168・水を差された優勝

 ライニーとの戦いが終わった後に待っていたのは、彼女が決勝を辞退したことによるアルフの優勝という結果だった。準優勝者もいない何とも寂しい表彰式だった上に、肝心の優勝者はどこか不満そうだというおまけつき。式が終わった後も、観客から文句や同情の声が上がってはきたけれど、私を批判する声はほとんどなかった。


 そもそも私は個人的にライニーと戦っただけな上、魔王祭への参加条件を満たしていない。その事実と、ガルドラの言葉のおかげだ。


『此度の魔王祭。それぞれ思うところが残る結果に終わってしまったこと。まことに残念に思う。しかし、エールティア・リシュファスは自らの武を示した。ならば、このガルドラ・カイゼルードが約束しよう。来年の魔王祭は更なる盛り上がりを見せる! より強き者が交じり合い、限界を超えた決闘の華を咲かせる事になる。その時こそ、アルフ・ジェンドや此度集った者達が真に納得の得られる結果となるだろう! 今はこの魔王祭を戦い抜いた者に祝福を!!』


 表彰式で優勝トロフィーを手渡したガルドラが締めに放った言葉がそれだった。そのおかげで最後は大声援の中で終わる事が出来たと言えるだろう。


 これで次の魔王祭では、私も相応の力を見せて戦わないといけなくなったんだけれど……それはもう、今更というものだろう。


「なんだか、終わってみると呆気なかったな」


 ただ、中には不満を残している者もいるみたいで……最終戦を期待していたフォルスもその一人だった。

 表彰式も終わって、闘技場から寮へと変える最中、心残りがあるような顔でそんなことを呟いていた。


「仕方ないでしょ? ライニーちゃんがいなくなっちゃったんだから」

「それに、あれだけ痛めつけられた彼女と戦って、虚しいだけなんじゃないかな?」


 ウォルカの言う事ももっともだ。私に勝ったならともかく、私に負けたライニーと戦って勝利したって、なんの意味もない。余計に不満が溜まるだけだろう。

 そうなるくらいなら、この結末の方がよっぽどマシなはずだ。


「でもこれでお祭りも終わりって思うと……ちょっと寂しくなるね」

「わかります。もう少しこのままでいて欲しい……。そういう気持ちが湧き上がってくるのは、まだ楽しみ足りないからでしょう。僕も同じ気持ちです」


 闘技場の方向に見つめていたレイアに同調するように、雪風がしみじみとした表情で頷いていた。

 他のみんなも、同調するように振り返って闘技場を見ている。多分、思っている事は違うんだろうけど、その気持ちだけは一緒なんだと思う。


「感傷に浸るのはいいが、帰るまでがお前達の魔王祭だという事を忘れるなよ」


 みんなの気持ちが一つになりかけていたところに水を差したのは、空気を読めない大人――ベルーザ先生だった。


「先生……そんな帰るまでが遠足みたいなこと言われても……」

「僕はお前達を送り届ける責任があるからな」


 もっともらしい事を言ってるけれど、それを今口にして欲しくなかった。

 そういう思いがみんなを一つにしているけれど、ベルーザ先生は全く意に返さないようだった。


 ため息交じりに闘技場の方を見ると、そこには色んな人達に混じって魔王祭で戦っていた子達が、最後の祭りの露店を楽しんでいた。そこにはアルフやベルン、雪雨ゆきさめの姿もあって、初戦で敗退していたアイシアやサザリン達と一緒に楽しんでいた。


「……羨ましい?」

「え?」


 いきなりの言葉に驚いて視線を向けると、リュネーがにやにやと少しからかうような笑みを浮かべていた。


「そうね。ああやって、戦った人達で……みんなで仲良く楽しめるっていいものだなって。だからちょっと……羨ましいかな」

「ハクロ先輩とは、最後には分かり合えたのでは?」

「うーん。それとはちょっと違うのよねぇ……」


 あの時の決闘も見ていたのか、雪風は不思議そうな顔をしていた。


「ハクロ先輩とはただ誤解が解けただけで、ああいう感じじゃなかったかな」

「ティアちゃんはもっとみんなと仲良くしたいのよ。ね?」

「別に、そういう訳じゃ……」

「照れてる照れてる」


 少しだけ図星を突かれて、慌てて否定してしまう。それが更に真実味を帯びたのか、リュネーは嬉しそうに纏わりついてきた。

 その姿からは、とても初めて会った時のような人見知りしていた少女の姿じゃなくて、構って欲しい猫みたいな感じになっていた。


「それじゃあ、私達とももっと仲よくしよう?」

「レイアの気持ちは嬉しいけれど、私達、十分に仲が良いと思うんだけど」


 レイアも負けじと私の近くに寄ってくるけど、これ以上仲良くなる事なんてないだろう。

 多分、私が羨ましがっているように見えたから、不満だったのかも。


 別に、彼らが羨ましいわけじゃない。ただちょっとだけ、眩しかっただけだ……なんて心の中で言い訳しておこう。あまり騒いだら、かえってムキになってると言われるだけだからね。


 向こうで騒いでいるアルフ達を背に、私はみんなと学園に戻る。彼らの輝きを見つめるんじゃなくて、私が持ってる輝きを確かめる為に。


 私が得てきたものだって、あそこで騒いでいる彼らと同じくらいの光を持っているって信じてるから。

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