24・卑怯者への鉄槌 前
前回と同じように自分の名前と、決闘委員会から送られてきた決闘官の紹介を終えて、彼は先にクリム先輩の事を呼んでいた。
『右のゲートから入場するのは、二年生でもかなりの実力を持っていると噂の生徒。黒竜人族のクリム・アレフ!!』
司会の大きな声のおかげか、観客の方も大きな声援で盛り上がってた。それだけでも彼の任期はうかがい知れるだろうけど……。
『そして対抗するように左ゲート! 上級生を打ち破った期待の新人! エールティア・リシュファスの入場だーー!!』
司会の迫力すら感じさせる大きな声に合わせるように、私もゆっくりと訓練場の中に入って、にこやかに微笑みながら観客の人達とあいさつをするように手を振る。
さっきと違った歓声に混じって野次みたいなのを飛ばしてくる者もいるけれど、そこは気にしない。
「よく逃げずにやってきたな」
「そちらこそ、よくここに来ることが出来たわね」
「……あの馬鹿がお前のところについたって事か。大方俺が毒で動けなくなる事を期待してたみたいだが、残念だったな。解毒薬ぐらい用意してて当然だろう?」
何を勘違いしたのか、検討外れの事を喋って堂々としてるクリム先輩には、呆れて物も言えない。
「姑息な真似をしようとした上、失敗した恥知らずが、よくもまあ決闘に出てこれたわね……って言いたいのよ」
「なに……?」
挑発混じりの笑みを浮かべてたクリム先輩は、怒りに満ちた目で私を睨んでいた。それでも、顔は笑顔のままだから、周囲の人達には気付かれにくいみたいだけど。
『さあ、両者が良い感じに睨み合ってますね! アルデさん、それではよろしくお願いします!』
『はい、それでは決闘を始めてください』
『相変わらず淡白な始まりの合図ですが、決闘開始です!』
前回と同じようにあっさりとした始まりの合図と同時にクリム先輩は剣を抜いて私に迫ってきた。その動きはルドゥリアとは比べ物にならないほど速くて、放つ一撃はなによりも鋭い。
「な……っ!?」
自信のあった一撃だったんだろうね。だけど、私からしたらまだ遅い。一応ギリギリ避けたようには見せたけど、彼はまさか避けられるとは思ってなかったみたいだ。
「どうしたの? まさか、この程度?」
「ちっ……偶然躱したくらいでいい気になりやがって……!!」
表の顔を崩したくないのか、私に聞こえる程度の小声で忌々しそうに吐き捨ててきた。
続け様に一撃、二撃。鋭い斬撃が私の命を脅かそうとするけれど、そのどれもが虚しく空振り、クリム先輩は楽しい踊りを見せつけてくれた。
『おおっと? どうしたクリム! エールティアに避けられ続けているぞ! これはルドゥリアの二の舞かぁ!?』
「ふざけやがって……! 『フレイムインパクト』!」
司会の言葉に舌打ちしながら魔導を発動させて、拳に炎を纏わせて、何も無い空に突き出してきた。それと同時に炎の衝撃波が私に襲い掛かってきた。
「その程度の魔導で……!」
満足にイメージも魔力も練り込まれていない稚拙な魔導。いや、魔法よりもまだ酷い。私が彼くらいの時なんて、こんな子供遊びはとうに卒業してた。
だからこそ、あえて直撃させる。その一撃は、身体中を駆け巡ってる魔力のおかげで軽く押された程度の感覚しかなかった。炎はまるで、ほんのり温かいお湯のよう。
「ははは! 悪いね。これも決闘だからさ!」
私からすれば、大したダメージを受けてないんだけど、他の人から見たら致命的な一撃に見えたみたいで……クリム先輩は勝ち誇った笑いを浮かべていた。
確かにルドゥリアよりはずっと強い。彼が五十人いても勝てないだろうなって思わせる程度の実力はある。だけど……こんなもの、凡人が努力してやっとみたいな程度。
――本当の
炎が私を覆ってる内に周囲を見回してみると、私が通ってきた場所で、ある程度傷が癒えたレイアがリュネーの肩を借りてるのが見えた。
驚いた表情で心配したような、絶望したような顔をしてるけれど、安心して欲しい。
「レイア! リュネー!」
まさか炎の中から私が声を掛けてくるとは思ってなかったのか、きょとんとした表情で周囲をきょろきょろ見回してた。
そのまま炎を振り払わずにゆっくりと歩いて出てきた私の姿に驚いたのか、二人以外にも周りの観客やクリム先輩も唖然とした表情で私に注目していた。
「そんな不安そうな顔しないで、安心して見てなさい。こんな下卑た男に負ける私じゃないんだから」
軽くウィンクをして二人を安心させるようにおどけて、改めてクリム先輩の方を向くと……顔を真っ赤にしてるのが見える。
……本当は、クリム先輩ともギリギリの戦いをするつもりだった。そうすれば、目立ち方も最低限に抑えられると思ったからね。だけど、レイアの行動で気が変わった。少し……ほんの少しだけ力を見せてあげよう。
「なんで……無傷で……!!」
「炎耐性の魔導が間に合ってよかったわ。危うく、焼け死ぬところだったもの」
くすくすと挑発するように笑った私は、そろそろ攻勢に出る事にした。切り札的なものがあるなら別だけれど、彼の能力は大体把握したしね。さあ、次は私の番だ。
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