35・一味違う決闘
ハクロ先輩と決闘することになってからの事は、本当にスムーズに進んでいった。次の日には既に決闘申請書がベルーザ先生の元に届いてた。
「……一時大人しくしていたかと思ったら――」
なんて言いながら頭を押さえて私と申請書を交互に見て悩んでるのが若いくらい深いため息をついてた。
「わ、私も一応努力はしたんですよ」
「上級生が吹っ掛けてきた喧嘩を進んで買ったと聞いてるが?」
「……それは誰から?」
「特待生クラスの奴らからだな」
それを聞いて、今度は私が頭を抱える事になった。普通、クラスメイトだったらもう少し気を利かせる者だと思うんだけど……。
「……はあ。ほら、これが君宛の決闘申請書だ」
もう言葉にできないって感じで呆れた表情で私の事を見てたベルーザ先生は、またため息吐いて、申請書を渡してくれた。ちょっとだけ言いたいことがあるんだけど……それをぐっと飲みこんで、私は目当ての物に目を通した。
――
『決闘申請書』
内容:一対一による結界具を用いた魔導戦。
勝利条件:対戦者が降参する。もしくは結界具の全破壊。
場所:リーティファ学園にある訓練場。
ルール:対戦者は魔導以外のあらゆる攻撃を禁じ、他者への介入を禁ずる。
――
「結界具?」
聞いた事のない道具のようだけど……文面から察すると、魔導を防ぐ事に関係した物なんだろう。
「ああ。昔の決闘で戦いってのは命の奪い合いに発展する事が多かった。特に魔導での戦闘は派手になりがちで死にやすい。そこでドワーフ族によって作られたのが結界具というお守りみたいな物だ」
「それで魔導を防げるんですか?」
「例え見るからに死にそうな魔導でも必ず一回防ぐ事が出来る。近年開発された画期的な道具だ。但し、決闘委員会にしか保管されていない道具を使わなければならないけどな」
一瞬『なんで?』って疑問が頭の中に湧いてきたけど、それはすぐにわかった。そんな便利な物が戦争に流用されない訳がない。初代魔王様が平定したって言っても、それはずっと昔の話。今では小国の小競り合いが続いてたりするしね。
「察したようだが、戦争に使われない為に、だ。決闘を行う時のみ決闘官に貸し出されて、他の事以外で使用することを一切禁じている。使った場合、全ての財産を奪われて処刑される。それに組した国にも多額の罰金の支払いが課せられるから、進んでやりたがる者はまずいないな」
それ以外にも緊急停止機能があるとか、効果範囲があるとか……そんな説明を適当に聞き流しながら書類の方にサインした。勝利した方に与えられる権利は、私は『敗者に一つ。生死に関わるもの以外の命令をすることが出来る』となっているけど、ハクロ先輩の方は『敗者を特待生クラスから追い出し、以降の接触を禁止できる』になってた。これは多分、平民と貴族の差って事なんだろう。
学園では対等な立場でも、その外の出来事である決闘には当てはまらない。私とハクロ先輩が戦うなら、勝者が得られる権利にこれくらい差がないといけないって事だろうね。
それにしても、なんとも便利な世の中になったものだと思う。魔導とはいえ、何でも一度防ぐ事が出来るなんて道具があるんだから。最悪、少しやりすぎても何とかなるって事だもの。
ちょっと気持ちが軽くなるのを感じながら、さらさらっといつものように名前を書いてベルーザ先生に渡そうとした……のだけど、彼はまだ話をしてる最中だった。
「先生、はい」
「……ん、わかった。確かに受け取ったぞ」
話に割り込んだことに不満そうな視線を向けてきたけど、私が申請書を差し出してるのを見つけると、忘れてたとでも言ってるみたいな声を上げて受け取ってくれた。
「しかし、今度はハクロとか……特待生の中でも抜きんでた実力を持っている。そんなのとよく戦う気になったな」
「女には、退けない戦いがあるって事ですよ」
「それは女じゃなくて男なんじゃないか……?」
呆れたような声が聞こえてきたけど知ったことではない。男でも女でも、退けない時があるのは当たり前なんだもの。
「どっちでもいいじゃないですか」
「……そうだな。まあ、頑張ってくれ」
まさかベルーザ先生からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。
「君も僕の生徒だからね。これくらい当然だろう?」
私が驚いた表情をしていたのがおかしかったのか、ベルーザ先生はにやりと笑って満足そうに職員室に戻っていった。なんていうか……こそばゆい気持ちになるから、そういうのを不意打ちで言うのはやめて欲しかった……かな。
――
ベルーザ先生に決闘申請書を渡して三日で決闘委員会から返答が届いて……五日後に勝負を行うことになった。その頃には屋台が出来てて、賭けの方も今まで以上に盛り上がるだろう。決闘に必要な結界具の方は決闘委員会が用意してくれるから、後はただ、その日が来るのを待つだけかな。
別に心の準備をするって柄でもないし……私は自分自身の力を信じている。自惚れとか、過信とかじゃなくて、ね。
だって、そうやって生きてきたんだから。それだけ世界が変わっても、私の根幹が変わることはない。
今までの私を支えてくれた全てが、私の自信に繋がってるのだから。
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