101・策謀のお時間(ベルンside)

 エールティアが暗殺者を倒し、警備隊に引き渡したその日の夜。ベルンは自分の実家である館に戻ってきていた。


「お帰りなさいませにゃ。ベルン様」

「今戻ったにゃ。招集をかけた者達は来ているかにゃー?」

「はいですにゃ。皆様、全員お待ちしておりますにゃ」


 執事の猫人族が出迎え、丁寧に頭を下げて告げたその言葉に、満足そうに頷いたベルンは、その足で集まっているであろう応接室へと足を運んでいく。


「ベルン様、着替えはどうされますかにゃ?」

「構わないにゃ。今は少々事を急ぐからにゃー」


 足早に向かって行ったベルンが応接室に入ると、そこには様々な毛並みの猫人族がずらっと並んでいた。今から会議でも始まるかのような雰囲気を醸し出しているその場に、ベルンは躊躇なく歩み寄り、全ての猫人族が一目で見渡せるような位置に腰を下ろした。


「まずは皆様、集まってもらってどうもありがとうですにゃー」


 ベルンが深々と頭を下げると、それを見た猫人族の集団は、次々と声を上げる。


「ベルン殿下。頭を下げられなくてもよろしいですにゃ」

「我々は貴方様の為であれば、すぐに行動に移しますみゃあ」


 口々に話しかける彼らは、全て【混血派】と呼ばれている貴族の猫人族達だった。ベルンは自分が戻った夏休みの期間に館に集まれるように、今まで一生懸命調整していたのだ。

 その甲斐もあり、ここに【純血派】を打倒すべく集まったという訳だ。


「さて、最初に【純血派】への対処について検討しようと思っていたのだけれど……少々事態が変わってしまったにゃー」


 ざわざわと騒いでいる猫人族達の反応は様々だった。ある者は既に情報を掴み、力強く微笑みながら。

 またある者は、ここに来たばかりで何も知らず、困惑気味に。


「知っている者もいるだろうけれど、先日、ボクの妹達が暗殺されかけたにゃー」


 再び騒ぎ出した貴族達を制するように片手を上げたベルンは、一斉に沈黙した彼らをぐるりと見まわして頷く。


「目的は恐らく、エールティア殿下だと思うにゃー。彼女は『トラブルメーカー』と言われているにゃー。【純血派】は彼女を殺すように陰で指示を出し、失敗したとしても彼女に罪を着せようとしていたに違いないにゃー」

「随分詳しく知っておりますみゃあ?」

「ボクのところには、優秀な隠密がいるからにゃー」


 ベルンの配下には、情報収集に長けた者がいた。今回の情報は【純血派】の中に潜り込んだその隠密のおかげだった。ちなみに――隠密という呼び方自体は雪桜花から伝わってきており、サウエス地方独特の言い回しである。


「なるほどですにゃん。となると、ベルン殿下の次の一手は……攻め、ですかにゃん?」

「そうだにゃー。必要な物は大方抑えてあるし……【純血派】が焦りすぎたおかげで、罠にも引っかかってくれたにゃー」

(まあ、こんな保険のおまけみたいなのに掛かった時は、呆れて物も言えなかったけどにゃー)


 ベルンは別の隠密を暗殺組織の中に潜り込ませていた。こちらは潜入を得意とする隠密で、今もなお、暗殺者達に気付かれずに内部に留まっている。【純血派】共が暗殺と言う方法を用いるとするならば、この界隈で有名な組織に向かうのは間違いないと踏んだ結果だった。


「さっすがベルン殿下ですにゃあ! では、我々は彼奴らの動向を探り、一人残らず捕らえてみせますにゃあ!」

「頼りにしているにゃー。今回の件で【純血派】を一掃し、ボク達【混血派】の明日を掴み取るのにゃー。王族であるボク達を断罪しようとする彼らを、決して許してはならないのにゃー!」


 ベルンが力強く立ち上がって演説を始めると、ここに集っている【混血派】一同は一斉に拍手をして、それぞれが立ち上がる。


「我ら猫人族の未来を決める戦い! このシャーニ・アルットロン、必ず己の役割を果たしてみせますみゃあ!」


 中でも今回の件に一番関心を寄せ、ベルンの手足となって働いているシャーニ・アルットロン准男爵は、ベルンに呼応するように力強く拳を握り締めていた。彼はシルケット以外では貴族として扱われない事に思うところがあるのか、ベルンの下で働き、より多くの成果を上げる事を目的としていた。


「頼りにしているにゃー。アルットロン卿」

「ベルン殿下。我らもアルットロン卿に負けぬ忠誠を貴方に捧げておりますみゃあ。どうぞ、その日が来たならば、手として足として使ってくださいみゃあ」

「その時が来たら頼りにさせてもらうにゃー。エルドル卿、ルセッス卿」


 シャーニに負けるつもりはない。そう訴えるかのように片膝を付いてこうべを垂れるエルドル伯爵とルセッス伯爵。それを満足げに見下ろしいたベルンは、他の貴族達に目を向け、彼らがひざまずいている姿を満足そうに眺めている。


「諸君、ボク達が動く日は近いにゃー。その時まで、入念な準備を忘れないよう、頼むにゃー」

「「「「はっ!!」」」


 一斉に答える貴族達を見下ろして、ベルンの脳内は、既に次に起こる事態を予想していた。


(これで泳がせている貴族共も動いてくれるはずだにゃー。彼らにはせいぜい【純血派】の掃討の為、利用させてもらうとするかにゃー)


 自らの妹達。自分を大切に思ってくれる者達の為に。民と国の為に。優しさと慈しみを殺し、非情になれる覚悟。ベルンはそれを既に持ち合わせていた。


 それが猫人族が【覚醒】した種族――英猫族の彼の役目だった。

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