170・別れは再会の約束①
ちょうど私達と向かい合うような形で座ったアルフとベルン。彼らはそれぞれの個性が現れるような朝食を採っていた。
アルフはバランスの良さそうな内容で、ベルンはミルクと魚を使ったサンドイッチに茹で卵といった簡単なものだ。
「それで、いつ頃発つのにゃー?」
「朝食が終わったら、学園長に挨拶して……それでワイバーン発着場に行くって聞いてます」
「そっか……寂しくなるにゃー」
リュネーとベルンはどこかしんみりとした表情をする。兄妹で仲も良いから、離れるのが寂しいのだろう。それでも最初から納得しているからか、それ以上のことは言わなかった。
「エールティア殿下」
「……だから、そういうのはいいって言ってるでしょう?」
「貴女は聖黒族の姫君なのだから、仕方ないさ。本当なら僕は黒竜人族として、最大限の礼儀を尽くそうと思ってるんだよ? それくらいは許して欲しいかな」
「……はあ、なら好きにしなさい」
今までもそんなに言わなかったから、これ以上言う気はなかった。あんまり否定すると、レイアが余計な助け舟を出してきそうな気がしたからというのもある。
「本当なら、すぐにでも貴女に僕の国に遊びに来て欲しいけれど……流石にそれは心苦しいから、来年、来てくれないかな?」
ちょっと照れるように笑うアルフの姿は、初めて家に誘ってくれた男の子の事を思い出した。まだ本当に幼い頃の話だったけど、なんとなく印象に残ってる。今は漁師として勉強中で、偶に港で見かけるけれど、昔のようには話さなくなったなぁ……。
「それは構わないけれど……来年はまだわからないから、行けるようになったら手紙を送る形でもいい?」
「それでいいよ。もし、僕が役に立てることがあったらでもいいよ! 君はベルンの命の恩人で、僕が仕えると決めた聖黒族の姫君だからね!」
「ちょ、ちょっと! そういう事、勝手に決めないでよ!」
私が一言文句を言ってやろかなと思って口を開きかけた時、レイアが代わりに言ってくれた。
「君の許可がいるのかな? ただ付き添ってるだけの身分で、あまり僕に指図しないで欲しいな」
「な、なんですって……!」
「はい、抑えて」
「アルフも、あまり挑発するのはやめるのにゃー。せっかくの気持ち良くお別れしようっていうのに、台無しになるのにゃー」
レイアとアルフが喧嘩になりそうなのを私とベルンがすぐさま割り込んで止めた。
というか、ベルンはさっきまでリュネーと話してたはずなのに、よくこっちの事に気が付いたなと感心する。
二人の仲があまり良くないのを知っていたから、こっちの方も様子を見ていたのかもね。
「だけど――」
「アルフが言いたい気持ちも分かるけど、それを抑えないで爆発させるのは違うのにゃー」
「……わかったよ」
「レイアも、落ち着きなさい。アルフが言った事に怒る気持ちはわかるから……ね?」
「……ティアちゃんが言うなら、私は別にいいけど」
ベルンがアルフを諭している間に、私もレイアを宥める。息のあった連携でもしているような気分になる。
二人とも、今がどういう時間かちゃんとわかってるから、互いに突き出した矛を引っ込めてくれた。
「……エールティア殿下、申し訳ない。話を逸らしてしまって」
「本当にその通りね」
これが最初なら、笑って許すこともしたけれど……こう何度も同じ事をされると疲れを覚える。
他のみんなと……リュネーやウォルカとも話す姿を見たことがあるけれど、その時はここまで挑発的じゃなかった。
同じ黒竜人族だからなのかは知らないけれど、あまりレイアと喧嘩しないでほしい。
「レイア」
「……なに?」
流石に懲りたのか、アルフはかなり真剣そうな表情でレイアの事を見ていた。先程の雰囲気とは一変したせいか、レイアの方も真面目な表情で彼を見ている。
「僕は君の境遇を知っている。不幸があったことも、どんな生活を送ってきたかも」
「……それなのに、私の事を挑発するのね」
「はっきり言って、僕は君が嫌いだ。同情はするけれど、それが彼女の隣にいていい理由にはならない。僕達黒竜人族は真に認めた者の為なら、全力でその身を捧げる。それが始祖フレイアールの教えだからだ」
強く睨むアルフの視線に
「だから……来年。君も魔王祭に出てくるんだ。僕が君を見定める」
「それで駄目だったら?」
「エールティア殿下の側にいるに相応しくない姿を見せれば、黒竜人族全員が君の敵に回るだろう。僕達は聖黒族の方々の為にならない者を許しはしない。それが例え、同族であっても……!」
その発言に慌てたのはベルンだった。
「ちょ、ちょっと待ってにゃー。それじゃ、さっきの挑発と変わってないにゃー!」
「……僕の個人的な感情も入ってるけれど、これはドラゴレフ帝国のレアルーブ皇帝が決めたことだよ。挑発とかじゃなくて、決定事項なんだよ」
「そ、そんにゃー……」
これには私も驚いた。まさかここで皇帝の名前が出てくるなんて思いもしなかったからだ。
どうやら、色々と私が知らないところで事態は進んでいるようだ。それも……かなり悪い方向に。
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