言っている助けてもらっては迷子の時や、決闘の時の事で、些か異なっていた。一応、暴力兄から抜け出したというエピソードもあるので、本当なのだが。


「私も初めて友達になってくれたし――」

「僕も心を落ち着かせる魔導を使ってくださって、助けていただきました」

「一生懸命名前を考えてくださって、血の契約をしていただきましたしね」


 四人とも、自分の中で一番恰好良いエールティアの姿を思い浮かべて、ほう、とため息を吐いた。傍から見たらまるで恋バナなのだが、対象が同性の時点で周囲は考えから除外するだろう。一部は本気で恋をしていることなんて知る由もない。


「……一人でなんでも背負い込み過ぎるんだよね。ジュールちゃんがちょっと素っ気ない態度取り続けてるだけで、沼にハマるように自己嫌悪に陥ってるのに、相談しようともしないんだもの」

「やっぱり、戦争をするから……なんだろうね」


 噂がバラまかれる前。雪風から情報を得ていた彼女達は、深いため息を吐いていた。

 別に彼女達は歴戦の勇士とも呼べるティリアースの兵士達に喧嘩を売る気なんて露ほども起きないし、まず勝てる者が少ない。


 その上、決闘には身の安全は一切保証されておらず、最悪、慰み者になる可能性だってある。それがわかっているからこそ、エールティアが自分達の事を拒絶しているという事を。


「どんな事になるかなんてわからないけど……それはティアちゃんも同じ。それなら……放っておける訳、ないのにね」

「だけど、直接言ってもジュールちゃんみたいに反発を喰らうだけだしね」

「……レイアちゃんだって、痛い目に遭ったじゃないですか」


 ジュールはぶすくれたような声でレイアの言葉に抗議した。

 直接エールティアと戦いを挑み、見事玉砕した二人だからこそ叩ける軽口ではあるだろう。


「あはは。……だったら、予定通りでいいよね?」

「ですね。僕もなるべく情報はこちらに流しますので、三人は出来る限り準備をしておいてください」

「うん、わかった。……ティアちゃんが驚く顔が楽しみだね」

「それくらいさせてください。私もみんなも……ティア様に振り回されているのですから」


 ジュールが悪者っぽい含み笑みを浮かべて、それに釣られるように三人とも似たような笑みを浮かべた。


「さ、それじゃあ英気を養う為に、何か食べよっか」

「……うん、そうだね! 何が良いかな?」

「このパルフェというのが美味しそうですね」


 方針が決まったことで、全員が喫茶店のメニュー表を見ながら考え始める。三人がわいわいと決めている間に、雪風は真剣に何にするか考え込んでいた。


 エールティアが一人で空回りしながら悩んでいる間に、四人は親睦を深め、絆をより強固にしていった。

 決闘の日。そこで何かを起こす為に、連携を密にしながら――

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