114・反対する父親

 お父様に連れられて戻ってきた私は、お母様に思い切り抱きしめられて、ジュールにはかなり謝られてしまった。


 二人に心配をかけたことを謝ると、許してはくれたけれど、その日はかなり過保護に扱われる事になってしまった。


 私が少しでも迷惑そうな表情をすると、悲しい顔をするのだから、本当に困り物だ。結局、その日は諦めて、全てを二人に委ねることになった。それで気持ちが落ち着くのなら……今回は私が悪いのだから仕方がないと割り切れるくらいに観念していた、という部分もあるけどね。


 ――


 次の日の夜。私は結局、お父様に中央都市リティアに行くことを伝え忘れたのを思い出して、執務室の方に訪れていた。扉をノックして、『入れ』の言葉が聞こえてからゆっくりと扉を開く。

 そこにはちょうどひと段落付いたのか、深紅茶を飲んでいる最中だった。


「エールティアか。どうした?」

「はい。次の休学日にジュールと共にリティアに向かおうと思うのですが……」


 素直にどこに行くか言うと、お父様は苦い表情を浮かべていた。まるでそこには嫌な物があるかのような感じだ。


「何をしに行くんだ?」

「私もジュールも、リティアを見たことがありません。他国からは王都と呼ばれる中央都市を、一度見てみたいと思いまして」

「ふむ……」


 お父様の表情が優れる事がない。むしろ渋そうな表情をしていて、悪化しているような気さえする程だ。

 それから私は、魔王祭の話をすることにした。ジュールと一緒に行く事にした理由もそこにあったからね。お父様は「あれのせいか……」と呟いていて、学園主催で魔王祭を見学しに行く事は知っているようだった。多分、お父様も関わっているんだと思う。


「……エールティア。出来る事ならば私も一緒に行ってやりたいのだが……今はこの町を離れる訳にはいかない。向こうにはお前の事を良く思わない者いるだろう。それでも行くのだな?」

「はい。……お父様は、私が行くのに反対なのですか?」


 普段はそういう事を言わない方なのに、私がリティアに行く事に対しては過敏に渋っているようにしか見えなくて、聞いてしまった。


「本音を言うとな。しかし、それでも行くというのならば……くれぐれも向こうでは問題を起こさないようにしなさい。あそこで何かあっても、私は庇う事が出来ない。余計な騒動には絶対に巻き込まれない事。約束出来るな?」

「それは……」


 多分、虐げられている者を見たら助けに入るだろう。自分の性格を良く分かっているからこそ、『はい』と頷くことが出来なかった。

 偽善的な行為だけれど……どうにも昔の私にダブってしまうから、自然と身体が動いてしまう。それが必ずしも正しい事ではないとわかってはいるんだけどね。


「約束出来ないなら、他の町にしなさい。他国の王都であれば、ガルアルムの王都ウルフォルも見所があるだろう。あそこの国のシグルンド王とはそれなりに親しい仲だ。多少の便宜は図ってくれるだろう」


 ウルフォルか……。

 確かに、あそこにはまだ行った事がなかった。だけど、ジュールはリティアに行く事を楽しみにしていたし……どうすればいいだろう?

 リティアに行くつもりなら、間違いなく護衛兼監視役の兵士を連れていく事になるだろう。


 護衛としてはジュールだけでも十分だろうから、監視の意味合いの方が強いだろうけれどね。



 逆にウルフォルに行くなら、監視役は必要ない。ワイバーン便を使えば、早朝から出るなら昼前にはついているだろう。今度の休学日が二日続く事も考えると、決して悪くはない提案だ。


 なんでお父様が私がリティアに行く事を嫌がっているのかわからないけれど……それを聞くつもりはなかった。

 私の事を大切に思ってくれている事実があれば、それだけで十分だった。


「……わかりました。一度ジュールとも話をしてから決めてよろしいですか?」

「勿論だ。最終的に、お前の決定を尊重しよう。よく考えて、答えを出すといい」

「はい。ありがとうございました」


 これ以上話しても、あまり意味はないだろう。

 お父様の執務室から部屋に出た私を待ち構えるように誰かが立っているのを見つけた。


「ジュール?」

「エールティア様」


 そこに立っていたのはジュールだった。ちょうど、窓から外を見るような形だけれど……何をしていたんだろう?


「こんなところでどうしたの?」

「いえ、ラディン様には迷惑をお掛けしましたので、謝罪とお礼をもう一度伝えようと思いまして……」


 なるほど。私とお父様が話しているのがわかって遠慮していたというわけか。


「ジュール、あまり思い悩まないようにしなさい。貴女の気持ちは嬉しいけれど、いつまでもそこに留まって欲しくない。少しでも前に進んで欲しいの」

「エールティア様……」


 なんでかジュールは感激したような表情を浮かべていたけれど、一々心な響くようなものでもないだろうに。


「今ならお父様も一人だから、ゆっくりお話ししてきなさい。それで前に進めるように、ね」

「はい!」


 前の時のように、いつまでも元気がない状態になるのは彼女らしくない。別にジュールが悪い訳じゃないのだから、早く元気になって欲しいものだ。

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