99・襲ってくる者達

 私と手を離すことになって悲しい顔をしていたニンシャは、それでもリュネーと一緒に繋いでる事が嬉しいのか、ご機嫌を取り戻していた。


「シルケットって、猫人族ばっかりだと思ってたんだけど……結構色んな人種がいるのね」


 見渡す限りの猫人族! っていうのが私の思い描いていた光景なんだけど、魔人族やリザードマン族なんてのもいる。アルファスでも他種族の人を沢山見てきたけれど、シルケットの王都であるシェイシルも負けず劣らずだ。

 猫人族が圧倒的に多いのだけは、私の想像通りだったけどね。


「昔……初代魔王様の時代では、ティリアースは魔人族の国。シルケットは猫人族の国だったらしいにゃ。でも今は――」

「ワイバーンも昔に比べたら家畜化が進んでいるし、地上ではラントルオの研究がより進んで、以前ほど食費で金銭面を圧迫することはなくなったものね」


 ドワーフ族がエルフ族と組んで魔力で動く機械仕掛けの乗り物を作り出そうとしている今の時代。昔以上に他の国を見て行こうとする人達も増えてきているという訳だ。観光客や商売人が色んな国にいて当たり前なんだろう。


「猫人族にとっては当たり前の光景も、他の種族にとっては珍しいっていうのもあるのかもにゃ」

「確かに……」


 リュネーに言われて改めて今視線に入るものを見てみると、普通にまたたび料理専門店があったり、路上で小さな舞台が作られていて、そこで猫人族がにゃーにゃー歌っていたりする光景があった。

 確かに、こんなのはシルケットじゃないと見る事が出来ない光景だろう。


「ねえ、おねーさま。わたし、あれが食べたいみゃ」


 真面目な話をぶった切るかのように、ニンシャがリュネーの服の袖をくいくいっと引っ張って、一つの屋台を指さしてきた。あれは……フランクフルトをパンでくるんだやつだ。


 ソーセージパンかな? って思ってたけど『フルトパン専門屋台』って看板が目に入った。少し違うものなのかもしれない。


 でかでかと書かれた文字の次に香ばしい匂いが鼻を襲ってくる。お昼時の今に直撃してくる匂いにやられたのか、ニンシャが鼻をひくひくさせて、物欲しげに凝視している。


 リュネーが私『どうしよう?』と聞きたげな視線を向けてくるから、頷いてニンシャの思い通りにさせてあげる事にした。


「それじゃあ、今日のお昼はあれにしましょうか」

「……! 本当に、良いのですかみゃ?」


 ばっと駆け出しかけて、慌てて足を止めたニンシャは、上目遣いで私を見て、お伺いを立ててきた。私が主役なんだと思っているのだろう。それでもそわそわとしている仕草や表情が隠しきれてないのは、なんとも可愛らしい。


「ええ。私もああいうのは初めて食べるからね。リュネーもそれでいい?」

「はいにゃ。偶にはこういうのも悪くないにゃ」


 リュネーの賛成も得て、ニンシャは満面の笑みを浮かべて屋台に駆け出して行った。最初は王族であるニンシャに、こんな屋台の料理を買い与えてもいいのだろうか? と疑問もあったけれど、リュネーが普通にしているところを見る限り、シルケットでもこれは普通の行為なんだろう。

 私も幼い頃、アルファスの町の人に色々貰っていたしね。


 たたたっとニンシャがフルトパンの屋台に近づいて行くと、ふらっとリザードマン族の大人がニンシャに向かっているのが見えた。普通の人から見たら、同じようにフルトパンを買おうとしてる人にしか見えないんだけど……身のこなしが違う。


 上手く人に溶け込んでいるように見えるけれど、私は誤魔化されない。


「リュネー、あの男……」

「どうしたのにゃ?」


 やっぱり、リュネーにも問題がないように見えているようだ。ここは、私がなんとかするしかないか。


 リザードマン族がニンシャの近くに行く前に、大急ぎで駆け寄って行く。邪魔になる人混みを最小限の動きでかわしながら、男がニンシャの肩をつかもうとする前に、私がその男の手首を掴んでやった。


「……これはこれは、お嬢さん。どうしたんですか? 用がないのでしたら、離していただけませんかね?」

「貴方こそ、ニンシャに近付かないでもらえないかしら」


 私とリザードマン族の男は、睨み合うように目線を合わせる。ニンシャはおろおろとしているけれど、慌ててやってきたリュネーと一緒に後ろに下がった。


「やれやれ、そちらのお嬢さんが転ばないように引き留めようと思っただけなのですが、変な誤解を抱かせてしまいましたね」


 ため息を一つ溢して、リザードマン族の男は力を抜いて私を咎めるような視線を向ける。周囲で野次馬してる人達も、私が絡んだから今の状況が起こっている事を理解したのか、非難がましい視線を浴びせてきて、迷惑極まりない。


「へえ、こんな場所で息を潜めて、そんな軽い身のこなしで近づく言い訳にしては、物足りないんじゃない? なんなら……貴方の心に聞いてあげましょうか?」

「ははは、面白いお嬢さんですね。どうぞ、私の心にでも何でも、聞いてみてください。ただし……出来たら、ですが」


 リザードマン族の男の言葉が終わったと同時に、野次馬で死角になっていた場所から、魔人族の男が一人飛び出してきた。

 その手にはナイフが握られていて、真っ直ぐ、私の心臓目掛けて突き立てようとしていた――

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